18
ガルドの拳が、振り上げられた。
躊躇はなかった。
さっきまでの苛立ちを、そのまま叩きつけるような動き。
――来る。
僕は半歩だけ前に出て、その拳を手のひらで受け止めた。
「……っ!?」
ガルドの目が見開かれる。
「おい」
僕は低く、はっきりと言った。
「一度負けた、負け犬が。調子乗るなよ」
自分でも驚くほど、声に怒りが乗っていた。
もう弱腰を演じる気はなかった。
ガルドは一瞬、確かに怯んだ。
ほんの一瞬だけ。
だが、すぐに歯を食いしばり、後ろへ下がる。
「……やれ」
その一言で、取り巻きが動いた。
「任せろ!」
一人が魔力を練り上げる。
風魔法――直線的で、威力重視のやつだ。
(正面から来る。単純で、読みやすい)
僕は攻撃を構えなかった。
代わりに――
足元へ、水を放った。
狙いは地面。
量は最小限。
ただ、土を濡らすだけ。
水は瞬時に広がり、土と混ざって泥になる。
次の瞬間。
「うおっ!?」
風魔法を放とうと踏み込んだ取り巻きの足が滑った。
体勢が崩れ、魔法は狙いを外れて空を切る。
「なっ――」
僕は、その隙を見逃さない。
泥水を掬い上げるように操り、顔面へ叩きつけた。
「ぐっ!? 目が――!」
視界を奪われ、取り巻きは転倒する。
周囲が一気にざわついた。
「な、何しやがった!」
「水魔法だぞ!? ただの水だろ!」
(そうだよ。ただの水だ)
でも――
使い方が違うだけだ。
ガルドが歯噛みする。
「……クソ……!」
もう一人が動こうとするが、僕は静かに言った。
「次、動いたら同じだよ」
足元を見せるように、軽く水を滲ませる。
それだけで、取り巻きたちは踏み出せなくなった。
沈黙。
僕は、上を向いて――
鼻で、一度だけ笑った。
バカにしてくる奴をボコるのは、
気持ちいぜ。
ガルドは何も言えず、ただ睨み返してくる。
(……これが続くなら)
(もう一回、ボコるだけだ)
僕は、ゆっくりと踵を返した。
背中越しに、誰も追ってこなかった。




