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27

四階層のボスが倒れた後、

ボス部屋には、奇妙な静けさが残っていた。


白く脈動していた存在は、光の粒子となって消え、

床に刻まれた魔法陣だけが、ついさっきまでの激戦を物語っている。


英雄コースの連中は、まだ息を整えている最中だった。


剣を杖代わりに膝に手をつく者。

魔力切れで壁にもたれかかる者。

それでも、その顔には確かな達成感があった。


――四階層のボスを、倒した。


本来なら想定されていない事態。

それを成し遂げたのだから、当然だ。


少し遅れて、教師たちがボス部屋に駆け込んでくる。


魔力水晶の異常反応を察知して、全力で追ってきたのだろう。


「……信じられん」


教師の一人が、床に残る痕跡を見て呟いた。


「一年生が……四階層のボスを?」


周囲から、ざわめきが起こる。


英雄コースの面々に、賞賛の視線が集まっていく。

称賛、驚嘆、尊敬――

そんな感情が、空気を満たしていた。


一方、その少し後ろ。


ボス部屋の壁際で、

僕はうずくまるように座り込んでいた。


……いや、別に気絶してたわけじゃない。


ただ、体の内側が、どうにもおかしかっただけだ。


魔力が、勝手に巡っている。


押し込まれる、というより――

溢れないように、必死で堰き止めている感覚。


(うっ、吐きそう)


一瞬、視界が歪む。

呼吸が浅くなり、喉の奥が焼けるように熱い。


けど――


逃がす。

押さえる。

流す。


繰り返すうちに、

少しずつ、感覚が掴めてきた。


正常とは言えない。

でも、倒れ続けるほどでもない。


僕は壁に手をつき、

ゆっくりと上体を起こす。


立てる。

……動ける。


まだ最悪の状態じゃない。


そんなことを考えていると――


「……レインさん」


控えめな声が、聞こえた。


顔を上げると、ミレイが心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「生きてますか?」


「……なんか、死が入ってきた気がするけど、大丈夫かな」


我ながら、意味不明な返しだった。


ミレイは一瞬きょとんとした後、

慌てて首を振る。


「えっ、えっ……だ、大丈夫じゃないですか!?」


そこへ、カイルも近づいてくる。


「お前は、うずくまってるだけで、俺たちは、ただ英雄コースの奴らのこと見てただけだしな。俺たち、ほんと役に立ってないな」


「俺たちって、まとめるなよー」


僕は肩をすくめる。


「僕は君たちと違って、ボスを倒したからね!!」


「……レインさん、頭でも打ったんですか?」


ミレイが、真顔で言った。


「お前、下ネタ以外の冗談、言えたんだな」


カイルが、感心したように頷く。


「ひどいな〜」


自然と、口元が緩んでいた。


意識して笑ったわけじゃない。

気づいたら、そうなっていただけだ。


その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。


――セシリアだ。


英雄コースの中心で、賞賛を受けていた彼女は、

ふと、視線を後方へ向けた。


「……レイン?」


そこにいたのは、

壁際で、誰かと笑っているレイン。


(そういえば……)


(レインって、あんな感じで笑ってたこと、あったっけ?)


笑顔は見たことがある。

でも、どこかぎこちなくて、距離を取るような笑顔だった。


今のそれは――

ずいぶん、自然に見えた。


セシリアは、なぜか胸の奥が少しだけざわつくのを感じながら、

その光景から目を離せずにいた。


ダンジョン攻略は、終わった。


英雄たちは称えられ、

誰にも気づかれない場所で、

一人の少年は、静かに“何か”を抱え込んだまま。


物語は、まだ続いていく。


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