21話 手の鳴る方へ
「ひえっ……」
「どうした? 俺を探してたんじゃないのか?」
ぱっと蓮から手を離したよっちん。竜治がさらに近づくと木村くんと二人で後ずさりする。
「おいおいおい……」
「竜さん! なんで居るの!?」
蓮がアスファルトの地面から立ち上がりながら、竜治に問いかけた。
「そっちこそ。……で? こいつらの用事はなんなんだ?」
「わかんない。ただ竜さんに会わせろって行ってきて」
「ほお……」
竜治はチンピラどもを睨めつけた。二人はそれに縮み上がったが、やがて木村くんが観念したように口を開いた。
「あんた……ちょっとついてきてくれないか」
「どこに?」
「俺の上……の人間があんたを呼んでる」
「ふーん」
木村の上の人間……こいつらは窃盗をしている。見る限りよっちんは体格が良いだけで勢いだけだし、木村くんはどうやら頭が宜しくない。こいつらを使っている人間がいるって事か……。
「ついていく訳ねーだろ。行くぞ、蓮」
「そ、そんなぁ……」
「うるせぇ、ぼこんぞ」
竜治が拳を振り上げると、二人はブンブンと首を振った。竜治はそんな彼らを鼻で笑って、蓮の腕を掴んで引き摺るようにその場を離れた。
「ちょっと……竜さん離して!」
「なんだよ、お前。バイトあるから帰ったんじゃないのか」
「いいから離してって」
「うるさい」
竜治はあまりに抵抗してくる蓮にイラついた。
「なんだ? あいつらの所に戻るつもりか?」
「そうじゃなくて!!」
蓮はでっかい声を出した。驚いた竜治が力を緩めた瞬間にぱっと腕を引き抜く。
「竜さん、服! どこやっちゃったの?」
「あ……」
竜治は半裸のままコンビニから移動していた。蓮はふう、と息をついてパーカーを脱いで渡してくれた。これまた派手な蛍光ピンクだったが……このままマンションに戻る訳にもいかない。ありがたく受け取ることにした。
「やっべ……服……コンビニの横に置いてきた」
「なにやってんすか……」
蓮はスマホでコンビニの番号を調べて電話してくれた。
「明日取りにいきますって言っときました。今戻ったらまだよっちん達居そうだし」
「そっか……すまん……」
竜治は頭にきて冷静さを失っていた事を反省した。
「あの……ありがとうございます」
「ん?」
「怒ってくれたっしょ……」
「なんだよそんな事。当然だろ、お前は……」
竜治はそう言いかけて次の言葉がつかえた。蓮は……蓮の自分の中でどういう立ち位置なのか。竜治がぐるぐる考えてると、蓮はにっと笑って竜治の背を叩いた。
「俺は弟分ですもんね!」
「え……あ、ああ……」
竜治は蓮の言葉になんとか頷いた。
「あ……そうだ、お前明日バイト何時だ」
「十時からっす」
「そっか、じゃあ……もううちに泊まってけ。また外うろつくのはまずいと思う」
「いいんすか……?」
「ああ」
自宅マンションに着くと、竜治は早速着替えて蓮にパーカーを返した。そして蓮に風呂に入ってくるように言って着替えのTシャツを貸した。
「さて……泊めると言ったが……」
竜治はそこで動きを止めた。寝室のベッドは一つで客用布団はない。竜治は考えた末に冬用の厚い掛け布団を出して床に敷いた。
「ふー、おふろあざっす」
そこに湯気をまとった蓮が現れた。
「あ、蓮。ベッド使ってくれ」
「え、竜さんは?」
「俺は床で寝る」
「泊めて貰って悪いですよ」
「でもお前明日バイトなんだろ。俺は休みだから。なっ、なっ」
竜治は蓮をベッドに放り込んで、自分は冬用布団を寝袋のようにしてくるまった。
「……」
「……」
竜治はコップの他に蓮用の布団も必要だったかな、と考えながら眠りについた。