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第71話『ユリスとコスモのスパチャ合戦!?』&70.5話

 



 数日後の夜、アオイは雑談配信をしながら、登録者数150万人突破の瞬間を待っていた。



 ◆◆◆



 画面の右上に表示される登録者数が目に留まる。149万9998人。あと少しで150万人の大台だ。アオイの胸が小さく高鳴った。


 そして突然、数字が跳ね上がった。そして――150万人達成。


 その瞬間を目撃したアオイは、思わず声を上げた。


「やったー! 150万人達成!」


 コメント欄が一気に加速し、祝福の言葉が次々と流れ込んでくる。


 ▼「ウララおめでとー!」

 ▼「150万人まで早すぎて笑うwww」

 ▼「俺はデビュー動画から追ってる古参」


 アオイは画面越しに笑顔を弾けさせた。


「みんなありがとー! このまま200万人いっちゃうよー!」


 興奮冷めやらぬ中、スマートフォンが小さく振動した。西園寺からのメッセージだ。アオイは一瞬目を細めて画面を確認し、その内容に心が躍った。


『150万人おめでとう。記念に新曲プレゼント♪ 今、発表しちゃっていいよ』


 彼はマイクに顔を近づけ、声を弾ませた。


「やばいよみんなー! たった今プロデューサーさんからメッセきて。150万人突破記念で、新曲のプレゼントだってー!」


 瞬間、コメント欄が熱狂に包まれた。


 ▼「やったねウララちゃあぁぁああん!」

 ▼「新曲楽しみすぎる……」

 ▼「わたし1人で100万回聴きます!w」


 アオイが視聴者の反応に目を細めて微笑んでいると、突然、画面に赤いスパチャの通知が飛び込んできた。


 紫波ユリスからの15000円。アオイは目を丸くした。


 ――えええシオンさん!? そんなわざわざスパチャじゃなくてもいいのに……


 ▽「150万人おめでとうございます。200万人もあっという間ですね。またコラボもしましょう」


「ユリス様ありがとー! またコラボしてください!」


 感謝の言葉を口にした直後、今度は浅葱コスモから20000円のスパチャが届いた。その金額に、アオイは息を呑む。


 ――20000円!?


 ▽「ウララちゃんおめでとう! またコラボしよな〜! byウララちゃんラブのコスモ船長」


「あはは、ラブって……でも、船長ありがとー!」


 軽く笑いながら返した瞬間、再びユリスからスパチャが飛んできた。今度は30000円だ。アオイの喉が小さく鳴った。


 ▽「p.s.ウララちゃんの1番のファンより」


 ――あはははは……


「あっ、ありがとー」


 苦笑いを浮かべながら呟くと、次はコスモからのスパチャが届く。金額は40000円。アオイの目が泳いだ。


 ▽「愛してるよウララ。byウララの旦那」


 そして間髪入れず、ユリスから50000円のスパチャが追加された。


 ▽「p.s.ウララちゃんのことを全て知ってるユリスより」


 ――シオンさんそれはまずいって!


