13話 つつじレイクランド
竜治の気がかりを余所に、令央はその日まで竜治のタブレットでふれあい牧場のHPを何度もみてにこにこしていた。
そして迎えた当日。リュックを背負った令央とボストンバックを抱えた竜治が家の前にいるとミニバンがすっとマンションの前に止った。
「どーも!」
「やぁ蓮、今日はよろしく」
「はい。すいません、こっちの車しか使えなくて」
「三人乗るのには十分だろ」
「……竜さんにはもっとカッコいい方に乗って欲しかったのに」
「……はは」
竜治は苦笑しながら車に乗り込もうとしてぎょっとした。
「お前これ……」
「へへ、どうです」
「すごーい」
蓮の車はダッシュボードに白いファー、運転席の足下はLED、後部座席にはぬいぐるみがやたらと置いてあった。絵に描いたようなヤンキーの車、といった感じだ。
「とりあえずぬいぐるみ多すぎだろ」
竜治はそう言って、後ろの視界を奪いそうなぬいぐるみを座席に降ろした。
「そうっすかね? 令央君好きなのあげるよ」
「えーほんとー?」
「うん、ゲーセンでとったやつだし」
令央は後部座席に乗り込んで、大きなマイクロファイバーの猫のぬいぐるみを抱きしめた。
「それじゃ出発! まずは目指すは躑躅湖!」
蓮は決め顔でそう宣言してからナビにぽちぽち入力した。
「躑躅湖か……」
山合に囲まれた湖はちょっとした観光スポットであると同時に、夜は竜治達の喧嘩の舞台であった。隣町との境にあったので自然とそうなったのだが。
「よくあそこに静めたな……」
「竜さんなんか言いました?」
運転席の蓮がこっちを見た。竜治はあわてて話題を変えた。
「あそこにボートがあったな。令央に漕いでもらおうかなー?」
「まかしてー」
令央は揺れる車内でぬいぐるみを積み上げるのに夢中になっていた。
「さーてそろそろつきます」
「おー、湖」
竜治は助手席の窓を開けた。初夏の爽やかな空気が心地良い。
「つつじレイクランドにとうちゃあーく!」
「到着~!」
三人は意気揚々と車を降りたった。ここはアスレチックや屋内ミニアトラクションやボートに観光牧場と広い敷地にいくつものレジャー施設が併設されている。
つまり一日ここで令央を遊ばせることができるという訳だ。
「ボートはどこ?」
「あそこだよ」
入場チケットを購入すると、令央は鼻息あらくボートに向かった。
「かわいいボートだな……」
「ちょっと恥ずかしいっすね……」
二人は令央がいなければ絶対に乗らないアヒルちゃんのペダルボートに乗り込んだ。
「僕が漕ぐからね!」
「うんうん」
令央が顔を真っ赤にして、ペダルを漕いでいる横で竜治はノンビリと山と自然に囲まれた湖の景色を楽しんでいた。
「あー、いい気持ち……」
「疲れた! 蓮くん交代!」
「はいはい」
竜治がぼけっとしていると、大人ふたりを乗せて思うように動かないボートを令央は蓮に押しつけた。
「しょうがないなぁ……」
それじゃ、と交代した蓮はペダルを漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ……。
「やっほーっ! 気持ちいー!」
「蓮、ちょっとスピード出過ぎっ! あああ!」
別のボートとぶつかりそうになったのを竜治はハンドルで華麗に避けた。
「ひゅう! 竜さんかっこいい」
「馬鹿!」
調子に乗った蓮の頭にゲンコツをくれてやって三人はボートを下りた。
「うー……マジで痛い」
「あったりまえだ! 序盤で水泳なんてごめんだからな」
広い園内を連れ立って歩きながら、竜治は蓮のケツをぶったたいた。
「ひゃう!」
「変な声だすな!」
「あーあそこ?」
その様子にまったく動じてない令央はある建物を指差した。竜治は頷いて令央の顔を覗きこんだ。
「そうそう……令央お腹は空いてるか?」
「うん! ぺっこぺこ!」
「よーし、いくぞ!」
「「「バーベキュー!」」」
という訳で食べ放題バーベキューランチに向かって、男三人はつつじ時計台レストランに歩みを進めたのだった。