5-3
あっと言う間の5日間、ガルガンティア山脈に到着した。
「セレーネさん、この後の予定は?」
一緒の馬車に乗っていた、気のいいおじ様が聞いてこられる。
「この辺りは初めてですので、ゆっくりしようと思います」
まさか”盗賊の財宝”が目的ですとは言えないので、
誤魔化す。
「実は、私はこの辺りを治める領主なのです、
せっかくの旅人を歓迎したい、屋敷にいかがですか?」
また無一文なので、宿代を節約できるのは嬉しいが、
何も返す物もなく、タダで宿泊するのは気が引ける。
そんな気持ちを察したかのように、領主が続ける。
「実は妻が病気なのです、王都にいったのも、
ポーションが出るようになったと噂を聞いたから、
一応ハイポーションも手にいれましたが、
回復魔法の使い手に回復してもらえるとより元気になるかと」
そうゆう理由ならと、
「わかりました、お世話になります」
と答えた。
領主様はいい人らしく、使用人に慕われている事がよく分かる、
悪い事も起こらないだろうとお言葉に甘える事にした。
領主の館に向かい、びっくりしたのが、
その庭園の広さである。
幾何学模様に低木が植えられ、周りには果実の木が、
木の実をたわわに実らせている。
屋敷の前には噴水もあって、小川が流れ、
魚が泳いでいる姿が見える。
領館は王都とは違い、石造りだが、
屋敷と言うよりは小さなお城といった趣である。
内部も石がむき出しだが、所々に高級品のロウソクが立てられ、
綺麗な絨毯やタペストリーが、優美さを醸し出していた。
最初はワインとチーズで歓迎を受けた後、
奥様がいる寝室へと向かう。
これは・・・・・
回復魔法をかけながら、確信する。
単なる病気、衰弱ではない、
いわゆる呪いの一種だ。
そして、エリーゼからの手紙では、
呪いはアイテムによりかかり、それを破壊すれば解除できる。
幸い、旦那様が献身的に看病したおかげだろう、
まだ奥様には生気がある。
最初に歓迎を受けた部屋に戻り領主に話す。
「奥様は呪いにかけられているようです」
「流石、お分かりですか」
領主も呪いである事は知っていたのだろう、
回復魔法をいくらかけても、ハイポーションを使っても、
呪いは解けないと知っていても、
何もせずにはいられなかったのだ。
その気持ちを考えて、胸が痛む。
「呪いのアイテムを破壊すれば、
奥様は元に戻るはずです」
「妻の呪いのアイテムは、盗賊が持っていました、
盗賊は妻を呪いにかけて脅したのです」
「そんな!」
驚きながらも、同時に”盗賊の財宝”に呪いのアイテムが
あればと希望を抱く。
ただ、この場で言う事はできない、
もし呪いのアイテムがなかったら、期待させただけ
落胆させるだろうし、そもそも、”盗賊の秘宝”が
手に入るか賭けの部分も多いのだから。
「奥様、目が覚められるといいですね」
今はこれを言うのが精いっぱいだった。