14話 肉との戦い
白を基調とした明るいレストランの吹き抜けの席に案内された竜治達は、すぐに立ち上がった。
「行くぞ!」
「おーっ」
「おー!」
ビュッフェスタイルのテーブルには地場の野菜はもちろん、カルビにロースの肉類、それからカレーやパスタやデザートまで並んでいる。
「よし、カルビ。それから豚トロとガーリックチキン」
「あ、ソーセージも!」
令央のリクエストで肉を取って、なすやピーマンなどの野菜も取った。
「さーて焼くぞ! 元をとってやるぜ」
竜治じゅうじゅうと肉が焼けていく。三人は勢いよくカルビに食らいついた。
「うんまい」
蓮が肉と一緒にごはんをかっ込む。パンパンに膨らんだ頬はハムスターみたいだ。
「値段の割に……いいじゃないか……」
観光地と思ってまったく期待してなかった竜治はもくもくと肉を口に運び続けた。
「令央、野菜も食べなさい」
「えーっ」
不満そうな令央の横で、蓮がパスタを食べている。
「蓮、なんでそこでパスタなんだ?」
「え、美味しいっすよ。和風きのこ」
「……」
「あ、ほらこれどうです? 焼きナスきのこパスタアレンジ!」
蓮は鉄板で焼けたナスをパスタに載っけて良い笑顔で竜治に笑いかけた。
「美味しくしちゃったよ! って元とるんだろ、パスタ食べてる場合じゃないだろ」
「楽しく食べた方が勝ちですって!」
「僕もソーセージカレー作る!」
「じゃあ俺カレーとって来てあげる。竜治さんは白米かな?」
「……正直、欲しい」
竜治はこくりと頷いた。竜治は焼き肉は酒かコメが欲しいタイプだ。
「ビール飲んだっていいんですよ」
「いや、蓮に運転まかせっぱなしだし」
「気にしないでも……どっちみち保険けちってるから俺しか運転できないし」
「えっ、そうなのか」
と、いう事はこの旅行中ずっと蓮に運転をまかせてしまう事になる。竜治は申し訳ない気持ちになった。
「なんか……すまんな」
「いえ、大した距離ではないし……。それよりせっかくの旅行だもん、思いっきり楽しんじゃいましょう!」
「おう」
竜治は蓮の気遣いに感謝しながら、原価や栄養バランスなんてちゃちな事は忘れて心ゆくまでカルビばっかり食べた。
「……」
「……」
「……うぷ」
一時間後、三人はテーブルの椅子の背に体を預け、軽い後悔に襲われていた。
「苦しい……」
「このあとアスレチックに行くはずだったが……イケるか? 令央」
「うー……あとちょっと待って……」
令央はお腹をさすりながらうめいた。完全に食べ過ぎた。
「あははは……なんかおかしくなってきた」
「楽しそうっすね竜さん」
竜治は近頃とみに張り詰めていた気分から、久々に解放された気分になった。
「じゃあ先にふれあい牧場いこうか」
「とりあえず腹ごなししないとっすね」
竜治達はアスレチックを後に回して牧場の方にいってみる事にした。
「うわぁ、うさちゃん」
「ほら餌買って来たぞ」
ミニ動物園のウサギや羊や犬と戯れている令央を眺めながら、大人二人はまだパンパンの胃を休めていた。
「さー、アヒルちゃんのお散歩ですよー!」
カランカランとベルをならして係員がアヒルを誘導した。よちよちと歩くアヒルの後ろをゆっくりと三人で付いて行く。
「令央の赤ちゃんの時みたいだな」
「えー、僕?」
令央がはいはいをはじめた頃、とてとてと意外なスピードで動き回るのでしおりと二人でびっくりしたのを思い出した。
「令央君! 戻って来て」
「なあに?」
「そろそろ乳搾り体験だよ」
「……おお!!」
令央の目が大きく見開かれる。そう、このつつじレイクランドで令央が最も楽しみにしていた牛の乳搾り体験の時間がもうすぐ迫っていた。