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翌朝、僕は村の隣にある、少し大きな街へ向かった。
目的地は、冒険者ギルド。
移動手段は――走り。
金を使いたくなかった。
その判断をした数分後には、もう後悔していた。
(……遠い。普通に遠い)
息が上がり、脚も重い。
途中で何度か「馬車にすればよかった」と思ったが、今さらだ。
村にも小さなギルドはある。
ただ、冒険者登録だけは、この街の大きなギルドでしかできない。
ここで登録してしまえば、
村のギルドでも依頼を受けられるようになる。
ようやく街に入り、
人通りの多い通りを抜けて、ギルドの建物に辿り着いた。
扉を開ける。
中は、思っていたよりも騒がしい。
酒の匂いと、煙草の匂いが混ざって鼻をつく。
(……くさ)
一瞬で帰りたくなった。
とはいえ、目的は一つだ。
僕はカウンターに向かう。
そこには、綺麗な受付嬢が座っていた。
きちんとした服装で、笑顔も完璧だ。
(はえー、これがギルドかー)
場違い感がすごい。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
受付嬢の声に、少しだけ背筋が伸びる。
「あ、えっと……ギルド登録を」
「新人さんですか?」
「あ、はい」
「新規登録ですね。それではまず、こちらの用紙に
お名前と住所などをご記入ください」
差し出された紙を受け取る。
「記入が終わりましたら、魔力測定を行います」
淡々とした説明。
慣れている感じがした。
僕はカウンターの端で用紙に記入を始める。
名前。
住所。
職業――空欄。
(……冒険者志望、でいいのか?)
悩みつつ、最低限だけ書いていく。
記入を終えて、用紙を返すと、
受付嬢は軽く目を通して頷いた。
「では、登録料をお願いします」
金額を聞いて、ほんの一瞬だけ手が止まる。
(……まあ、払える)
懐から、小さな袋を取り出す。
剣術大会の賭けで勝った金。
その一部を、カウンターに置いた。
受付嬢は手早く確認し、問題ないことを示す。
「ありがとうございます。それでは次に、魔力測定へどうぞ」
そう言って、奥を指し示した。
(……ここからか)
ようやく、一歩目だ。
僕は、案内された方向へ歩き出した。




