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28話 ぬばたまの思い出

「あっ、おかえりなさい」

「パパお帰り」


 家に帰ると蓮と令央が出迎えてくれた。


「蓮、荷物重かったろ。ごめんな」

「いーえ。竜さんこそ仕事休みなのに大変っすね。弁当箱洗っときました」

「あ、ありがとう……」


 そうだ、得意先兼父兄とお茶をする体であの場を離れたんだっけか。と竜治は今さら思い出した。


「じゃ、今日は楽しかったっす!」


 蓮はまだうちわを振りながら家に帰っていった。その姿を見送って夕食をすます。色々あったせいで保護者競技には出ていないはずなのに竜治は強い疲労感を感じていた。


「令央、パパちょっと早く寝るけどいいかな……」


 そんな竜治は令央よりも早く寝床についてしまった。




 ――赤いランプ、サイレンの音。からかうように蛇行して、路地を行く。

 竜治は昔の夢を見ていた。


「御堂! ポリの顔みたか?」


 その先の空き地にバイクを止めてニヤニヤしているのは川瀬だ。


「いーや、俺は前しか見てねぇ」

「やっぱかっこいーわ、御堂は。なぁ!」


 川瀬が着いて来ていた後輩にそう話を振った。後輩どもは直立不動で頷いた。


「はいっ、御堂さんはカッコいいっす!」

「……だってよ」

「はあ」


 竜治はそちらには一瞥もくれず、空き地に放置してある廃車のボンネットに飛び乗って腰掛けた。これが檜扇最強チーム『ブラックレクイエム』の王座だった。


「……ところでこないだの躑躅湖のタイマン勝負に水が入った件だけどな」

「御堂、それならタレこんだやつはもうわかってんよ」

「……連れて来いよ」

「はいっ!!」


 よく研いだナイフのような視線に、後輩達は蜘蛛の子を散らすように去って行った。


「あーあ、御堂を怒らせてただですむ訳ないのになぁ……」

「ふん」

「まぁ終わったらカラオケ行こうぜ」

「……おごりなら行く」

「もちもち!」


 川瀬はニキビだらけの顔で頷いた。そんな事をしている間に後輩達が裏切り者を連れて来た。


「よお、半田。どういうつもりだ……?」

「み、みみ御堂さん……っ、あのっ」

「まあご託はいいや」


 ボンネットの上に立ちあがった竜治はそこからジャンプして半田に膝蹴りをかました。


「げっ……」

「痛ぇよな。けどあっちにボコられた内藤はもっと痛かったよな」


 そのまま振り上げた拳を振り下ろす。何度も何度も馬乗りになって殴り続ける。鼻が折れて歯が折れた。血が泡になってぶくぶくと口から溢れている。


「ぶひゅー、ぶひゅー……」

「おまけにステゴロタイマンでやろうってのに向こうは鉄パイプだしな。内藤は三ヶ月入院だってさ。体も心もボロボロだよ……」

「うう……」

「身内に手を出したてめぇはクソだ。おーい、誰かロープかなんか持ってこい」

「……ちょっ、ちょっと。待っ……」


 半田の顔色が変わる。それを竜治は冷たく見下ろしてニヤリと笑った。


「いいか、半田。これは禊だ。ちゃーんと我慢できたらとっとと消えていいからな」

「か、勘弁してくれ……あんた、おかし……」

「おい、こいつの手を縛ってバイクのうしろにくくれ」

「ひいいい」


 工事用ロープで手首を縛られた半田は竜治のバイクにくくりつけられて砂利だらけの空き地を転げ回った。


「はーい、一周! 十周我慢だぞ、半田」

「ぎゃああああ!」


 段々とスピードが上がっていく。半田は命の危険を感じて恐怖で泣き叫んだ。後輩達はその様に笑う事すら出来なくなっていた。


「こら! 竜ちゃん!」


 その時である。甲高い声が空き地に響いた。


「それくらいにしな。死んじゃうよ」

「お、しおり。なんだバイト終わったか」

「バイトはどうでもいいのよ。ほら、そこの泡吹いてションベンちびってんじゃん」

「ああ、ほんとだ」

「もう終わり。でないと殺しちゃうでしょ! あたしやだよ! 竜ちゃんが年少行ったら」

「……ああ」


 竜治はちょっと不満そうにしながらナイフで半田のロープを切った。


「そいつ片付けとけ」

「はいっ」

「しおり、これからカラオケ行くけど行く?」

「うん行く行く!」


 しおりは竜治のバイクの後ろに乗った。そうして川瀬と一緒に空き地を後にした――。


「……」


 竜治が目を覚ますと時計は午前三時だった。こんな夢を見たのはきっと川瀬を話したせいに違いない。竜治はそのまま台所に直行して冷蔵庫のスポーツドリンクを飲んだ。水分が染み渡る。


「しかし……思い返してもつくづくクズだったな……」


 あんな狂犬みたいな息子、母親はどんだけ持てあましたろう。それに比べて……令央はまるで天使である。


「できればこのまま大きくなってくれ……」


 竜治はそう願いながらもう一眠りしようとベッドに戻った。


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