2-1 いざルナルール国へ
次の日お城の馬車でこっそりと皇城を後にした。
皇帝一家のお忍び用で、外見は辻馬車と同じぐらいだが、
内装はかなり凝っている、座席もふわふわで、
お尻も痛くならずに済みそうだった。
馬車に揺られる事3日、
途中宿に泊まりながら国境を目指す。
日本人だった時、海外旅行に憧れつつも、
お金や言葉に違いに、踏み出せずにいた。
この乙女ゲームの世界では、言葉は世界共通なので、
言葉の心配はないし、文化の違いは楽しみなぐらい。
完全に旅行者気分で浮かれながら、窓の外を見る。
都心を離れてからは、田舎の畑が多く、癒される。
御者も最初は高慢な公爵令嬢とびくびくしていたが、
もう家を追放されて平民だと、フランクに話しかけると、
すぐに打ち解け、様々な事を教えてくれた。
そんな楽しい3日間を過ごしていると、
あっと言う間に関所に到着。
関所で御者が鎧を着た門番に話しかけ、
私はあっさりと通される。
関所は少し深い森の中にあり、
ルナルール国の最初の街には、徒歩2日程で着ける距離との事だった。
御者はこれから徒歩で向かう事を心配していたが、
旅行気分で浮かれていた私は、
全然大丈夫と笑顔で別れを告げる。
馬車旅行の次はトレッキングね~と
るんるんと歩いて、数時間歩いた後、
森の中で誰もいない事を確認して、服を着替える。
エリーゼにもらった服の中から、
スポーツウェアのジャージみたいな上下の服を選ぶ。
万が一虫がいた時の為、長袖長ズボンだ。
どこか民族衣装のような模様も入っており、
ちょっとこだわりが見える品にテンションが上がる。
足に付けていた、収納ブレスレットは左腕に付けた、
そうして準備をしていると、ゴソゴソと音がする。
モンスター?
この世界には、日本とは違いモンスターが存在する、
簡単に言うと、襲ってくる動物だ。
私は鞭を出し構える、するとウルフが3頭程少し離れた場所に、
姿を現した。
始めての戦闘ね。
鞭をフュンと音を出して振る。
うん、絶好調。
ウルフがどの程度強いか分からないが、
エリーゼの話ではダンジョンの奥に行くほど強い敵が
出て来るという話だった。
元々パラメータを上げるゲームで、戦闘ゲームではない。
道を少し入った所で出てくるモンスターなら、
さほど強くないはずと、気合を入れる。
「来ないの?じゃ、こっちからいっちゃうわよ」
ちなみに、獲物に当てる腕と言う意味では私は上級者だ。
しかし、いかんせん力がない、
攻撃力という意味では、話にならない程度だが、
それは鞭が無茶苦茶高級品で、攻撃力をかさまししてくれる、
鞭の性能を信じているからの行動だ。
じりじりと近づいて、距離を測り、
動きを読んで鞭を振るう。
ウルフが襲いかかろうと動くが、
動きが一直線の為、動きや読みやすい。
バシ!バシ!バシ!
鞭がモンスターに当たる手ごたえを感じる。
ウルフはグオワンンと声を上げて、その場に倒れた。
あら、あっさり倒れたわね。
鞭の扱いには自信があった、
当たりさえすれば倒せると思っていたが、あまりのあっけなさに
拍子抜けである。
「これなら結構余裕かも」
ウルフを収納ブレスレットに入れながら呟いた。
その後、お約束のスライムのようなモンスターや、
鷹か鷲のようなモンスターも倒しながら、
どんどん道を進んでいく。
国境から最初の街までは、馬車も通れる大きな道が敷かれ、
まず迷う事もない。
1日歩き通して、2日目、
私はかなり体力を消耗していた。
「ちょっと舐めてたかな・・・・」
るんるんと旅行気分だったのが、
多少休憩を挟むといいながらも、ずっと歩き通しは、
流石に疲れてきた。
スマホもないので、後どれくらいかも分からない、
モンスターがいつ襲ってくるか分からないという、
緊張感も、私を疲弊させた。
「眠たい・・・」
夜はモンスターが活発になるので、眠る事はできない、
昼間ならましとはいえ、ごろんと横になっていると、
ウルフの餌になりそうで、どうしても抵抗がある。
それに、一番あてが外れたのが、
この体の体力だろう。
ろくに運動もしていない公爵令嬢、まったく体力がない。
ちょこちょこ回復魔法を使っているが、
回復魔法を使う事でまた疲れるという悪循環。
「ああ・・・宿が恋しい」
そうしていると、雨が降ってきた。
「もう!最悪」
先に進むのを諦め、大きな木の下に入る。
それでも、葉の間から雫がおち、
完全な雨宿りとはいかなかった。
「はあ、エリーゼの言う通りだったな」
ついつい弱音を吐いてしまう。
エリーゼからもらったサンドイッチを食べる、
バゲットに野菜やハムがふんだんに入った
サンドイッチは、ささくれだった心を癒してくれる。
本当はウルフの肉なのども食べれると思うが、
捌く勇気はない、それに火もおこせない。
エリーゼは火打石を入れてくれていたが、
石をこんこんとしても火が付かなかったのだ。
ああ、コンロって凄かったんだな、と現実逃避する。
サンドイッチを食べ終わった後、
毛布を出して体を包む。
雨で冷え切った体には、ふんわりとした優しい暖かさが、
ほっこりとさせた。
ああ・・・眠い。
眠ってはいけないと思いつつ、
昨日からの疲労でついうとうとしてしまう。
ここにはモンスターもいるのに・・・
寝ちゃ駄目・・・ねちゃ・・・
そう思いながら、木にもたれかかっていた。