1-1 断罪イベント
ぷかぷか・・・
意識が深い水の底にいるような、
ゆらゆらした不思議な感覚に満たされている。
ズキッ
心地よく揺られていたのに、いきなり痛みが体中に走る。
痛い・・・
イタイヨ・・・
せっかく、水の中で心地よい感覚でいたのに、
痛みで水の上辺まで引き上げられ、
意識が覚醒する感覚が襲う。
「ううっ・・・」
全身を襲う痛みに、何とか耐えながら目を覚ます。
私の声に気が付いたのか、私付のメイド、エマが声をかけてくる。
「お気づきになられましたか?お嬢様」
「エマ?」
見慣れた顔・・・
記憶に問題がない事に安堵する。
「はい」
「体全体が痛いわ・・・」
顔をしかめて、それだけを何とか言う。
起き上がろうとして、全身に痛みが走る。
「つっ・・・」
「お嬢様、あまり無理をなさらずに・・・」
「ええ」
そこで、自分が回復魔法を使える事を思い出す。
『ヒール』
その言葉に手から光があふれ、体全体を癒していく、
「もう大丈夫ね」
「さすがです、お嬢様」
そう言うエマは、淡々としており、
喜んでいる風でも、讃えている風でもない、
素っ気ない態度に、少し寂しい思いをしながらも、
エマに声をかける。
「今日は何日かしら?」
「今日は12月22日です」
「そう、ありがとう」
そう答えると、エマが少し驚いた顔する。
しかし、何でもないかのような表情を作り、
「奥様をお呼びしてまいります」
と部屋から出て行った。
しばらくして、母親はエマと共に部屋に入ってきた。
「気がついたの」
「はい」
母親は溜息をつきながら、ゆっくりと話し出す。
「心配しましたよ、万が一顔に傷なんて残ったら大事ですから、
貴方は皇太子殿下の婚約者なのですよ、
常に家格に恥じる事のない行動をするよう、
あれ程いっているでしょう」
「ごめんなさい、お母さん」
「お母さん?」
そう言って、私をぎろりと睨む。
すぐに失敗を悟って言い直す。
「申し訳ございません、お母様」
丁寧に言い直した私を、口にあてていた扇子をゆらりと動かしながら、
母親が続ける。
「リアドロニア家の名に恥じぬ行いを」
「はい」
口癖のように聞かされた言葉を、またかと受け止める。
心配しているようで、それは私への心配ではなく、
あくまで家としてメリットがあるからの心配だと、
今でははっきりと分かる。
甘やかして、何でも与えてくれる家族・・・
今まで何一つ疑う事なく、自分は愛されていて、
大事にされていて、世界の中心にいる。
当然のように考えていた事に、呆れ果ててくる。
そんな事を考えているので、ついつい俯いてしまった。
「まだ体調が戻りきっていないようね。
ただ3日後の学園の卒業パーティは休む事のないよう、
それまでに、体調を整えなさい」
「はい、お母様」
用件だけ行って去っていく母親を見送り、
控えていたエマにも声をかける。
「もう少し休むわ、1人にして頂戴」
「はい」
表情を変える事なく、エマは部屋から出ていく。
1人になった私は、大きなため息をついた。