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※この物語は、

正々堂々では勝てなかった凡人が、

生き残るために汚い戦い方を選ぶ話です。


主人公は善人でも英雄でもありません。

 僕の名前はレイン。異世界のとある農村に生まれた。見渡す限り畑と森しかない、どこにでもある村だ。


「将来は英雄になろう!!」


 そう言って笑ったのは、幼馴染のセシリアだった。

 あの頃の僕は、その言葉を疑いもしなかった。努力すれば、夢は叶う。そういうものだと思っていたからだ。


 十五歳になり、王都にある魔剣士学園の入学試験を受けることになった。

 村から王都までの道のりは長く、胸の奥には期待と不安がごちゃ混ぜになっていた。


「一緒に頑張ろうね」


 幼馴染は、当然のようにそう言った。

 僕も、当然のように頷いた。


「うん!!!」


 ――結果が出るまでは。


 入学試験の結果は、残酷だった。

 幼馴染は、トップの成績。

 僕は、合格最低ライン、ギリギリ。


「一緒に受かれてよかった!!」


 そう言って喜ぶ幼馴染の笑顔を見て、僕は――嬉しくなれなかった。


 現実を知ってしまったからだ。


 僕には、特別な力なんてなかった。

 天才的な才能も、神に愛された資質もない。


 同じだけ努力した。

 むしろ、僕の方が多く剣を振った日もある。

 それでも、成果は圧倒的に違った。


 ――ああ、そういうことか。


 その瞬間、ようやく理解した。

 この世界には、どうしようもない差がある。


 幼馴染は、特別だった。

 僕は、ただの凡人だった。


 きっと、幼馴染は知らない。

 自分の隣に立っていた人間が、どれだけ絶望していたかなんて。


 その日から、僕は少し腐った。


 ……いや、正確に言うなら、

 入学試験の前から、薄々気づいていたのかもしれない。


 僕が努力して「できるようになったこと」と、

 幼馴染が努力して「できるようになったこと」。


 その差が、最初から、埋まるはずのないものだったということに。


 ――英雄?


 無理だろ。


 そう思った瞬間、胸の奥で何かが音を立てて折れた。


 それでも僕は、魔剣士学園の門をくぐった。

 諦めきれなかったわけじゃない。


 ただ――

 もう、正面から戦う気が失せただけだ。


 この世界は、才能ある者が正々堂々と勝ち、

 才能のない者は、努力しても踏み台になる。


 だったら。


 正々堂々なんて、やらなくていい。

 勝てる方法を選べばいい。


 それだけの話だ。


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