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竜頭の鉄巨人②

『キオネー!』

 巨人は駆けるリディアを追った。身体強化の魔法と聖戦士の装備を身に着けたリディアと五分の早さだった。

 老人の声が響く。

『ええいこの駄馬めが、もうよい好きにしろ! かくなる上はこの体と我が魔力を貸してやる! 貴様の思うままに殺戮し、一人でも多くの魂を我に捧げよ!』


 その言葉とともに巨人の背中にある箱から、ベルトのようなものが伸びた。連なる銃弾の帯だ。それが生き物のように伸びて、巨人の右腕の機関銃に接続された。

「ああ、不味いかも……」

 リディアは苦し紛れの笑みをこぼしながら、パラスの力場を展開した。


 直後に、巨人の機関銃が火を噴いた。三つの銃口が回転しながら銃弾を発射する。

 リディアはセレネをかばうように常に左半身を巨人に向け、盾を展開して駆ける。避けきれない弾が力場に当たり、強烈な衝撃が来るが、それでもリディアはよろめくのをこらえて駆けた。

『ルディーン! お前もキオネーをかばうのか!』

 また巨人が叫ぶ。

「私までご先祖様に見えるわけね……!」

 リディアがつぶやく。



 巨人は銃を止めた。その背中の箱から二条の火が地に向けて噴射された。そして巨人の体が宙を飛ぶ。


 巨人の左腕ではドリルがうなりを上げ、その先端がリディアに向いた。

「リディア卿!」

 避けきれないと悟り、足を止めて盾を構えるリディアの横に、ひとりのバトルメイジが並んで結界を展開した。キモンだ。

 ふたりの重なる結界にドリルが突き立つ。

「ぐ……!?」

 衝撃でふたりが後ずさる。ドリルの先端が力場を突き抜け、なお回転しつつじりじりと力場の穴を広げながら、リディアの眉間に迫る。


 その巨人の腕に、横からギデオンの放った銃弾が直撃した。

 その威力に巨人の腕は弾かれ、ドリルはリディアらの盾の力場から離れた。ギデオンの銃は巨人の金色の装甲に白く光る穴を開け、表面をひしゃげさせたようだが、その腕を破壊するには至らなかった。

「離れろ!」

 ギデオンは猛牛のように駆け、銃を背中に回すと、腰の大剣を抜いた。

「うおお……!!」

 そして裂帛の声とともに、銃の付いた巨人の右腕を斬り上げた。

 耳が痛くなるような甲高い音が響き、白い閃光とともに赤い火花が散った。その斬撃は巨人の腕を弾き飛ばしたが、表面の青銅を裂いただけで、中の黒い鉄には、わずかに斬り込みを入れただけだった。


 ギデオンは舌打ちののち、

「お嬢、離れろ!」

 リディアは小さくうなずくと、セレネを抱えたままそこから走り去る。

『邪魔立てするか、おお、勇敢なる雑兵どもめ!!』

 斬りつけ弾き飛ばした巨人の右腕が、振り子のようにギデオンに迫る。キモンの結界はまだ再構築されていない。


「ち……!」

 ギデオンが何か短く唱えると、軍装の小手が淡く光り、ギデオンの一歩先にの空間に、パラスのような力場を形成した。

 それは巨人の右手を一瞬止めたが、閃光とともにガラスのように宙に弾け、小手が閃光とともに煙を吹いた。そしてなお迫る巨人の腕を、ギデオンは剣で受けた。

「ぐ……!」

 鍛え上げた肉体と、身体強化の魔法と、付呪の施された装備の力によって、ギデオンはかろうじてこらえた。踏みしめた両足が芝生をえぐり、物言わぬ剣は青い光を悲鳴のごとく放ちながら歪む。


