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三階層のボスが崩れ落ちた瞬間、
ダンジョンに張りつめていた緊張が、ふっと緩んだ。
「……終わった、か」
誰かが小さく息を吐く。
死霊の気配は霧散し、魔物の咆哮も聞こえない。
三階層攻略。
例年通りなら、ここで終了――のはずだった。
その時だ。
――ズズ……ッ
微かな、しかし確実な振動。
足元の石畳が、嫌な音を立てて軋んだ。
「……?」
空気が、重い。
聖剣レイン・グランハルトが、眉をひそめる。
「……なんだ、これは」
次の瞬間。
――――ドンッ!!!
地面が、割れた。
床下から突き上げるような衝撃に、全員が体勢を崩す。
裂けた地面の奥から、白く眩い光が漏れ出した。
「下から……!?」
「四階層のボス。不死の胎動(エンブリオ=ルクス)……!? そんなはず――!」
叫び声が飛び交う。
通常、三階層の先は行っては、いけない。
少なくとも、一年生が立ち入る範囲には。
裂け目の奥から、何かが這い出てくる。
――光を纏った異形。
死霊とは真逆の、生命を誇示するような存在。
「……臨戦態勢!!」
ヴァレリア・アストリアの号令で、先頭集団が一斉に構えた。
魔法陣が展開され、剣が抜かれる。
誰もが、その“新しい脅威”に目を奪われていた。
――ただ一人を除いて。
(……ん?)
僕の視線は、自然と別の方向に向いていた。
四階層のボスじゃない。
割れた地面でもない。
倒したはずの――
三階層ボスの残骸。
完全に消えたと思っていたそれが、
妙に“形を保ちすぎている”。
(……おかしい)
直感だけだった。
理由なんてない。
でも、嫌な感じがした。
「おい」
横から、声。
「こんな時に、どこ見てんだ」
カイルだった。
周囲が四階層ボスに集中する中、僕の視線の先に気づいたらしい。
「……何かあるのか?」
「いや」
僕は小さく首を振る。
「まだ、終わってない気がしてさ」
カイルは怪訝そうな顔をしたが、
すぐに前方へと意識を戻す。
「――来るぞ!」
四階層のボスが、完全に姿を現した。
白く脈動するその存在が、
ダンジョン全体を震わせる。
誰もが“次の戦い”を見ている。
僕だけが――
過去に倒したはずの死を見ていた。
(気のせいか?)
(……いや)
胸の奥が、ざわつく。
ダンジョンは、まだ何かを隠している。
その確信だけが、
はっきりと残っていた。




