01
※この物語は、
正々堂々では勝てなかった凡人が、
生き残るために汚い戦い方を選ぶ話です。
主人公は善人でも英雄でもありません。
僕の名前はレイン。異世界のとある農村に生まれた。見渡す限り畑と森しかない、どこにでもある村だ。
「将来は英雄になろう!!」
そう言って笑ったのは、幼馴染のセシリアだった。
あの頃の僕は、その言葉を疑いもしなかった。努力すれば、夢は叶う。そういうものだと思っていたからだ。
十五歳になり、王都にある魔剣士学園の入学試験を受けることになった。
村から王都までの道のりは長く、胸の奥には期待と不安がごちゃ混ぜになっていた。
「一緒に頑張ろうね」
幼馴染は、当然のようにそう言った。
僕も、当然のように頷いた。
「うん!!!」
――結果が出るまでは。
入学試験の結果は、残酷だった。
幼馴染は、トップの成績。
僕は、合格最低ライン、ギリギリ。
「一緒に受かれてよかった!!」
そう言って喜ぶ幼馴染の笑顔を見て、僕は――嬉しくなれなかった。
現実を知ってしまったからだ。
僕には、特別な力なんてなかった。
天才的な才能も、神に愛された資質もない。
同じだけ努力した。
むしろ、僕の方が多く剣を振った日もある。
それでも、成果は圧倒的に違った。
――ああ、そういうことか。
その瞬間、ようやく理解した。
この世界には、どうしようもない差がある。
幼馴染は、特別だった。
僕は、ただの凡人だった。
きっと、幼馴染は知らない。
自分の隣に立っていた人間が、どれだけ絶望していたかなんて。
その日から、僕は少し腐った。
……いや、正確に言うなら、
入学試験の前から、薄々気づいていたのかもしれない。
僕が努力して「できるようになったこと」と、
幼馴染が努力して「できるようになったこと」。
その差が、最初から、埋まるはずのないものだったということに。
――英雄?
無理だろ。
そう思った瞬間、胸の奥で何かが音を立てて折れた。
それでも僕は、魔剣士学園の門をくぐった。
諦めきれなかったわけじゃない。
ただ――
もう、正面から戦う気が失せただけだ。
この世界は、才能ある者が正々堂々と勝ち、
才能のない者は、努力しても踏み台になる。
だったら。
正々堂々なんて、やらなくていい。
勝てる方法を選べばいい。
それだけの話だ。