 キモンは結界を再構築せず、愛用の杖とは違う、教鞭のような、伸縮する細い杖を腰から取り出し、呪文によって伸ばした。口の中で続く呪文を唱えると、その杖に雷電が走る。

 その杖を巨人に伸ばすと、青銅の体目掛けて雷光が走った。

『ぐわ……!』

 男の悲鳴が響いたが、それを押し退けるほどの鉄のきしむ悲鳴が高々と響き、巨人はその身をのけぞらせる。

「電撃は有効なようですね……!」

 キオンは額に汗かきながら、雷撃を放った杖を放り投げ、愛用の杖から結界の再構築を始める。


「......!」

 すかさず、今度はひしゃげた大剣を投げ捨てたギデオンが、巨人の下顎めがけ、片手撃ちで銃を放つ。

『おお……!?』

 よろける巨人から、男の声が漏れる。怨嗟で満ちていたそれまでの声と違い、何か、熱のようなものを帯び始めていた。


『何をしているエウメロス! この体と武器を得ながら、たったふたりの雑兵に手こずるのか!』

 老人の苛立った声が響く。しかし、その言葉の言い終わらぬうちに、

『よかろう、雑兵ども!』

 泥のような恨み嘆きの声でなく、熱のある怒りに張りあげられた声が、老人の声を制した。

『邪魔だてするならまずは貴様らを血祭りにあげてくれる! おお、勇敢なる者ども、存分に戦おうぞ!』

 キモンと、その結界の内に退避したギデオン目掛け、ドリルのある腕を振り上げた。


「こっちは避難完了までの時間を稼げればそれでいいんですけどね!」

 キモンはまた、投げ捨てた細い杖と同じものを取り出した。彼の腰のベルトには、同様のものがあと三つくくりつけられている。

 キモンは巨人が結界にとりつく前に、雷撃を放つ。一瞬動きを止めた巨人の胸目掛け、ギデオンが発砲し、巨人をよろけさせる。


 また杖を投げ捨てるキモンに、ギデオンはグレネードを取り出しつつ叫ぶ。

「その杖、一発撃ったら打ち止めかよ!」

「私はアタッカーじゃありません! 攻撃魔法は得意じゃないんです! これはもしもの時のための使い捨てなんですよ!」


 巨人はすぐに体制をととのえ、ふたりに襲い掛かろうとする。人々の避難はまだ済んでいないようだ。

 そこに、

「キモン、ギデオン!」

 リディアが駆け戻ってきた。


 彼女はギデオンの横に立つとパラスの力場を展開して、キモンの結界と合わせ、巨人のドリルの一撃を止める。

 力場が削れ、青白い火花が散る中、ギデオンが投げたスタン・グレネードが巨人の胸に投げつけられ、電撃を走らせ、その動きを止める。

「ふんっ!」

 リディアの矛が走る。それはドリルの付け根を狙った。黄金の鎧は容易く切り裂いたが、その下の竜骨を切断することはかなわない。ただし、ギデオンの大剣よりも深く食い込み、その傷は熱を発するように白く光る。

「固っ……!」

 リディアの顔が歪む。水晶の剣をもっても容易くは切り裂けないようだ。


「お嬢、セレネ嬢は!?」

 ギデオンが巨人の首元目掛け発砲しながら叫ぶ。

「大丈夫、預けてきた!」

 ちらと目をやると、セレネは近衛隊の兵たちに守られながら避難している。


 リディアは矛を脇に構え、よろける巨人の体を蹴って駆け上がり、ギデオンが撃った喉元めがけて刃を突きだす。

「やっぱ固っ......!!」

 必殺の一突きは、耳が痛むような音と白い火花を放ったが、致命の一撃にはならなかった。


『またその剣か! この体には届かぬようだな!』

 老人の声が響くが、それが言い終わらぬうちにまたしても、

『ルディーン!!』

 男の声がとどろく。そして銃のある腕を振るい、空中で体制を崩すリディアに殴りかかろうとしたが、

「お嬢、貸せ!」

 そう叫んだギデオンにリディアは矛を投げる。矛の刃は彼女の手を離れた時点で減衰を始めたが、矛を受け取ったギデオンは、それが消える前に、巨人の膝めがけて水晶の刃を叩きつけた。

