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第67話『船長は下手っぴ!?』

 



 ミカンとの電話を終えた後、アオイはキッチンへ向かい、コーヒーを淹れた。カップを手にソファに戻り、一口飲んでほっと息をつく。しかし、すぐにミャータに連絡しようとしたことを思い出す。慌ててスマホを手に取り、ミャータの連絡先を開くと、指を滑らせながらメッセージを打ち始める。


『お疲れ様です。ウララとのコラボの件、ミドリさんから聞きました。ちょうど西園寺さんに頼まれてた案件がありまして、ウララと一緒に配信してくれる人を探してたんです。明後日って時間ありますか?』


 送信すると、スマホの画面を伏せる。小さく息をつきながら、肩の力を抜いた。ふと窓の外に目を向けると、ゆっくりと雲が流れていくのが見える。


 今日の配信までは、まだ時間がある。アオイはカップを傾け、静かにそのひとときを味わうことにした。



 ***



 二日後、アオイはミャータとのコラボ配信の準備をしていた。


  窓の外では、夕陽が空を茜色に染め上げ、部屋の中に柔らかなオレンジ色の光を投げかけている。テーブルの上ではコーヒーの残り香が静かに漂っていた。アオイはパソコンを立ち上げ、ヘッドセットを装着し、通話ルームでミャータの入室を待った。


  ほどなくして、ミャータが部屋に入ってきた。


「初めまして、紅音ウララです! 今日はよろしくお願いします!」


「ほんもんやー! ぼく、ウララちゃんのめっちゃファンなんやで。特に歌が好きなんよー」


「ありがとうございます! 私もミャータさんの歌声好きですよ」


「聴いてくれたん? 照れる〜。てかてか、ウララちゃんの本名なんていうん?」


  その言葉に、アオイの胸が一瞬ドキリと跳ねた。


 ――そういえば、その辺のこと考えてなかった……


 頭をフル回転させ、彼はとっさに明るい声で誤魔化した。


「下の名前は本名なんですよ〜」


「そうなん? 可愛い名前やね。てか、タメ口でええよ」


「わっ、わかったよー!」


  アオイは内心で焦りを感じつつも、ウララらしい軽やかなトーンを崩さなかった。


「緊張しなくていいんやで〜」


 ミャータの関西弁が耳に心地よく響き、彼の緊張を少しだけ解きほぐしてくれる。


 そして配信が始まった。



 ◆◆◆



「宇宙海賊団船長、浅葱コスモやで〜! 今日はウララちゃんとコラボや、楽しんでな〜!」


「紅音ウララだよ〜! 今日もみんなでロックンロール!」


 二人が視聴者に向かって元気よく挨拶すると、コメント欄が賑わう。


 ▼「コスモ船長こんばんはー!」

 ▼「ウララちゃんととコスモくんのコラボって初めてじゃない?」

 ▼「船長は配信でもウララちゃん好きって言ってたよね〜」


 アオイは企画の説明に取りかかった。


「今日はね、コスモ船長と一緒に『音コピクイーン』をやるよー! 対戦モード勝負だよ!」


「せや! 動物の鳴き声とか機械の音とか、色々あるんやで〜。負けへんからな、ウララちゃん!」


  コスモが挑戦的な口調で言い放つと、アオイは小さく笑った。昔から音真似が得意だった彼にとって、このゲームはまさに腕の見せどころだ。二人は早速ゲームをスタートさせた。


「最初のテーマは『犬の鳴き声』! 簡単そうだね!」


 そしてお手本の音が流れると、アオイは軽く喉を整え、「ウォンッ! ワウワウ!」と勢いよく鳴いてみせた。画面に表示された点数は92点。


 ▼「ウララちゃんうまっ!」

 ▼「リアルすぎでしょwww」


「めっ、めっちゃ上手いやん!」


  コスモが焦ったように言うと、「わんっ! わんわん!」と子犬のような可愛らしい鳴き声を披露した。高めのトーンに少し拙さが混じり、アオイは思わず微笑んだ。得点は58点。ミャータのアバターが恥ずかしそうに頭をかく仕草を見せると、チャットがさらに盛り上がった。


