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6話 遊びに行こう!

「こっちこっちーっす!」

「こないだのお兄ちゃんだ」


 土曜日。檜扇駅前のバス停留所で蓮は竜治と令央を待っていた。ピンクのダボダボのジャージの蓮は二人を見つけるとブンブンと手を振った。それに答えて令央も手を振る。


「お兄ちゃん、今日は誘ってくれてありがとう」

「ううん。蓮でいいよ。そろそろバスがくると思うから行こう」


 駅前のロータリーに一時間に一本だけの直通バスが到着した。それに乗って二十分ほどでメガアミューズについた。


「じゃあチケット買ってくるな」

「あ、田中さん。これこれ、割引券っす。入場半額」

「おおサンキュ」

「あとここは俺出します。お礼なんだから」

「いいよ、その半額券で十分だ」


 竜治は蓮から割引券を受け取ると、三人分のチケットを買った。


「さて何しようか。なんかいっぱいあるな」


 竜治が行った事のある十数年前に比べて見覚えの無いアミューズメントが増えていた。


「パパ……あれがやりたい……」

「おおトランポリンか」


 令央がキラキラした目で指差したのは大きなトランポリンだった。


「よーし、やるぞー」

「俺もー」


 三人はは荷物をロッカーに預けるとトランポリンの列に並んだ。


「僕、これ初めて」

「パパもだ」

「俺も……」


 初心者三人は恐る恐るトランポリンの上に上がった。


「あはは」

「うおっ、不安定だな」


 思ったより揺れるトランポリンの上で令央は楽しそうに飛び跳ねた。


「田中さん大丈夫ですか?」


 ぽよんぽよん飛び跳ねながら、蓮が竜治に聞いた。


「うん、大丈夫大丈夫」

「パパ見てー」


 令央はお尻から落ちたり、両足を開いて飛び上がったりしている。


「おーし、パパも」


 竜治は体重を乗せてジャンプした。ぐーんと高く竜治の体が跳ね上がる。


「楽しいな、これ」

「凄いっす……おあぶ、舌噛んだ……」

「パパすごーい」


 連は竜治を見上げながら喋ろうとして舌を噛んだ。令央は手を叩いて喜んでいる。


「おーし、見てろ」


 竜治はさらに弾みを付けると、空中で一回転して着地した。


「え……まじ……すげ……」

「おおー」


 蓮と令央だけではなく周りの客もあっけにとられてそれを見ていると監視員の笛が鳴った。


「お客様、危険行為はおやめくださーい!」

「あ……すんません」


 竜治は気まずくずり落ちた眼鏡を直しながらトランポリンから降りた。


「怒られちゃったね」

「令央ごめん……」


 竜治が申し訳無さそうにしていると、蓮が大きな声を出した。


「あ、令央くんあれやろう」

「ん? ああ、すごーい」


 蓮が指差したのは電動二輪スクーターだった。テレビなんかでしか見たことがないそれに令央の目は釘付けになった。


「ほら、並ばなきゃ」

「うん!」


 令央は列に向かって駆け出していった。


「すまん」

「いやいや、田中さんの身体能力がぱないだけっす。あの監視員もうるせー事言いやがって」

「あれはああいうお仕事だから……」

「さ、行きましょ」


 連と竜治も令央の後に続いて電動スクーターの後ろに並んだ。そしてヘルメットと手足にガードをつけて乗車する。


「きゃはーっ」

「おおい、令央。早い早い」


 体重をかけた方向に進み、後ろにかければ止る。令央はすぐに操縦のコツをつかんでグーンと前に走り出した。竜治は慌ててそれを追いかける。


「ストップ」


 キュッと令央の前に回り込んで竜治は進行を止めた。その後ろを蓮がへろへろと付いてくる。


「二人ともなんでそんな早いの……」

「うーん」


 スピード狂だった血だろうか、と竜治はちらりと考えた。


「令央、ちゃんと気をつけて乗れよ」

「はーいパパ」


 そこそこのスピードで遊びだした令央の後ろから、竜治と蓮はついていく。


「ふふ、久々にバイク乗りたくなるな」

「やめちゃったんすか」

「令央が出来た時にきっぱり」

「へー。ここもバイクあるっちゃあるっすよ」

「……え?」


 竜治は思わず蓮の指差した方向を見た。確かにあれはバイク……かもしれないが。


「電動ポケバイって……」

「まぁ、無いっすね」

「なぁ……」


 竜治も蓮のその言葉に頷いた。捨てた過去とは言え、竜治は元暴走族なのであってあんなちっさいオモチャに乗る気はしなかった。竜治の愛車はCB400。しかし、電動二輪スクーターを堪能した令央は今度はポケバイを見て叫んだ。


「パパ! あれ凄い! やりたい!」

「……」


 竜治と蓮は顔を見合わせた。


「どうしたの? すっごい面白そうだよ」


 令央の無垢な視線が痛い。竜治は根負けして頷いた。


「……分かった。やろう」


 小ぶりながら割としっかりしたレース場に白と黒のフラッグを持った係員。しっかりとヘルメットをかぶって三人はスタートを待っていた。


「レディー! ゴー!」


 その声に皆一斉にスタートする。令央は先程と同じ様に飲み込みが早く、すぐに頭ひとつ先に躍り出た。


「早いなー令央くん!」

「へへへー」

「まぁ体重軽いからな」


 竜治はそう言いながらゆったりと令央の後ろをついていった。すると令央がふっと振り返って言い放った。


「パパ遅ーい」

「……ぐぬっ!?」


 その言葉に竜治の火が付いた。竜治はコーナーをギリギリに攻めてスピードを上げ、あっという間に令央を抜き去った。


「……やってしまった」


 得意になったのもつかの間、ゴールについてハッとした竜治は自己嫌悪にひたりながらヘルメットを取った。


「んっふふふー。やっぱパパは速いよね。だって……」

「令央! しーっ」


 竜治はあわてて令央の口を塞いだ。竜治はしおりとの出会いから今までを正直に令央には話してある。だけど今日は蓮がいるのでちょっと勝手が違う。


「田中さん、令央くん喉渇きません? ドリンクバー行きましょうよー」

「あ、ああ……!」


 三人は喉の渇きを癒そうとドリンクバーに行った。


「僕、オレンジ」


 令央はオレンジジュースを、竜治はアイスコーヒーを、そして蓮は……。


「それなんだ」

「コーラとメロンとジンジャーエールっす」


 謎の黒々とした液体を美味しそうに飲んでいた。


「それ一口ちょうだい!」

「うん。俺のスペシャルブレンドだぜ」

「……甘い……」


 一口飲んだ令央は微妙な顔をしている。竜治はそれを見て思わず吹きだした。


「ははは……」

「そんな笑うとこですかね」


 蓮だけがよく分からない顔をして首を傾げていた。それからいろんなアトラクションを堪能して施設の外に出た頃には夕方になっていた。


「今日はありがとな」

「いえいえ……ちゃんとお礼できてよかったっす!」


 再び駅前に戻ってきた三人。


「じゃあ!」

「バイバイ、蓮くん!」


 竜治と令央は別れ際に蓮に手を振った。


「じゃあ~! また遊びましょ!」

「うん、分かったー!」


 令央は元気に手を振りながら答えた。


「令央、あいつとまた遊ぶ約束したのか?」

「うん!」

「そっか。……そっか」


 竜治はなんだか嫌な予感を感じながら令央の声を聞いていた。


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