 リディアは盾の力場を形成すると、軌道のずれた巨人の腕を力場で受け流し、空中で一回転して着地する。

 キモンがその横に出て結界を張り直し、ギデオンは刃が消えた矛の柄をリディアに投げて寄越す。


 一度膝を崩しかけた巨人は、今度はゆっくりと身を起こし、身構える三人を見下ろす。

『ルディーン! おお、勇猛なる雌狼(めすおおかみ)よ! 性懲りもなく挑みに来たか!』

「私はご先祖じゃないって言ってんでしょ!」

 言いながら、ちらと避難の状況を見る。まだ、完了していない。

(もう少しこらえろ、リディア卿。避難が済み次第応援に行く)

 王太子つき聖戦士から念話が来る。


 すぐそばで対峙している分には、あの機関銃を撃つ気配はないし、撃たれそうになっても対応できる。


 またも巨人はドリルの腕を振り回しながら迫ってきた。キモンがそれに雷撃を浴びせ、ギデオンが銃を放ち、リディアが盾を構えて飛びかかる。


 しかしその戦いを見て、タロッソスの市長が警護の魔術師に命じた。

「見ろ! 雷の魔法は有効だぞ! 我々も電撃魔法で援護するんだ!」

 そのとき、ちょうど飛び退くリディアを援護して、ギデオンがスタングレネードを投げていた。


 市長の目と声は、興奮と言うよりも、錯乱と言うべきものを帯びていた。

 命じられた魔術師もまた同じだった。彼は返事もそこそこに、上擦った声で呪文を詠唱し始める。

 それに連鎖して、警備に参加していた陸軍所属の魔術師の一部も、詠唱を始めた。


 気づいた近衛の隊長らが声を上げる。

「よせ、まだ避難している人もいる!」

 その声も届かず、次々に雷撃の魔法が放たれた。


 はっと気づいたキモンも叫ぶ。

「そんな遠くから雷撃を放っても……」

 気を取られ、結界が乱れたキモンに巨人の腕が襲いくる。気づいたキモンは慌てて結界を強化するが、力場ごと殴り飛ばされた。

 ギデオンは舌打ちとともに巨人から離れ、キモンが地に落ちる前にその身を抱えた。リディアも状況に気づき、巨人の腕を跳んでかわし、ふたりを追う。


『なぜ逃げる! 戦え!』

 彼らに銃口を向けた直後に、巨人に電撃が降り注いだ。

 巨人はのけぞり、動きを止めた。

 ややあって、巨人は雷撃を浴びながらも、その首をゆっくりと回す。

 その視線は、自分を殺そうとする魔法使いたちに、そして、彼らの先で戸惑う顔を見せるテルセウス王子に向けられた。

『なぜ……!』


 巨人を襲う雷撃はすぐに止んだ。止めたのでなく、魔力切れを起こしたのだ。何人かの魔術師が動揺した顔を見せている。

「いや、雷撃魔術は遠くに放つほど莫大な魔力を消費するんですよ! あんな距離から撃ったら、すぐに打ち止めでしょうが!」

 キモンが思わず叫んでしまった。


 巨人の両腕が振り上げられ、男の錯乱した叫びが響く。

『なぜだ! なぜだ……!』

 振り上げた右腕の機関銃が火を噴いた。それは天に向けて弾丸を吐いてから、狂ったように振り回された。


「あっ……!」

 リディアらは慌てて公園の店舗の影に隠れ、盾と結界の力場を展開した。

「事態が悪化したじゃねえか!」

 身をふせ悪態をつくギデオンの頭上で、銃弾が結界を叩く。


 建物に逃げ込む人々の殿についていた聖戦士たち、結界魔法が使える近衛兵たちが守りの力場を発生させる。

 それでも弾の全ては防ぎきれない。建物の窓が割れ、壁や柱が砕け、その破片を受けて痛みに叫ぶ者も出た。


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