 アオイの頭が一瞬混乱した。コメント欄がさらに加速する。


 ▼「なんだなんだ!? ユリス様とコスモ船長のスパチャ合戦!?」

 ▼「愛されキャラのウララちゃん」

 ▼「ウララの奪い合い勃発」


「2人ともいい加減にしなさあぁぁああい!」


 思わず叫んだその時、画面に新たな通知が現れた。アリアから、通話ルームへの招待だった。アオイは一息ついて視聴者に告げた。


「アリアリから通話の招待きたよー!」


 そして通話チャットに入ると、明るい声が耳に飛び込んできた。


「ウララちゃん、150万人突破おめでとー!」


 アオイが返事をしようとした瞬間、コメント欄に大量のスパチャが流れ始めた。



 ▽「アリアリの配信から来ました〜。ウララちゃんおめでと〜!」

 ▽「うちの姫とまたコラボしてあげてください!」

 ▽「アリアリの次に推してます。150万人おめです」


 アリアのファンと思われる視聴者からのものだ。アオイは彼女からの予期せぬサプライズに困惑した。


「ええええ何これ……。みっ、みんなありがとー!」


 あたふたしながらも感謝を口にすると、アリアが楽しそうに笑った。


「こっちでも配信してるんだけど、ウララちゃんを驚かせよーってなって、みんなに協力してもらったんだよー!」


「ほえぇ……嬉しいけど、びっくりしちゃったよ」


「あっ、アリアリが200万人突破したときのお礼……だよ」


 アリアの声が少し恥ずかしそうに揺れた。アオイはふと、動物園のことを思い出す。


「なっ、なるほど。ありがとねアリアリ」


「うん!」


 彼女の弾けるような返事に、アオイは心が温かくなった。


 ▼「ウララちゃん争奪戦はアリアリの勝利〜!」

 ▼「この2人尊い……」

 ▼「ウララ×アリアが最強よな」


 二人はそのまま軽く雑談を交わし、和やかな空気の中で配信を終えた。



 ◆◆◆



 アオイはヘッドセットを外し、ソファに深く身を沈めた。肩の力が抜けていく。全身を包むのは、心地よい高揚感。


 ――最近、特に配信が楽しい。


 ふと、そんなことを思う。

 登録者数や視聴回数。数字として見える成果は、わかりやすくて素直に嬉しかった。それだけじゃない。この仕事を始めてから身についた技術や、出会えた人たちの存在も、今ではどれもかけがえのないものに変わっていた。


 改めて、自分は登録者数150万人のVTuber"紅音ウララ"なんだと、そんな実感が胸にじんわりと広がっていく。



 ***



 翌日、アオイは西園寺や企画担当者たちと会議室に集まっていた。テーブルの上には新商品のグッズ案が並び、カラフルなデザインが目を引く。アオイは一つ一つを手に取りながら、視聴者の反応を想像して小さく頷いた。


「そういえば、新曲はクロッちが気合い入れて作ってるみたいだから、楽しみにしてなよ」


「それはありがたいですけど、体には気をつけてほしいですね……」


「それは僕からも口酸っぱくして言ってるから安心してよ」


「あはは……」


 アオイは乾いた笑いを漏らし、視線を動かしたとき、ふと、見慣れない男性キャラクターのグッズが目に留まる。鋭い目つきに、クールな雰囲気をまとったデザイン。どこか引っかかるものを感じて、アオイは首をかしげた。


「このキャラって……」


 西園寺が軽い笑みを浮かべて答えた。


「ああ、それは卯ノうのはなレオだよ。中の人の七塚ななつかシロは体調を崩してしばらく療養しててね。近々復帰するから、それと同時に新しいグッズを販売するのさ」


 ――Wensに男性VTuberっていたんだ……


 アオイは内心喜んでいた。これまで女性VTuberとの交流が主だった彼にとって、男性VTuberの存在は新鮮で、少しだけ胸が弾む。


「まぁ、近々紹介するよ」


「わかりました」


 西園寺の言葉に頷きながら、アオイは期待を膨らませた。




 〜〜〜第70.5話『ミャータは乙女!?』〜〜〜




「よっ! 男前!」


「からかわないでよ。それにミャータくんこそ、意外と女の子らしくて"可愛い"ところあるじゃん」


 その瞬間、ミャータの胸が突然締め付けられた。心臓がドクンと強く脈を打ち、耳まで熱くなるのを感じた。


 ――はぇえ!?


 頭の中が一瞬真っ白になり、反射的に通話終了後のボタンを押してしまった。スマホの画面が暗くなり、静寂がミャータを包む。彼女は呆然と手の中の端末を見つめた。


「まっ、また可愛いって……」


 心臓がまだ激しく鳴っている。

 そしてカフェでの記憶が鮮やかに蘇った。アオイが迷惑客から自分を守ってくれた姿。毅然とした態度で立ち向かい、自分を熱い紅茶から庇うように抱きしめてきた、その時の彼の温もり。ミャータの胸が締め付けられる。


「ずるいやろ……あんなの……」


 呟きが自然と漏れ、顔がさらに熱くなった。頬に手を当てると、火照りが指先に伝わる。ミャータはソファに崩れるように座り込み、目を閉じて深呼吸した。さっきのアオイの言葉と、カフェでの出来事が頭から離れない。心臓が激しく弾む。その時――



「あっ!」



 電話を切ってしまったことに気づき、ミャータは慌ててスマホを手に取った。急いでアオイに電話をかけると、呼び出し音が鳴るたびに胸が締め付けられる。そして繋がった瞬間、彼の声が飛び込んできた。


「ごめん、俺、変なこと言っちゃった!?」


 焦ったアオイの声に、ミャータは咄嗟に取り繕った。


「ごめんごめん! スマホのバッテリー切れちゃっただけや!」


 明るく誤魔化す声とは裏腹に、ミャータの心臓は激しく鼓動していた。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、女声を使ってVTuberになる!?』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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