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第50話『VTuberイベントを開催します!?』

 



 MVの投稿から二週間が経ち、今日はグループ対抗戦の結果が発表される日。本日の午後12時までの総再生数で、グループ対抗戦の勝敗が決まる。

 室内には西園寺と両グループのメンバーが集まり、緊張感が静かに漂っている。アオイは深呼吸し、その時を待つ。窓から差し込む日差しが、部屋の厳粛な雰囲気をわずかに和らげていた。


 代表が穏やかに口を開いた。


「では、結果を発表します。西園寺くんのグループ『クラッシュ・キャンディー』の再生数は506万再生。そしてこちらのグループ『Heart of Resolve』の再生数は……509万再生です」


 その言葉に、アオイは胸が締め付けられた。西園寺が悔しさを隠しきれず、眉を寄せて唇を噛む。モモハとミドリは複雑な表情で視線を落とし、ミャータは頭の後ろに両手を組んで黙って聞いていた。


 アオイは思わず呟いた。


「西園寺さん……すいません」


「表見くんが謝ることじゃないさ。全てはプロデューサーである僕の力不足だよ」


 西園寺が苦笑いを浮かべたが、その目に宿る悔しさが痛いほど伝わってくる。アオイは言葉に詰まった。


「俺――」

「お互いが全力を出して負けたんだ。それでよかったんだよ」


 悔しいはずなのに、西園寺が自分を気遣う言葉をかけてくれる。アオイの心は申し訳なさでいっぱいになった。


 すると、コガネが明るい声で割り込んできた。


「負けちゃったけど、ウチは楽しかったよー!」


 そして彼女の背後から、ナマリが半身を覗かせた。


「わたしも楽しかったです。ウララちゃんとも仲良くなれたし、それにアオにいとも……」


 そう言いかけると、彼女が慌ててコガネの後ろに隠れる。アオイは二人を見つめ、胸が熱くなった。


「二人とも……」


 すると突然、モモハが勢いよく声を上げた。


「代表、ワタシたちは勝ちました。でも、それは西園寺さんや表見さんの協力があってのことです。だからワタシたちは、西園寺さんの方針を支持します!」


 ミドリが真剣な顔で何度も頷ずく。その様子に、西園寺が驚いたように呟いた。


「モモちゃん、ミドリちゃん……」


 彼の表情は複雑で、喜びと戸惑いが混じっている。代表が穏やかに尋ねた。


「ミャータくんも、同じ意見なのかな?」


「ぼくはどっちでもええけど、二人が西園寺さん推しなら、それに乗っかろかなぁ」


「はははっ、キミらしいですね」


 代表が小さく笑うと、姿勢を正して言葉を続けた。


「グループとしてはこちらの勝利だね。ただ、勝敗を分けたのは、間違いなくあのライブ配信だろう。そしてキミたちは、自ら西園寺くんの方針の正当性を示した。対抗戦はモモハくんたちの勝ちだが、私と西園寺くんの勝負は、キミの勝ちだよ」


 代表が西園寺の方を見てニコッと笑うと、アオイ思わず食い気味に聞き返した。


「そっ、それってつまり!」


「ああ。これからも西園寺くんの方針のもと、頑張ってください」


 アオイは目を大きく開き、周りを見渡す。モモハとミドリが顔を見合わせて笑顔を浮かべ、コガネとナマリは抱き合って飛び跳ねていた。ミャータも口元に笑みを浮かべている。だが、西園寺だけが浮かない顔で呟いた。


「負けは……負けです」


 下を向く西園寺に、代表が柔らかく応じた。


「私はね、キミの方針を否定しているわけではないんだよ。ただ、キミは結果を出そうと一人で突っ走ってしまう所がある。後ろを振り返った時、誰か置いてけぼりになっていないか、もう少しだけ気にかけてあげないとね」


 西園寺がハッとした表情を浮かべた後、小さく息を吐き、深く頭を下げた。


「返す言葉もございません……」


「これからも、よろしく頼むよ」


 代表が笑顔で言うと、西園寺が顔を上げ、真剣な表情で口を開いた。


「はい、精進します」


「うんうん。では、アニメ主題歌はモモハくんたちに任せるけど、コガネくんたちはそれで大丈夫かな?」


「おっけー!」


 コガネが腕を伸ばし、親指を立てて元気に答えた。ナマリもその後ろで笑顔で頷くと、アオイは明るく言った。


「ウララも納得すると思います!」


「あはは。それならよかった」


 代表が笑いながら言うと、アオイは苦笑いしながら頭を掻いた。


 そして代表が話を締めた。


「では、これで解散としましょう。西園寺くん、それと表見くんは残ってもらっていいかな」


 ――俺も? もっ、もしかしてライブ配信の件で怒られる!?


 アオイは一瞬冷や汗をかき、他のメンバーが退室するのを見送った。


 代表が穏やかな口調で切り出した。


「まずは今回の件、本当にお疲れ様。しかし、ライブ配信の件はびっくりしたなぁ」


 その目に鋭さが宿り、アオイは慌てて頭を下げた。


「もっ、もももも申し訳ありません!」


「あっはっはっはっ! 冗談だよ」


 アオイが呆然と顔を上げると、代表が笑いながら続けた。


「すまない、少しからかっただけだよ。ミャータくんから聞いたが、あれはキミの提案らしいね」


「はい……」


「キミがしたことは、会社に属する者としてはあまりいい行動とは言えないな」


「申し訳ありません……」


「ただ、人としては正しい。私が求めるのは、そういう人間だ」


 代表が笑顔で言うと、アオイの心にあったモヤモヤが一気に晴れた。


 ――器が大きい……とてつもなく!


「キミは昔の西園寺くんみたいだね。あるいは今も……はははっ」


 アオイが驚いて西園寺を見ると、彼が照れたように目を逸らした。そして代表が言葉を続けた。


「そんな二人に頼みたい仕事があるんだ」


「え、自分にですか!?」


「ああ、大きな仕事だからね。その行動力で西園寺くんを支えてやってほしい」


「ちなみに、どんな仕事なんですか?」


 アオイが尋ねると、代表が目を輝かせた。


「今度、大きな会場でイベントを開催する。その運営の指揮を、ぜひ西園寺くんにお願いしたい。表見くんはそのサポートを頼むよ」


 アオイは仕事の規模に唖然とした。自分に務まるのか不安が押し寄せた。


「心配しないでくれ。あくまで配信活動に支障をきたさない程度にだよ。イベントでやるライブの裏方だったりね。それにキミは、ボイストレーナーとしても優秀だそうじゃないか」


「そっ、そんなこと――」

「そうなんですよー! 表見くんは教えるのが上手でして!」


 西園寺がアオイの言葉を遮って割り込んできた。彼はいつもの調子に戻っており、アオイは思わず目を見開いた。


「決まりだね。二人ともよろしく頼むよ」


「謹んでお受けいたします!」


 西園寺が執事の如く片手を添えて軽く頭を下げると、アオイを見てニヤリと笑った。


 ――この人はああああ!


 こうしてグループ対抗戦は無事に終わり、アオイは新たなステージへの一歩を踏み出すことになった。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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