表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/92

第54話『晴天あれば暗雲あり!?』

 



 事務所の会議室で、アオイはソファに座るシオン、ミカン、ミャータ、カレハを見渡した。シオンは背筋を伸ばし、穏やかな気品を漂わせて座っている。ミカンはソファの端で膝を軽く揺らし、瞳を輝かせていた。ミャータは背もたれにだらしなく凭れ、のんびりした空気を纏い、カレハは少し前のめりになり、無垢な笑顔を浮かべている。


 カレハの天然な言動に翻弄されつつも、アオイは気を引き締めた。企画を決めるという大役が、自分の肩にのしかかっている。


「イベントの企画について、何か意見ないですか?」


 深呼吸を一つ挟み、落ち着いた声で切り出す。しかし、心の奥では初めて担う責任の重さがじわじわと広がっていた。


 四人の反応を待ちながら、アオイは手元のメモ帳に視線を落とした。


「わたし、ベタだけど参加型のクイズ大会がいいと思う!」


 ミカンが勢いよく手を挙げ、目をキラキラさせて提案した。その溌剌とした声に、アオイは一瞬たじろぎつつも頷いた。


「正直、俺の中でもそれがいちばんの候補なんだけど、時間的にもう一つくらい企画を詰め込めると思うんだ。他に何かアイデアないかな?」


 アオイはさらなる意見を求めて皆を見回した。すると、ミャータがゆったりと口を開いた。


「ぼくはゲーム配信か、来場者と格ゲー対決なんかもええと思うで」


 その提案に、アオイは目を細めて考え込んだ。脳裏に、先日ミドリと交わした雑談が蘇る。


「ゲーム関係はミドリさんからもアイデアが出てて、俺も悪くないと思ってるんだ」


 アオイは無意識に頬を緩めた。その瞬間、ミカンがわずかに眉をひそめる。どうやら、何か引っかかるものがあったらしい。


「ミドリさんと、いつのまにそんな大事な話してたんですね~」


 彼女が目を細め、頬をぷくっと膨らませる。その不満げな様子に、アオイは慌てて言い訳をした。


「この前、たまたま話す機会があってさ!」

「ふーん」


 ミカンは短く返し、口を尖らせてそっぽを向いた。アオイは内心で冷や汗をかくと、カレハが指を口元に当て、とぼけた顔で呟いた。


「え~、これって修羅場ですか~?」


「罪な男ね……」


 シオンがボソッと呟くと、思わずアオイは立ち上がった。


「真面目に話し合いしてよおぉおお!」


 アオイは泣きそうな声で叫ぶと、ミャータが腹を抱えて笑いだし、会議室に哄笑が響き渡った。アオイは額を押さえ、なんとか冷静さを取り戻そうと深呼吸した。そして、シオンに視線を移す。


「シオンさん、何かアイデアないですか?」


 疲れを含んだ声で尋ねると、シオンは顎に手を当てて考え込んだ。


「迷うわね。ちなみに、前回は大喜利とゲーム配信をしたわよ」


 彼女の落ち着いた口調に、アオイは少し安堵した。だが、カレハが首をかしげて続ける。


「やるなら違うことがいいよね~」


 その言葉を受け、アオイは少し考え込んだ。どうせなら、新鮮で盛り上がる企画にしたい。やがて一つの案が浮かび、口を開く。


「じゃあ、今回は両方とも参加型にして、クイズ大会と格ゲー対決をやるのはどうかな?」


 皆の反応を窺うと、ミカンが即座に手を叩いた。


「いいと思います!」


 続いて、ミャータが肩をすくめ、気楽に頷く。


「ぼくも意義なしや」


 その隣でシオンも小さく頷く。すると、カレハが目を輝かせてさらにアイデアを重ねてきた。


「ナマリちゃんが格ゲー強いから、来場者に二人VTuber選んでもらって、その二人を倒して最後にナマリちゃんを倒したら賞品ゲットみたいなのどうですか~?」


 アオイはその発想にピンときた。


「それいいかも! ただ、三人倒すのはハードル高いから、倒した人数で賞品のランクが上がるようにしようか。それで、参加した来場者の勝ち星の合計に応じて、別に後日プレゼント企画をやって、その当選枠を増やす仕組みはどうかな?」


