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18話 秘密と思い出

「れ、令央は……?」

「着替えてコテンって寝ちゃいました。昼間っからはしゃいでましたしね」

「そ、そうか」

「と……いう訳でお背中流します」

「いや、もう体洗ったから」


 竜治はぶんぶんと頭を振った。蓮には一刻も早くこの場から出て行って貰いたい。


「じゃあ……俺も一緒に浸かります」

「なんで? さっき入ったろ?」

「えー? 舎弟としては竜さんと一緒に風呂に入りたいかなーって」


 蓮は謎の理論を振りかざしていそいそと浴衣を脱ぎだした。


「いいからもう寝とけ」

「は? まだ十時ですよ。それじゃ失礼しまーす」

「いやいやいやいや」


 蓮は竜治の言うことなどお構いなしで湯船に入ってきた。竜治は慌てて後ろ向きに湯船の縁に張り付いた。


「竜さん……」

「なっ、なんだっ?」

「やっぱ……でっかいなぁ……背中」

「は、はあ……」


 蓮は今どんな顔をして竜治の背中を眺めているのか分からなかったが、竜治はひたすら気が気ではなかった。


「筋肉質でいいなぁ……俺全然付かないんすよね」

「家でだけど一応筋トレはしてるから」

「そっかー……やるかなぁ……」


 蓮はぴたっと体を寄せて自分の二の腕と竜治の二の腕を見比べた。


「……」

「……あの」

「なんだ」

「そんな風に浸かってたら熱くないすか」

「……」

「竜さん!!」


 蓮の手が竜治の肩に触れた。


「わああああ!」

「えっ?」


 竜治は思わず蓮の手をはねのけた。蓮の目が大きく見開かれる。


「……竜、さん」


 蓮がごくりと息を飲んだのがわかった。しまった……と竜治は俯いた。


「かっこいいーっ」

「……はぁ」


 竜治の胸には……タトゥーがあった。トライバルのドラゴンの入れ墨はヤンキー時代に入れたものだ。


「そーいう事言いそうだから嫌だったんだよ!」


 竜治はそう言いながらも蓮の反応を注意深く見ていた。竜治がかつての檜扇の竜・御堂という事が蓮の中で繋がってしまったら厄介である。


「俺も入れたいな」

「馬鹿、こんなもん入れたから個室温泉にくる羽目になったんだ。めんどくさいぞ」

「そっか……」

「……若気の至りだ。消そうって何度も思ったけど、そんな金あったら令央に使いたいしな」


 長く首まで浸かっていたせいで少しくらくらした竜治は浴槽を出てウッドチェアに腰掛けた。切れ長の人を刺すような相貌、湯で濡れた髪、胸を這う竜。その姿はとても堅気には見えなかったが実際は息子大好きのパパである。


「それにしても……令央くんの言ったことはほんとだったなぁ」

「な? 令央がなんか言ったのか!?」

「……いやぁ~?」

「に、にやにやすんな。なんだよ……」

「うーん、その……パパのちんちんはすごい大きいって……」

「ばっ!?」


 竜治は思わずばっと股間を隠した。


「なーんか頑なに風呂を避けるからパパは裸が恥ずかしいのかって令央くんに聞いたらそう言ってて」

「れ、令央~」

「見せたくないのはタトゥーだったんすね。あはははは」

「笑えんっ」


 竜治は急に恥ずかしくなって風呂を出た。


「ごめんごめん、竜さん」

「ったく……」

「まぁ飲み直しましょ! ほら、ビールも酎ハイもあるし!」


 竜治は蓮の持って来たビールをギュギュッと飲み干した。


「なぁ、一応言って置くけど。俺は今はサラリーマンだからな。コレの事は内緒だぞ」

「わかったっす」


 こくこくと蓮は頷いた。竜治はふっと息を吐いて、蓮から奪うようにして酒を飲んだ。


「あっ、俺が買ってきたんすよお!」

「お前明日運転だろ。これぐらいにしとけ」

「そんなぁ」


 竜治は意地悪く笑いながら、蓮が買って来たビールと酎ハイを端から飲み干していった。


『もう、竜ちゃん。酔っ払うとどこでも寝ちゃうんだから。風邪引くよぉ?』

「うん……こっち来い」

『いいの?』

「うん。しおりはさ、いい匂いがするよな」

『ぷっ……なにそれ』


 竜治は温かい布団の感触と体温を感じながら目を覚ます。またしおりの夢だ。最近多いな。やっぱり檜扇町に帰ってきたせいだろうか。と竜治は思った。しかし、今日のしおりはちょっと大人っぽいな。あとちょっとゴツゴツして……。


「ゴツゴツ……?」

「あ、おはようです」

「わっ」


 隣でもぞもぞしてるのは蓮だった。


「なんで、お前……人の布団にっ」

「ええ!?」


 竜治がそう言うと、蓮の顔が一瞬般若のようになった。


「酔っ払って敷き布団も掛け布団も二人分独り占めしたのは竜さんじゃないっすか」

「え……あ! 本当だごめん」

「ひどいっすよ……買って来た酒はみんな飲んじゃうし、布団は取るし……俺はすみっこで……寒い……へぶしっ」


 蓮はくしゃみをしながら竜治から掛け布団を奪った。


「それよりあれだ、朝風呂……入ったらどうだ……ごめんな」

「朝風呂! なるほど! 行きましょう!」

「いや、俺も……?」

「うーん、お風呂……?」


 やいのやいのとやっている二人の声に令央が起きてきた。


「朝にお風呂入るの……?」

「あ、令央くん。おはよう!」

「温泉はな、朝に入るのも気持ちいいんだ」

「ふーん、じゃあ僕も入る!」


 令央はすでにもうほとんどはだけていた浴衣をぽいぽいと脱ぎ捨てると浴場へと向かった。


「あーっ! すごい! 山が!」

「おおーっ、夜とはまた違う風情だなー」

「きもちいいっすね」


 三人は朝日に照らされた山の風景を眺めながら、湯船に浸かった。家よりちょっと大きいだけの浴槽は満員御礼だったが、檜の良い香りとともにのびのびできた。


「来てよかったなー。蓮、色々ありがとうな」

「いえ、お役に立てて嬉しいっす!」


 それから三人は朝食バイキングを食べて、お土産を買うと帰路についた。


「それじゃあ!」

「ああ、気を付けて帰れよ」

「はーい!」


 マンションの前まで蓮に車で送って貰って、竜治と令央は去って行く蓮を見送った。


「令央、楽しかったか?」

「うん! とーっても!」


 笑顔で蓮からもらったぬいぐるみを抱きしめる息子の姿を見て、竜治はこれで連休の思い出も作れたとほっと胸を撫で降ろした。


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