28
セシリアは、その場で固まっていた。
視線の先にいるのは――
レイン。
けれど、その隣にいるのは自分ではなかった。
見知らぬ生徒たちと、冗談を交わし、笑っている。
(……レイン?)
胸の奥が、ひっかかる。
笑顔は、知っている。
けれど、あんなふうに自然に、誰かと笑っている姿は――。
「セシリア? どうしたの?」
背後から声がかかる。
振り返ると、ヴァレリアが不思議そうにこちらを見ていた。
「そんなに固まって……」
そう言ってから、セシリアの視線の先を追う。
ヴァレリアの目にも、レインの姿が映った。
(……あの平民)
彼女は、彼を知っている。
剣術大会以降、妙に気になる存在として。
(セシリアとは、幼い頃から一緒だったと聞いている)
それなら――
もっと自然に、もっと近い距離で話していてもおかしくない。
なのに。
(……何か、変だな)
ヴァレリアは、そう思ったが、口には出さなかった。
その頃。
ボス部屋の後方、壁際。
僕は、しゃがみ込んだまま、必死に呼吸を整えていた。
(うっ、吐きそう)
体の内側を、魔力が流れ続けている。
押し込まれる感覚は消えない。
けれど――
冗談言えるぐらいには、マシになったな。
魔力を循環させる。
溜めない。流す。逃がす。
頭がぐらつきながらも、立ち上がれる程度にはなっていた。
(……つかれた)
そのとき。
「撤退準備!」
教師の声が、ボス部屋に響いた。
「負傷者を優先!
指示に従え!」
やがて、教師たちの指示のもと、撤退が進められた。
緊張が、少しずつ解けていく。
張りつめていた空気が、現実に引き戻されていく。
僕は、最後尾で歩きながら、何も考えないようにしていた。
考えたら、
きっと、今の状態じゃ耐えられない。
(……外に出られる)
その事実だけを、支えにして、ミレイとカイルとゆっくりと歩き出した。
ダンジョンの闇が、ゆっくりと背後へ遠ざかっていった。