 ▼「棒読みwww」

 ▼「船長、可愛い〜! 子犬みたいだね」

 ▼「小型犬で草」


「う、うるさいわ! 誰が小型犬や!」


  コスモが声を張ると。アオイは彼女の照れっぷりが妙に愛らしいと感じた。


「次のお題は『コンビニの入店音』って、ムズすぎひん!?」


 コスモが驚くと、お手本を聴き終えたアオイは深呼吸し、唇を弾ませて「ピンポンピンポンピンポーン!」と軽やかに再現した。得点は89点。


 ▼「すごすぎワロタ」

 ▼「もしかしてコンビニから配信してます?w」


 絶賛のコメントが並ぶと、アオイは得意げに言った。


「まぁまぁかな〜」


「うっ、上手すぎやろ! ぼくも負けてられへん!」


  コスモが意気込むと、「ぴんぴょんぴんぴょんぴんぴょーん!」と声を出す。しかし、その声はどこかぎこちなく、アオイは笑いを堪えるのに必死だった。得点は37点。コスモが両手で顔を覆う姿が映し出され、チャットが笑いに包まれた。


 ▼「wwwwww」

 ▼「もう船員に降格なwww」

 ▼「さすが俺の推し……」


「ぴんぴょんって……ぷぷっ」


「わっ、笑うな〜!」


  アオイが笑うと、コスモの声が高くなり、じたばたする姿が視聴者の心を掴んだ。


 ▼「船長の照れ声いただきましたー!」

 ▼「コスモくん可愛い……」


「次は『セミの鳴き声』だよー!」


  これは一番得意だと、アオイは内心で確信していた。そしてお手本を聴き終えると、「ミーンミンミンミンミンミーン!」と伸びやかに鳴いてみせた。点数は96点。


 ▼「プロでしょwww」

 ▼「レオ様みたい」

 ▼「夏が来たわ……」


「ウララちゃんってモノマネ芸人なんか……」


  ミャータが呆然とした声で呟くと、「みーんみんみんみん!」と必死に真似てみた。アオイはあまりの拙さに笑いを堪えきれず、ついに吹き出してしまった。得点は14点。


「もう嫌やぁあああ!」


 ▼「コスモくん頑張れー!」

 ▼「それでも船長は可愛い」


 そして 配信が終盤に差し掛かり、アオイは視聴者に向かって締めの言葉を投げかけた。


「『音コピクイーン』楽しんでもらえたかな〜?」


「ぼく、下手すぎてあかんかったわ〜」


 ▼「ウララちゃん圧勝!」

 ▼「でもコスモくんも可愛かったよ〜」

 ▼「このゲーム面白そうだから後でやってみよ」


 コメント欄は賑わい、スーパーチャットが次々と飛び交った。アオイは満足げに頷き、ゲームのダウンロード方法を伝えた。


「概要欄のURLからダウンロードして遊んでみてね〜。それじゃみんな、今日も観てくれてありがとう〜! またね〜!」


「おおきに〜!」


  二人が画面越しに手を振ると、配信は大量のコメントと共に幕を閉じた。



 ◆◆◆



 彼女の拙い音真似を思い出し、アオイは笑いを堪えきれなかった。


「ミャータくんお疲れ様。めっちゃ楽しかったね! ぷぷっ」


「まだ笑ってる! もう勘弁してや〜!」


「いや、ミャータくんほんと可愛かったよ。あのセミの鳴き声、最高だった……クスクス」


「やっ、やめてや〜! 恥ずかしいから忘れて〜!」


  彼女の声がいつも以上に高くなり、アオイはそのギャップにますます笑いがこみ上げてきた。普段のボーイッシュな雰囲気とは裏腹に、照れる彼女の姿が妙に可愛く感じた。


 ミャータとの軽い雑談を終え、通話ルームを後にしたアオイは、ふとスマホに目を落とした。画面にはミドリからのメッセージが届いている。


『配信観てました!! ミャータくん可愛かったですね。それに表見さんの音真似すごかったです!』


 アオイは口元に小さな笑みを浮かべると、指先で返信を綴った。


『ありがとうございます。面白かったので、ミドリさんも配信でやってみてください』


 送信ボタンを押すと、彼はソファに深く身を沈めた。配信の余韻とミャータのたどたどしい声が脳裏をよぎり、自然と笑いが漏れた。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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