8-3 (リュミエール視点)
セレーネから友人がアパートに訪ねてきていると、
話があった。
最初は遠慮しようかと思ったが、
紹介したいと言われ、アパートへ行く事にした。
友人を紹介してくれるなんて嬉しいなと、
軽い気分で料理長に頼んで作ってもらった
マカロンを持ってアパートに向かう。
扉をコンコンとノックすると、
笑顔でセレーネが迎えてくれた。
「今日は、今日はお招きありがとう」
「リュカ様、いらっしゃい」
笑顔でセレーネが迎えてくれて、
テンションが一気に上がる、
ああ今日も可愛い、いや一段と可愛い・・・
そんな事を考えていると、
アパートにいる男性に目が入った。
どうして男性がここにいる?
友人とは聞いていたが、まさか友人とは男性だったのか?
泊まったとも聞いていたので、黒い気持ちが、
自分の中に渦巻始める。
誰であれ、セレーネは渡すつもりはない。
友人とは聞いていても、嫉妬の気持ちは
押さえらずに、思わずセレーネを抱きしめる。
マカロンの箱がコトンと音を立てて落ちるが、
気にしてなどいられない。
その間も、アパートにいた男を見るが、
私がセレーネを抱きしめても、眉1つ動かさなかった。
動揺しない?セレーネに好意はないのか?
ますます混乱する。
そうしていると、廊下から1人の女性がやってきた。
セレーネとはまたタイプが違うが、
意志の強そうな瞳をもった、美人である。
その女性は、目を見開き、
あらあら~とつぶやく。
どうやらこの状況を察したらしいが、
誰かも分からないので、下手な事は言えない。
「エリーゼ」
私の腕の中でセレーネが声を上げる、
セレーネと呼ばれた女性が私達を見ている事を考えると、
この女性がセレーネの友人なのか?
相変わらず無表情な男がセレーネのアパートから出て行く、
その事にほっとし、幾分か気持ちが落ち着いた。
「エリーそろそろ帰ろう」
そう言って、無表情な男はエリーゼと呼ばれた女性の
腰に手をまわす。
そこであれ?と思う。
ひょっとして、この二人がカップルなのか?
自分の勘違いに、一気に頭が冷える。
エリーゼをエスコートしようとする男性を、
エリーゼが振り切って自分の前にやってきた。
「初めまして、リュカ様ですね、
噂はかねがね、で、セレーネのどこが好きなんです?」
いきなりのぶしつけな質問だったが、
私は気にしなかった。
むしろ、妬かせてくれた男に聞こえるように言う。
「もちろん全部だよ、美しい瞳はもちろん、
優しい性格も、いつまでも握りしめていたい手も、
誰よりもセレーネを愛している、一番大切な人だ」
きっぱりと言い切った私の目を、
ふう~んとエリーゼは覗き込む。
その視線をまっすぐに受け止める。
「ま、合格かな」
「ちょっと、エリーゼったら」
抱きしめたままだったセレーネが抗議の声を上げる。
そんな必要はないのに。
「いくぞ」
無表情な男がエリーゼを再度エスコートする、
今度はエリーゼは素直に従った。
「来月、結婚式するの、ぜひ来てね」
「もちろん!」
そんなやり取りをする二人を見守り、
あの男、婚約者を迎えに来ただけかと、
改めて自分に言い聞かせる。
自分の中にこんなに強い気持ちがある事を、
今まで知らずにいた、
絶対、誰であってもセレーネは渡したくない。
いや、絶対に渡さない。
そう心に誓った。




