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第90話『シロVS謎の少年!?』

投稿が遅れてしまい、申し訳ないです。

リアルの都合や体調不良により、大きく遅れてしまいました。

今後も更新が不定期になる可能性がございますが、読んでいただけましたら幸いです。

 



 受付を終えたあと、二人は試合開始までの時間を潰すため、会場近くのカフェへと足を運んだ。窓際の席に座ると、シロはカバンからカードケースを取り出し、アオイの前に差し出す。


「これ、アオイさんのデッキです。この前の配信で使った構築と同じなので、たぶん扱いやすいと思いますよ」

「わざわざありがとうございます」


 アオイは両手でカードを受け取りながら、頭を下げた。


「ふふふっ。むしろご一緒してもらえて助かってます」


 淡い笑顔を浮かべるシロに、アオイはふと視線を下げ、少し言い淀む。


「……実は、シロさんに相談したいことがありまして」

「わたしに、ですか?」


 紅茶を一口含んだシロが、カップを静かにソーサーに戻しながら言った。


「はい。……俺、VTuberとしての目標がなくて」


 アオイは息を吐きながら、言葉を続けた。


「楽しいとは思ってるんです。音楽も配信も。でも、いざ“目標は?”って聞かれると、何も出てこないんですよ。自分が何のためにやってるのか、時々わからなくなるんです」

「なるほど……」


 シロは一度だけ頷き、視線をカップの縁に落とした。


「シロさんは……夢や目標とかって、あるんですか?」

「明確な目標があるわけではないですよ。ただ、VTuberの活動はすごく楽しいですし、なにより——求められていることが嬉しいんです」


 アオイは思わず目を細めた。確かに、誰かに求められることは、何より嬉しいと感じる。ウララとして配信しているときも、曲を出して「待ってました」と言われると、言葉にならないほど満たされる感覚があった。


「……わかります。俺も、そういう瞬間はすごく好きです」


 ぽつりと、アオイはつぶやいた。


「自分がやりたいことをするのも、とても素敵なことだと思います。でも、それだけでは少し寂しい。誰かに求められて、それを返すことができて、はじめて“意味”が生まれるんじゃないかなって」


