20話 鬼さん遊ぼ
「楽しかった~」
「そろそろ風呂だぞー」
「はーい」
その後、わちゃわちゃしながら手巻き寿司を食べてみんなでゲームをして大いに盛り上がった。
「あ、じゃあ俺そろそろ……」
蓮がリビングの時計を見ながら立ち上がった。
「もうちょっと飲まないのか? まだビールあるぞ」
「明日もバイトなんで」
「おーおー、そうか」
竜治も蓮の都合を邪魔してまで飲みたい訳ではない。
「じゃあな」
「はい、初給料出たら焼き肉食べましょう」
「お、いいぞ」
にっと笑って蓮は帰っていった。令央はちょっと不機嫌になっていたが。
「もっと遊びたかったのにーっ」
「わかったまた来るってよ」
ぐずる令央を風呂に入れて、竜治は一人で飲み直しはじめた。
「パパ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
蓮が帰って、令央が寝てしまうと急に家ががらんとした感じになった。竜治は手巻き寿司の余りのネタをつまみにちびちびと飲み続けていた。
「あ……もう空か」
竜治は寝室を覗きぐっすり寝ている令央を確認して、小銭入れと鍵だけ持って家を出た。コンビニで酒を買い足すつもりだ。
外は丁度良い気候で、竜治は散歩ついでに少し先の大きいコンビニまでいこうか、と足を進めた。
「お会計1897円でーす」
「はい」
酒と、なんとなく煙草も買った。ちょっと酔ってる様だ。家でも滅多に吸わない煙草を外の灰皿の所で封を切る。
「ふー……」
ジジッと音を立てる煙草の先端。アルコールでぼんやりとした頭にニコチンが染みるみたいだ。
竜治はただぼんやりと煙草を吸っていた。こうしているとヤンチャ時代にコンビニでたむろしていた事を思い出す。今となっては誘蛾灯にまとわりつく虫みたいだな、としか思わないが。
「おい、いい加減吐けよ!」
表の方からどすの聞いた声が聞こえた。ああ、時代は変われど暇と勢いを持てあました人間はコンビニに寄ってくるものなのか。竜治はそっと影から覗き混んだ。
「やだ! 絶対やだ……!」
そしてその次に聞こえてきた声に竜治は息を飲んだ。蓮だ。あいつは帰ったはずじゃないのか。なぜここに居るのか。そして蓮の胸ぐらを掴んでいる人物にも見覚えがあった。よっちんとか呼ばれてたやつだ。その後ろにはなんちゃって格闘家の木村くん。
「けっ、なんだ! 俺達はお願いしてるだけじゃねぇか」
「それってお願いって態度じゃないだろ!」
蓮は以前はびくびくしていたが気丈にもよっちんに言い返していた。
「あの人を呼んでくれって言ってんだよ」
「呼んでどうすんのさ! 竜さんはお前には会わせない!」
俺……か? と竜治は口を開けた。よっちんと木村くんはどうやら竜治に用事があるらしい。それで手がかりの蓮を締め上げているらしい。
「こりねぇやつだな……」
竜治は周りを見渡した。誰もいないのを確認してそっと眼鏡を外す。ふと見たら令央とおそろいのクマさんの模様のワッペンのロンTを着ていたのでそれは脱ぎ捨てる。
「……さむ」
まだ夏には少しある。竜治はレジ袋からストロング系酎ハイを一本取り出すと一気飲みした。
「シーッ……あったまったわ」
髪にかかる前髪を後ろに撫でつけ、竜治は臨戦体勢に入った。影にある喫煙所からぬっと顔を出した。
「よぉおお……何してんだぁ?」
ニッと笑う。それは竜治の人相の悪さをさらに悪化させた。よっちんと木村くんは突然物影から現れた半裸のタトゥーの男にぎょっとした後、それが以前自分達をボコボコにした張本人だと気付いて顔を引き攣らせた。
「まだ遊びたんねぇか?」
コキコキと首を回しながら近づいて来る竜治。――それはまさに鬼神のようであった。