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ボス部屋の後方。
僕は、壁際にうずくまっていた。
膝を抱え、背中を丸めて、
完全に――チーン、である。
(……あー、無理無理無理)
体の内側が、まだおかしい。
魔力が流れ込んだ感覚は引いたはずなのに、
血の代わりに、別の何かが巡っているような違和感が残っている。
呼吸を整えようとしても、
胸の奥が、じわじわ熱い。
(死んじゃうって……)
視線を上げると――
部屋の中央では、別世界が展開されていた。
白く脈動する巨大な存在。
四階層ボス
――《不死の胎動エンブリオ=ルクス》。
それに真正面から対峙しているのは、
英雄コースの最強パーティー。
剣聖レイン・グランハルトが、前に出る。
一歩踏み込むだけで、空気が変わる。
光を纏った剣閃が走り、
ボスの装甲じみた外殻を、正確に削り取る。
「次、来る!」
その声に即座に反応するヴァレリア・アストリア。
詠唱は短く、無駄がない。
展開された防御魔法が、
ボスの反撃を“当然のように”受け止めた。
「今です!」
セシリアが前に出る。
迷いのない動き。
剣と魔力が一体化した一撃が、エンブリオ=ルクスの動きを鈍らせる。
「ルキウス!」
「任せろ!」
脳筋――だが、信頼できる男。
ルキウスの一撃は、単純で、重い。
力任せに見えて、
完全に“ここだ”という場所を叩き潰していた。
後方ではノアが魔力制御を続け、
全体を支えている。
完璧な連携。
完璧な役割分担。
――眩しい。
(……すごいな)
素直に、そう思った。
僕はというと。
壁際で、うずくまっている。
戦っていない。
役に立っていない。
指示も出していない。
ただ、生きているだけ。
(ほんと、僕は、変わらないな。)
英雄でもない。
主役でもない。
ちょっと運が悪くて、
ちょっと余計なことをして、
体の中をおかしくしただけの――
(……はぁ)
目を閉じる。
戦場の音が、遠くに聞こえる。
剣がぶつかる音。
魔法が炸裂する音。
仲間を呼ぶ声。
全部、僕のいる場所とは別の世界だ。
(なんでこうなるんだ)
後悔が、遅れて胸に落ちてきた。
ダンジョンは、まだ続いている。
戦いも、終わっていない。
でも――
この瞬間だけは。
僕は、完全に“場違い”だった。