 興奮気味に言葉を連ねると、カレハが無邪気に褒めてきた。


「めっちゃいいじゃないですか~。表見さんやる~」


 その純粋な賞賛に、アオイは照れくさそうに頬を掻いた。


「いや、まあ、みんなのアイデアがあってこそだし」


 謙遜しつつも、胸には達成感が広がっていた。


 それから企画を練るためしばらく話し合うと、会議は順調に終わった。


 そして片付けを終えた後、カレハがアオイに近づいてきた。彼女は天然な笑顔を浮かべ、無垢な声で尋ねる。


「表見さん、連絡先教えてください~」


 アオイは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。


「え、あ、はい」


 二人はスマホを取り出し、連絡先を交換した。カレハが「やった~」と小さく喜ぶ姿に、アオイは微笑みで返した。



 ***



 帰宅したアオイは、自宅のソファにどさりと腰を下ろした。疲労が体に染みていたが、頭はまだ会議の興奮で冴えていた。彼はスマホを手に取り、今日の話し合いをメモアプリにまとめ始めた。指が画面を叩くリズムが心地よく、企画の輪郭が徐々に鮮明になっていく。書き終えると、西園寺にメッセージを送った。


 『西園寺さん、今日の話し合いの内容です。参加型企画として「クイズ大会」と「格ゲー対決」の提案が出ました。格ゲー対決は、参加者が選んだVTuber2人とナマリちゃんに挑戦する形で、倒した人数で賞品が増えます。さらに、参加者たちの合計勝利数に応じて、後日プレゼント企画を実施予定。どうでしょうか?』


 送信ボタンを押すと、アオイはキッチンへ向かった。コーヒー豆の香ばしい匂いが部屋に広がり、彼は深い息をつきながらカップを手に持つ。ソファに戻り、一口飲んだところでスマホが振動した。西園寺からの返信だ。


 『おっ、いい感じだね! 表見くんのアイデア、期待通りだよ。細かいことは後日話し合おう。とりあえずお疲れ様!』


 その言葉に、アオイは肩の力を抜いた。自分が大きなイベントの一端を担い、その形を創り上げている実感が胸を温かくした。喜びが静かに湧き上がり、顔が自然と緩む。コーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いた瞬間、スマホが再び鳴った。画面にはミカンの名前。アオイは軽い気持ちで電話に出た。


「もしもしミカンちゃん。どうし――」

「表見さん……わたし、イベントに出れないかもしれません……」


 ミカンの沈んだ声に、アオイは息を呑んだ。


「ええ、どうしたの!?」


 声が裏返り、心臓が急に早鐘を打ち始めた。電話の向こうでミカンが小さく息を吸う音が聞こえ、重い空気が流れる。


「詳しくは……直接話したいです……」


「わっ、分かった。明日、西園寺さんと今日のことを話し合うんだけど、14時以降なら空いてるよ」


 冷静さを保とうと努めたが、声にはわずかな不安が混じっていた。


「じゃあ、14時半にいつもの駅の西口で大丈夫ですか?」


「了解!」


 通話が途切れると、アオイの胸にざわりとした不安が広がった。ミカンの声に滲んでいた微かな重みが引っかかり、頭の中で嫌な想像が渦を巻く。それでも、考えすぎても仕方がないと自分に言い聞かせながら、今日も配信の準備を始めた。



 ***



 翌日、アオイは約束の時間に駅の西口へ向かい、14時半を少し過ぎた頃、改札口付近でソワソワしながらミカンを待っていた。人混みの中、まだ彼女の気配は感じられない。アオイはスマホを手に持ち、足踏みをして落ち着かない気持ちを紛らわせる。


 その時、遠くから走ってくる小さな影が見えた。ミカンだ。


「遅くなってすいません!」


 息を切らせながら謝るミカンに、アオイは目を丸くした。いつもはブカブカのシャツと太めのジーンズを好んで着ている彼女が、今日は白いブラウスに淡いロングスカートという清楚な装いだ。化粧も普段より丁寧で、薄いピンクのアイシャドウとリップが彼女の顔を柔らかく彩っている。


「どうですか、この服装。いつもより女の子らしくないですか?」


 ミカンが照れながら笑うその姿は、昨日の電話の重苦しさとは正反対で、アオイはふっと肩の力を抜いて安堵した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