表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/92

第79話『両声類仲間ですから!?』

 



 ミャータは真剣な眼差しをアオイに向けたまま、静かに言う。


「この前、ウララちゃんしか知らんこと知っとったから、なんかおかしいなって思うてん。それがずっと引っかかっとって、今日レコーディングやって聞いて、来てみたんよ」


 彼女の言葉が耳に届いた瞬間、アオイの思考は激しく回転し始めた。心臓の鼓動が早まるのを感じる。まさか……ミャータはすでに何かを確信してるのか? どうする? どう言い訳する?


 否定するか、誤魔化すか――いや、違う。ここで不用意に動揺を見せたら、それこそ怪しまれてまう。


 アオイはそう思いながら、ぎゅっと唇を噛む。すると、彼の脳内であることを閃いた。


「わかった。今ウララに電話かけるよ」


 ミャータの表情がわずかに動いた。沈黙のまま、その場に留まる。


 アオイはポケットからスマホを取り出し、画面を見つめる。指先がわずかに震えていた。発信履歴を呼び出し、シロの番号を見つけると、そのまま電話をかける。


 コール音が鳴り、ほどなくしてシロが電話に出た。


「もしもし、どうしましたかアオイさ――」

「もしもしウララ、レコーディングお疲れ様」


 シロは一瞬、沈黙した。アオイは冷や汗が背筋を伝うのを感じながら、祈るように待った。


「……どういうことで――」

「なっ、なんかミャータくんがウララと話したいらしくて、スピーカーにするから話してもらっていいかな?」


 アオイの頬を一滴の汗が流れる。


 ――頼むシロさん、気づいてくれえええ!



 シロはクスッと笑った。


「なるほど……わかりました。いつでもスピーカーにしてください」


 その言葉に、アオイは内心安堵しながら、素早くスピーカーに切り替えた。


「もしもしー! ミャータくん、どしたの?」


 シロはウララの声を完璧に再現し、明るく話し始めた。ミャータは驚きの色を浮かべる。


「ウッ、ウララちゃんなんか!?」


「当たり前じゃん! えっ、ほんとどしたの?」


 ミャータはあたふたしながら答えた。


「たっ、大した話ちゃうねんけど、この前は電話ありがとな〜!」


「こちらこそだよー! てか、直接かけてくれればいいのに!」


 シロの発言にアオイの心臓が跳ね上がる。


 ――余計なことは言わないでえぇええ!


「ほっ、ほんまそれやな!」


「変なミャータく〜ん。てかてか表見さん、配信のことで相談あるから、帰ったら電話くださーい」


「わっ、わかった」

「はーい! じゃあまたねミャータくん!」

「まっ……またなぁ」


 通話が切れると、スマホから微かな電子音が響いた。


 ミャータは動揺した様子で口を開く。


「ごっ、ごめんな! 変なこと言うて……」


 顔を真っ赤にして、申し訳なさそうにうつむく彼女の姿に、アオイは思わず口元を引き締めた。


「ぜっ、全然!」


 ミャータは両手で顔を覆い、恥ずかしさに耐えかねるように肩を震わせる。


「普通に考えてアオイさんがウララちゃんなわけありえへんのに……うち、何言うてるんやろ」


 アオイは一瞬、罪悪感を覚えた。


 ――騙してるつもりはない……でも、結果的にそうなってることに変わりはない……


 ミャータは、指先で髪をくるくると弄びながら言った。


「うちのこと、変なヤツやと思ったやろ」

「そんなこと思ってないよ! 気にしないでね」

「ありがとう……アオイさん、ほんま優しいな」


 彼女は恥ずかしそうにモジモジしながらそう言った。


「ほな、うち、そろそろ帰るわ!」

「うっ、うん! 気をつけて帰りなね」


 ミャータは笑顔を向けながら小さく手を振ると、足早に帰っていった。


 アオイはその背中を見送りながら、胸に残る罪悪感を静かに嚙み締める。


 ――なんとかなった……けど……



 ***



 アオイは足早に帰宅し、ドアを閉めた途端、すぐにスマホを取り出してシロに電話をかけた。するとすぐに彼女の声が聞こえた。


「もしも――」

「助かりましたあぁぁあああ!」


 アオイは思わず叫ぶように言った。


 電話の向こうからシロの笑い声が響く。


「ふふふっ。わたしもバレないかドキドキしちゃいましたよ」


「いや……完璧な声帯模写だったので大丈夫だと思います……」


「それならよかったですね。でも、いつまでもバレないまま突き通すのは難しいかと」


 アオイはその言葉に、一瞬言葉を詰まらせた。


「はい……」


「正直、時間の問題だと思いますよ。それに、アオイさんは人が良さそうなので、秘密を抱えたままでいるのは辛いんじゃないですか?」


 アオイは黙り込んだ。


「正直、そう思うことはありますね……」


「アオイさんの問題なので、わたしがこれ以上口を出すことはしませんが、何かあればお話聞きますからね」


「ありがとうございます……」


「ふふふっ。両声類りょうせいるい仲間ですからね」


「"りょうせいるい"ってなんですか?」


「男女両方の声が出せる人のことを、両生類の"せい"の字を"こえ"に変えて両声類と言うらしいですよ」


「なるほど……」


「思い詰めすぎないでくださいね」


「はい……。でも、少し考えてみるきっかけにはなりました」


「そうですね。ただ、どちらにせよアオイさんの気持ちが大切ですよ」


「はい……今日は本当にありがとうございました」


「ふふふっ。いえいえ」


 そして通話を終えた。



 ***



 それから数日後、アオイのスマホにメッセージが届いた。


『クロっちの仕上げ作業が終わったらしいから、今日の17時からクロっちのスタジオでお披露目会するからこれるー?』


 西園寺からの連絡だった。

 アオイはスマホを握りしめながら、そのメッセージを何度か読み返す。期待が膨らみ、胸が高鳴るのを感じた。


『いけます!』


 一言だけ返したものの、アオイの頭にはシロとの会話が残っていた。


 ――いつまでも秘密を抱えたままは難しい


 ――時間の問題だ


 西園寺に相談すべきだろうかアオイは悩む。しかし、答えは出ない。


 時計を見れば、16時を過ぎている。考えすぎても仕方がない――とりあえず、支度をして東ヶ崎のスタジオに向かうことにした。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、女声を使ってVTuberになる!?』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