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9話 ケジメをつけろ

「そんなにそいつらがいいのか? 見張りなんて強盗(タタキ)にあったら真っ先にボコられる。そんな事を押しつけるのが友達か?」

「……俺、役立たずだから……喧嘩も弱いし」


 蓮は消え入るような声で答えた。竜治はびっと親指で自分の心臓を指した。


「お前が弱いのは喧嘩じゃない、ハートだよ。ダチが居なくなったからなんだ」

「……」

「……ってお前の憧れの檜扇町の竜さんは言うだろうな」

「田中さん……」

「そいつは死んだらしいが? 俺はそう思うぜ」


 竜治は足を組み替えて、残りのアイスコーヒーをズッと飲み干した。


「……んじゃあ、話つけにいこうか。もう倉庫(ヤード)の見張りなんてできませんってな」

「ん、でも……言って分かるようなやつらじゃ……」

「大丈夫、俺もついていく」

「駄目だよ、田中さん。田中さんはその……関係ないじゃんか。だったら俺、この地元から離れるからさ」

「そんな事……」


 竜治はそこまで言って、言葉を飲み込んだ。竜治のこのいらつきは……身内に手を出された時のそれだったからだ。どう考えてもやっかいとしか思えない蓮に対してこんなにも執着を持っているのが自分でも不思議だった。


「あ、あー……そうしたら令央が寂しがるだろうが」

「そうすか……」

「とにかく、今夜引導を渡すからな。そいつら集めとけ」


 そう竜治は言うだけ言って席を立った。


「逃げんなよ。逃げたら……これっきりだ」


 そう言って、竜治はファミレスを出た。残された蓮はため息をついた。


「まじかよ、なんなんだよ……あの人……」


 蓮はチビチビと残りのジュースを飲みながら、竜治のまっすぐな視線を思い返していた。




「令央……はもう寝たか……」


 寝室ですやすやと寝息を立てている令央の様子を確かめると、居間にある鏡の前に立った。身に纏うのは特攻服……はさすがに無いので黒いシャツとジーンズ。ワックスで髪を後ろに撫でつけ、そっと眼鏡を外した。


「仕上げに……これかな」


 竜治はしおりの仏壇の引き出しから金のネックレスを取りだした。昔、しおりからプレゼントされたものだが、今の竜治にはどうも似合わないのでしまってあったものだ。


「うん……我ながら凶悪だわ……」


 そこにはサラリーマンの時の姿とはほど遠い、目つきの悪い凶相の男が立っていた。竜治が苦笑いしていると、スマホに通知が入る。


『公園にいます』


 それを見て、竜治はそっとマンションを出た。


「……」


 蓮は竜治にメッセージを送った後、落ち着き無く煙草に火を付けた。ジジジ……とため息代わりに火の先端が音を立てる。


「よう」

「田中さん……」


 思ったより早い竜治の登場に、蓮は慌てて煙草の火を消そうとした。


「ああ、いい。俺にも一本くれ」

「は、はい」


 蓮は煙草の箱を竜治に差し出した。竜治は一本引き抜くとそれを咥えた。


「んー、メンソールか。まあいいや」

「田中さん、火」

「ん」


 竜治は蓮の百円ライターに顔を寄せて煙草に火を付けた。


「ふうーっ、これ吸ったら行こうか」

「田中さん、あの……」

「あー……それ『田中さん』はまずいな。呼ぶ時は竜治だ」

「りゅうじ……?」

「ああ、下の名前。竜を治めるって書いて竜治。これでもサラリーマンな訳だから『田中』はまずい」

「竜治さん……いや、竜……さん」


 蓮は噛みしめるように竜治の名を呼んだ。そうしている間に煙草の先が短くなっていく。


「さーて、暴れるか……蓮、場所は?」

倉庫(ヤード)を指定されました」

「よし、案内頼む」


 蓮は一旦、駅前でタクシーを拾うと行き先を運転手に告げた。駅をちょっと離れただけで、草とフェンスしかない景色に変わる。畑が増えて来て、またそれが減って工場や倉庫の建ち並ぶ所にたどり着く。


「蓮、最初はお前の口から言えよ」

「……はい、分かってます」


 蓮はそう言いながら汗ばみ、震える手を握りしめた。タクシーを降りて二人は倉庫(ヤード)に足を踏み入れる。竜治は緊張している蓮の肩を軽く叩いた。


「ヨッチン! 来たよ! 話があるんだ!」

「おう……」


 コンテナの向こうから、五六人の若者がこちらに向かってくる。真ん中にいるのは前に竜治が前に金的を蹴り上げたチンピラだった。


「なっ、あ……」


 そいつは竜治の姿を見つけると、慌てて後ずさった。


「蓮! なんであいつがいるんだよ!」

「バーカ、見届け人だ。ちゃんと話し合いしろ。ガキの喧嘩の範疇ならなにもしない」

「ぐ……」


 ヨッチンとかいうチンピラは竜治のその言葉に声を詰まらせ、チラチラと蓮を見た。


「ヨッチン」

「な、なんだよ」

「今日はいっとかなきゃいけない事があって……。俺さ、もうヨッチンたちとつるむのやめる」

「……は?」

「だから、見張りとかも出来ないし。街で会っても無視してください」

「なに言ってんだ……蓮と俺は中学から一緒だろ?」


 ヨッチンはさっきまでの強い態度を一転させて、にこにこと蓮に話しかけた。竜治はそれを見て、こうやって今まで蓮をからめとっていたんだな、と思った。


「でも……もう俺付いてけないよ。いままでありがとう……それじゃ」


 蓮はぺこりと頭を下げて後ろに下がった。するとヨッチンは低い声を発した。


「待て、蓮。はいそうですかって言う訳ねぇだろ」

「……」


 ヨッチンと蓮を中心にチンピラ共が周りを囲む。竜治はじっとそれを見ていた。

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