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27話 昔の友

 川瀬は今にも腰を抜かしそうになってそう呟いた。竜治は慌てて眼鏡を抱えて前髪をばさっと下げたが……もう遅い。


「なぁ……御堂だろう……? 御堂竜治……」

「気のせいですよ」


 竜治はそう答えたが、川瀬はくいっと親指を立てると後ろを指した。


「ちょっと場所を移さないか」

「あ……ああ……」


 竜治はこれ以上誤魔化しようにもない。そう思って蓮に声をかけた。


「れ、蓮。ちょっと川瀬さんとお茶を飲んでこようと思うんだ。悪いけど荷物持って家まで行ってくれないか」

「ああ、いいすよ」


 軽く答えた蓮に家の鍵を渡した。そして川瀬と一緒に小学校を出た。


「……」

「……」


 無言のうちに着いたのは学校の裏のコインパーキングだった。川瀬は振り向いて竜治の前に立ちはだかった。


「御堂!!」


 そのまま突進してきた川瀬。竜治はそれを防ごうと身構えた。しかし……。


「なんだよ~生きてたんかよ~」


 そう言いながら川瀬は抱きついてきた。


「おっ、おい!! 川瀬!」

「やっぱり御堂だ~わぁあああ!!」


 いい大人がガキみたいに泣きわめくな、と竜治は思った。川瀬はがっしりと竜治を掴んで話さない。


「……落ち着けよ」

「だってだってさ……御堂、解散するって言ったまま消えちゃうんだもんよ」

「すまん」


 竜治は十年前に思いを馳せた。あの時、竜治達のチームは隣県のチームとバチバチやりあっていた。お互いが引っ込みつかない、そんな時に……しおりの妊娠が分かった。しおりを守る為に抗争を止めるにはチームを解散するしかなかった。しかし、当然身内からも不満を持つものも出るだろうと考えた竜治はしおりと二人、この檜扇町から去ったのだった。


「に、してもまさか業者さんとして御堂が来てたとは」

「『田中』だ。あれからしおりの籍に入ったから本名だ」

「って事は……結婚したんか! ああ! じゃあ今日一緒にいたのはしおりちゃんの……?」

「そう、息子の令央だ」

「なーるほど。言われてみればしおりちゃんにそっくりだ。今日は? 体調でも崩したのか?」


 竜治は川瀬を見つめ返した。川瀬はしおりとも中が良かったから、強面のくせに妙に泣き虫なこいつに少々酷な話かもしれん。


「しおりは5年前に癌で……死んだよ」

「そんな……」


 案の定、川瀬は顔を真っ赤にして泣くのを堪えている。


「23ってことか……? あんまりだ……」

「でも、それまで家族三人楽しかったよ。今はしおりが残してくれた令央を立派に育てるのが俺の生きがいだ」

「そっか……」


 川瀬は空を見上げた。まるでそこにしおりがいるみたいに。そして胸元から煙草を取り出すと火をつけた。


「川瀬、俺にも一本くれ」

「やめたん?」

「ああ、なにしろ俺は職場じゃ『気弱な田中係長』だしな」

「ぷっ、もしかしてそれ変装なのか?」

「分かんなかったろ?」

「まあそうだな」


 二人並んで煙をふかす。ガキの頃に戻ったみたいに。


「俺は『御堂』を捨てて『田中』になってる訳だ。って事でこの事は内緒な」

「あー……。俺もさんざ悪さしてブラブラしてようやく親父の背中見るようになったとこだから……。御堂、いや田中さん。言ってる事はわかりますよ」

「よかったぁ……」


 竜治はほっと胸を撫で降ろした。川瀬の反応次第では大事になっていたかもしれない。例えば取引やめるとか。


「俺ももうガキじゃねっつの……。でもな、友達(ダチ)友達(ダチ)だかんな」


 川瀬はそう言って笑った。

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