25話 徒競走!
そしてお茶を飲んでくつろいでいる時である。
「あのー……」
「あっ!? か、川瀬さん……」
「これうちのが作ったマドレーヌなんですけどいかがですか」
「え、いいんですか?」
「ええ」
例の川瀬がやってきて三人に手作りお菓子を分けてくれた。蓮と令央は思わぬ差し入れに目をキラキラさせている。
「娘さん、上手に踊れてましたね。あの……ふたつお団子にしてた子ですよね」
「あ、そうですそうです。いやあ、本当に俺にそっくりで」
川瀬にも自覚があったようだ。
「じゃあまた……」
空になったタッパーを持って川瀬は自分のシートに戻っていった。見るとちょっと化粧の濃い派手な奥さんが「ちゃんと渡した? 失礼はなかった?」としきりに川瀬に確認していた。
「うん。しっとりして美味しい」
竜治は手作りならではの素朴な味のマドレーヌを口にした。見た目よりもしっかりした奥さんみたいだ。これならホームセンターKAWASEの先も安泰かな。と竜治は考えた。
午後は令央の徒競走とリレー……だったか。竜治がカメラを確認していると、突然蓮が声を上げた。
「あっ」
「どうした」
「せっかく作ってきたのに忘れてました!」
「なにを……うぇっ!?」
「へへへ……」
バッグから蓮がニヤニヤしながら取り出したのは金色のモール付きの蛍光ピンクとイエローの二つの手作りうちわだった。そこには『令央』『LEO』と名前が書いてある。
「『こっち向いて』ってこれから徒競走だぞ」
「ダンスの時に出すつもりだったんですけどね~」
なんて小っ恥ずかしいものを作ってきたんだこいつは。と竜治は横目で蓮を見た。当の蓮はご機嫌でうちわをふりふりしている。
「ほら、令央君の徒競走、始まりますよ」
「お、おう」
蓮はうちわを構え、竜治はカメラを構えた。ヨーイドン、と一斉に走りだす令央達。
「うおーっ、早い!」
「ふっ……」
令央はぶっちぎりの早さでゴールした。
「さすが竜さんの息子っすね!!」
「だろう。そうだろう」
竜治はご機嫌で頷いた。
『それでは、リレーの準備に入りますので少々お待ち下さい』
そんなアナウンスが流れる。リレーはどうやら障害物リレーのようだった。
「あれないんすね、あんぱん競争」
「カレーパンじゃなかったか?」
竜治と蓮がどうでもいいことを話しているうちに準備が整ったみたいだ。跳び箱、網、平均台……と障害物が並んでいる。
「頑張れ、令央くん!」
今回は単純な足の速さの勝負ではない。頑張れ、令央。と竜治も心の中で応援した。
「位置について! よーい!」
パーン! と高らかに合図がなり、各自一斉にスタートした。