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四階層のボスが現れ、
前方は完全に戦場になっていた。
怒号。
剣戟。
魔法の閃光。
全員の意識が、そっちに向いている。
(……うん、やっぱり誰もこっちを見てない。)
僕の視線は、自然と足元へ落ちていた。
割れた地面の端。
瓦礫の陰。
そこに――
**屍核侯ネクロ=ヴァルムの“核”**が残っていた。
砕けたはずの核。
完全に消滅したはずの存在。
だが、黒く濁った塊は、
まだ脈打つように微かに動いている。
(生きてる)
はっきりと、そう分かった。
(あー……)
(これ、完全にトドメ刺されてないやつだ)
理由は考えない。
考えてる余裕もない。
放っておいたらどうなるか――
それだけは、直感で理解できた。
僕は、剣を握り直した。
派手な構えはしない。
ただ、近づく。
一歩。
また一歩。
死霊の核は、逃げない。
抵抗もしない。
まるで――
最後を待っているみたいだった。
(じゃあ、終わらせよう)
僕は、剣を振り上げ。
真上から、叩き落とした。
刃が、核の中心を正確に貫く。
ぐしゃり、と嫌な感触。
次の瞬間。
――――――――――
爆発するように、魔力が噴き出した。
「っ……!?」
屍核侯ネクロ=ヴァルムの残滓。
圧縮されていた死霊の魔力が、
行き場を失い――
全部、僕に流れ込んできた。
(えっ、なにこれ、なにこれ)
胸の奥が、焼けるように熱い。
いや、違う。
冷たい。
重い。
生き物じゃない感覚。
(ぬおーー……っ)
身体の内側から、無理やり押し広げられる感覚。
この世界の人間は、
魔力を外へ逃がすためのゲートを持っている。
でも僕のゲートは小さい。
魔力量が少ない人間の、それだ。
そこに――
ボス級死霊の魔力が、丸ごと流れ込んできた。
耐えられるわけがない。
視界が揺れる。
膝が、わずかに折れそうになる。
それでも。
核は、完全に砕け散った。
今度こそ、何も残らない。
屍核侯ネクロ=ヴァルムは――
確実に、死んだ。
前方で、叫び声が上がる。
四階層のボスが、動き出したのだ。
誰も、振り返らない。
誰も、僕を見ていない。
だから誰も知らない。
三階層のボスに
本当の意味でトドメを刺したのが、僕だということを。
そして――
その代償が、今まさに身体を蝕み始めていることも。
ダンジョンは続く。
でも、
僕の中の何かは、もう戻らなかった。
(なんで、こうなるんだ…)