 シロの言葉に、アオイは自然と西園寺の顔や視聴者たちを思い浮かべた。


「確かに……」

「それでも、それら全部を投げ打ってでも叶えたい夢があるなら、それもまた素敵なことですけどね」


 ニコッと笑うシロの横顔に、アオイは思わず息を止めそうになった。まるで、自分の胸の奥を見透かされたかのようで。


 ――なんか、見抜かれてる気がするな……


「さてさて、そろそろ時間ですね。とりあえず今日は、カラモンを楽しみましょう」

「そっ、そうですね!」

「予選で5戦やって、3勝すれば決勝トーナメントに進めるので、まずはそこを目指しましょう」

「中々厳しい戦いになりそうですね……」


 言いながらも、アオイの声はどこか弾んでいた。


「頑張るぞー! えいえいおー!」


 シロが突如、両手を上に挙げて小さくポーズを取る。あまりに唐突で、アオイは目を丸くした。


「ほらっ、アオイさんも。えいえいおー!」

「えいえい……おー……」


 恥ずかしさを隠せず、アオイも控えめにポーズを真似る。その姿に、シロがくすりと笑った。



 ***



「……1勝4敗、か……」


 予選を終えたアオイは、思わず苦笑いを浮かべた。最初の1勝こそ手応えがあったが、その後はなすすべなく敗北が続いた。


「いっ、1勝できてよかったです……! でも、惜しい場面もありましたよ」


 シロがやさしく微笑んだ。


「シロさんはどうでした?」

「ふふふっ。全勝です!」


 ピースをするシロに、アオイは小さく肩を落とす。


「ですよね……」

「落ち込まないでください。まだ始めて間もないんですから」

「大丈夫です。予選敗退しちゃいましたけど、楽しかったです!」


 シロはその言葉に、ふっとやさしい笑みを浮かべた。


「それなら、よかったです」


 その笑顔を見て、アオイは少しだけ顔を赤らめた。


 やがて始まった決勝トーナメント。シロは圧倒的な強さで次々と勝ち進み、ついに準決勝へと進出した。


「では、ルミナスドラゴンの広範囲攻撃で勝ちですね」


「うおー!」「すげぇ……」


 会場が沸く。シロの周りには観客が集まり、注目の的になっていた。


「つっ、強すぎる……」


 対戦相手が苦笑しながら頭を下げると、シロは丁寧に握手を差し出した。


「対戦ありがとうございました」

「そ、そして美しすぎる……」


 デレデレの対戦相手。観客席からも声が飛び交う。


「女神様だ……」「俺、後で写真頼もう……」


 ――……やっぱ、あの美貌だし注目されるよな


 参加者の大半が男性。しかも、とんでもない美貌。目立たないはずがない。


 そんなシロが、ふいにこちらを見て小さく手を振る。


「勝ちましたよ。いえい」


 ピースサインを向けてくる彼女に、視線が一斉にアオイへと向けられる。その目は、明らかに“嫉妬”の色を含んでいた。


 ――うう、視線が……でも……


 ちょっとだけ、誇らしくなってしまう。



 ***



 二人は空いている席に腰を下ろし、水を飲みながら休憩を取っていた。


「さすがですね……」

「ふふふっ。ありがとうございます」


 そのとき、近くの観客たちがざわつき始めた。


「やべえよあの小学生!」「あのお姉さんもすごかったけど、あの少年も中々……」


「決勝の相手、強いみたいですね……」


 アオイが不安を口にすると、シロはニコッと笑った。


「それは楽しみです」


 ――……余裕そうだな


 そしてアナウンスが響く。決勝戦が始まろうとしていた。


 シロの対戦相手は、小柄な少年だった。キャップを深く被り、マスクをつけて、後ろで髪を束ねている。


 ――子ども……?)


「よろしくお願いしますね」


 シロが握手を求めるが、少年は無言のまま、小さく会釈するだけだった。


 ――無理もないよな。あんな美人を前にしたら、小学生だって緊張するよ


 アオイは苦笑しながら席を立つ。


「ちょっとお手洗い、行ってきます」


 手を洗い、鏡に映る自分の顔を見つめながら、アオイはシロの言葉を思い出していた。


 ――全てを投げ打ってでも、叶えたい夢か……


 両手で頬を軽く叩き、気を引き締めて会場へ戻る。



 ***



「「「うおおおお!」」」


 戻った瞬間、歓声が響いた。アオイは驚き、観客をかき分けて前へ出た。


「……なにが起きてるんだ……」


 するとシロは少し焦った表情を浮かべていた。


「あなた、やりますね……」


 盤面には、シロの“ホワイトウルフ”1体だけ。対する少年の場には、5体以上のカラモンが展開されていた。


「やば……どうなってるんですか?」


 近くにいた観客が説明してくれる。


「あの少年、ブラックデッキ使いなんだけど……本来は妨害が得意なデッキなんだ。なのに今回は速攻型にしてきた。完全に奇襲ってやつだよ」


「マジか……」

「いやぁ、ホント厄介だよ。あのお姉さんでも厳しいかもしれない」


 アオイの額に汗がにじむ。


「わたしはダイアモンドガーディアンを出して、さらに“ホワイトバリア”を展開します」


「おっ! これで多少は持ちこたえられるか?」


 観客の1人がそう言うと、少年が静かにカードを盤面に出す。


「あっ、あれは……!」


「な、なんですか?」


「“ブラックアウト”……相手のマジックアイテムをすべて破壊し、さらに相手のカラモンの防御力を下げる最悪のカード……!」


 ――……うわ、最悪すぎる


 その瞬間、少年が指を自分のカラモンに乗せ、その指をダイアモンドガーディアンに移し、トントンと叩いた。


「ガーディアンが……落ちた……」

「絶対絶滅……」

「それにしても、あいつ、一言もしゃべらないよな……」


 周りの声に、アオイが不安そうにシロを見つめると、シロの口元に笑みが浮かんでいた。


「ダイアモンドガーディアンが破壊された時、“ホーリーリング”を発動します」


 会場が沸く。


「セメタリーゾーンから、スターランサー2体を場に出します。そして私のターン。シルバーナイトを追加で召喚、さらに10枚をセメタリーゾーンに送り、“ルミナスホワイトエンジェル”を召喚」


「ルミナスホワイトエンジェルを大会で!?」


「やば……これ、大逆転あるぞ……」


「3体をセメタリーゾーンに送り、相手のカラモンを3体破壊します。そしてルミナスホワイトエンジェルで攻撃!」


 相手の最後のカラモンが場から消えた。


「勝者、七塚シロ選手!!」


「すげぇえええ!」「大逆転……!」


 ――……さすがだ


「対戦ありがとうございました」


 シロが手を差し出すが、少年は無言のまま立ち上がり、握手せずに去っていった。


「なんだったんだ、あの少年……。あっ、お疲れ様です、シロさん!」


 振り返ったシロが、満面の笑みでピースをしてくる。


「優勝です!」

「あはは……おめでとうございます!」


 そう言った矢先、立ち上がりかけたシロがふらりとよろめく。


「だっ、大丈夫ですか?」


 アオイは慌ててシロの体を支えた。



「すみません……ちょっと疲れちゃいました」

「とりあえず、どこかで休みましょう!」


 アオイはシロを一度座らせ、彼女に背を向けて膝をついた。


「乗ってください」

「えっ!? でも、わたし重いかも……」

「いいから、乗ってください!」

「……はい」


 そっと背中に乗ったシロを感じながら、アオイは立ち上がる。


「……え?」

「すいません、重いですよね……」

「いや……全然です」


 ――軽っ……!


 アオイはシロのあまりの軽さに驚きつつ、そのまま彼女を背負って、カフェへと向かって歩き出した。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、女声を使ってVTuberになる!?』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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