4-1 初めてのデート(リュミエール視点)
久しぶりに大聖堂に行く事になった。
王太子の妃は聖女と決まっている。
その聖女が住まう大聖堂に定期的に行って、
聖女達と交流を深めるのは、任務でもある。
いつもは、聖女達とお茶会をするだけで、
貴族のパーティとなんだ変わらなかったが、
今日はいつもとは違う。
10日前、凄く美人な女性を保護し、大聖堂に預けた、
回復魔法の使い手で、もう聖女として認められ、
大聖堂での生活に慣れてきた頃だろうと思う。
今日の目当てはその女性だった。
名前はセレーネ、聖女はそう多くない、
すぐに交流できるだろう。
もう見慣れた大聖堂を奥にと進む、
王宮から連絡が行っているので、聖女達が集まっているだろう。
いつも聖女達とお茶をする部屋に足を踏み入れる、
11人の聖女が立ち上がり、一斉に頭を下げる。
「今日は、今日もよろしく」
その言葉に、皆が顔を上げる。
嬉しそうな者、獲物を狙う目をした者、おどおどした者、
様々な目で私を見つめてくる。
全体を見渡して、あれ?と思う。
「セレーネは?」
席にも就かず、女性を訊ねた事に、
聖女達からざわめきが起こる。
周りをきょろきょろしているが、名乗り出る者もいない。
しばらくして、法衣を着た聖女ではなく、
大聖堂の管理を行っているシスターの服を着ている女性が
声を上げた。
「ひょっとして、10日程まえ、
王太子様がお連れなされた女性ですか?」
「ああ、そうだ」
「その女性なら、次の日目を覚まされて、
大聖堂を出て行かれました」
「え!出て行った?」
「はい」
シスターの服の女性は戸惑った表情と声で答える。
「聖女にはならなかったのか?」
「聖女?回復魔法の使い手だったのですか?」
何と言う事だ!てっきりこの国に来たのは、聖女になる為で、
この大聖堂にさえ来れば、いつでも会えると思っていた。
黙り込む私に、教育されている聖女達は、
落ち着いた表情で見守ってくれている。
この当たりが、単なる貴族女性との違いを感じさせる。
それより今はセレーネの行方だ。
国は広い、1人の旅人を探すのは、諜報員でも骨が折れるだろう、
それに、婚約もしていないのに、諜報員を動かすのは
例え王族と言えど難しい。
どうしようか悩んでいると、護衛騎士の1人が声をかけてきた。
「リュミエール様、セレーネ様の行方なら分かるかもしれません」
「えっ!」
思わず護衛騎士に詰め寄る。
護衛騎士はあまりの剣幕にたじたじになっていたが、
気にしている場合ではない。
「えっと、セレーネ様は週に2回ほど、
冒険者ギルドで回復屋をされています。
あれ程の回復魔法の使い手はそうそういないので、
間違いないかと・・・・」
「そうか!」
もう会うのが難しいかと思っていたのが、
光が差し込んだような気分で、顔もほころぶ。
すぐに会いに行きたいが、聖女達を放置もできない・・・
そう思って、聖女達を見ると、
聖女のリーダーがゆっくりと話しかけてきた。
「私達はお茶を楽しんでおりますので、
どうか王太子様は、思い人の所へ・・・」
「いいのか?」
当の聖女がそう言っているとは言っても、
すぐに「では」とは言えない。
「もうお決めになったのでしょう?
表情を拝見すれば分かります、特別な方だと、
ならば迷われる必要なないのでは?」
更に背を押され、聖女達を見渡す。
「すまない、では失礼させてもらう」
急いでお茶会の席を後にしようとすると、
護衛騎士から止められる。
「なんだ?」
「まずはお着換えになって下さい、
街へ行くのには豪華すぎます。
それにセレーネ様には王太子である事をまだ伝えて
いないのですから」
護衛騎士に言われ、自分の姿を見る、
確かに街に行くのに相応しい服装ではない。
「仕方ないか」
頷く護衛騎士をちらりとみて、足を動かす。
「まずは着替える、すぐに街にでるぞ!」
速足で歩く私に、護衛騎士は従ったのであった。