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第5話『未来のライバル!?』&4.5話

 



 二人が会社に戻ると、西園寺の部下が心配そうに待ち構えていた。


「どうでした?」


 部下の問いかけに、西園寺はにっこりと微笑み、親指を立てた。それを見た彼の部下は、ほっとした様子で肩の力を抜き、その場にへたり込んだ。


「よかったぁ……わたしも説得したんですが、全然聞いてくれなくて」


「表見くんのおかげだよ」


 西園寺がアオイを見て微笑んだ。急な褒め言葉に、アオイは照れくさそうに笑った。


「俺、これから頑張ります」


 その言葉に、西園寺も彼の部下も穏やかな表情を浮かべた。そして、アオイがふと思い出したように尋ねた。


「そういえば、昨日収録したやつって、いつ公開されるんですか?」


「デビュー日に上がるよ!」


「デビュー日って、いつなんですか?」


「ん? 今日だよ」


「ええっ!? デビュー日がこんなドタバタな一日になるなんて……」


「はははっ。まぁ結果オーライじゃん! 今日の19時に動画が上がるから、ちゃんと観ときなね!」


「わ、わかりました……」


 アオイは『頑張る』と決意したものの、心の中では不安が消えていなかった。紅音ウララも、東ヶ崎さんが作る曲も素晴らしい。けれど、自分が足を引っ張ったら、全てが台無しになってしまう。そう考えると胸が重くなる。


 帰宅したアオイは時計を見た。


「18時……あと1時間か」


 彼はベッドに倒れ込み、今日の出来事を思い返す。疲れが一気に押し寄せ、次第に意識が遠のいていった。



 ***



「ん……朝? あっ、動画!」


 慌ててスマホを手に取ると、西園寺からの大量の着信とメッセージが残されていた。アオイはメッセージを確認するよりも先に電話をかけると、西園寺がすぐに出た。


「表見くん、動画観た!? すごいよっ! 新人の初投稿での初日再生数記録を、わずか数時間で更新したんだ!」

「えっ!? すいません、昨日帰ってすぐ寝ちゃったみたいで、とりあえず今から観ます!」

「おっけー!」


 アオイは電話を切り、急いで動画を再生した。再生数はすでに50万回を超えていた。その数字に驚愕し、次々と書き込まれるコメントが目に入る。


 ▼「この日を待ってた! 最推し確定!」

 ▼「ウララちゃん、かわかっこいいー!」

 ▼「間違いなくWens社の次世代エース」


 胸が熱くなったアオイは、急いで支度をして会社へ向かった。



 ***



 会社に到着すると、西園寺がエントランスのソファに座っているのが見え、アオイは興奮気味に駆け寄った。


「西園寺さん、すごいです! 本当にすごい!」


 だが、西園寺は神妙な面持ちをしており、向かいのソファには見知らぬ少女が座っていた。


「あ、表見くん! すっ、すごいことになってるね!」


 西園寺は視線が泳いでいて、どこかぎこちない様子だったが、アオイは興奮を抑えられず言葉を続けた。


「はい! これから紅音ウララとして――」

「わー!! そうそう、表見くんには”紅音ウララプロジェクトのスタッフ”として、これから頑張ってもらわないと!」


 急に口を押さえられアオイは目を見開くと、西園寺が慌てた様子で耳打ちをしてきた。


「ごめんあの子は紅音ウララの声優候補だったんだ……表見くんが中の人だってバレたら面倒なことになるから話合わせて」


 アオイは西園寺が言っていた"妥協案はある"という言葉を思い出した。


 ――この子がその……


「西園寺さん、この人はどなたですか?」


 少女が不思議そうに尋ねると、西園寺はわずかに表情を強張らせたが、すぐに笑顔を作った。


「この人は表見アオイくん。新しくWensに入社して、主に裏方を担当してもらってるよ!」


「どっ、どうも初めまして表見アオイと申します」


 アオイは冷や汗をかきながら頭を下げた。


「ワタシは"一条いちじょうモモハ"です。モモハって呼んでください」


 モモハは身長はそこまで高くないものの、すらりと長い脚が印象的だった。

 ピンクブラウンのミディアムボブに、ぱっちりと大きな瞳が輝き、愛らしい容姿はまるでアイドルのような華やかさを放っていた。


「それより西園寺さん、紅音ウララの声優が変更になったってどういうことですか!」


 モモハは凄い剣幕で西園寺に詰め寄った。


「それはね……モモちゃんにはもっと自分に合うキャラクターを考えてるからだよ!」


「でもワタシ、ずっと練習してきました……」


 瞳に涙を浮かべるモモハを見て、西園寺は慌てていた。


「だっ、大丈夫! 僕が絶対モモちゃんに合う最高のキャラクターを作るから!」


「……本当ですか? 約束ですよ?」



 ――なにこの子、凄くいい子!



 西園寺の言葉を素直に受け入れるモモハに、アオイの胸が締め付けられる。

 その時、彼の部下が小走りで向かってくるのが見えた。


「西園寺さん、早くしてください!」

「悪い、すぐ行く! それじゃモモちゃんは事務所に戻って、表見くんはすぐ呼ぶからここで待機ね!」


 西園寺が慌ただしく去っていくと、モモハがいきなり尋ねてきた。


「紅音ウララのプロジェクトに関わってるなら、中の人に会ったことありますか?」


「まっ、まぁ…何度かは…」


 アオイは突然の質問に驚くも、咄嗟に誤魔化した。


「どんな人ですか?」


「えっ、まぁ……優しい人ですよ、あはは……」


「そうですか……」


「……」


「…………」


「………………」


 ――きっ、気まずすぎる! 西園寺さん、早く呼んでくれええぇえ!


 しばらく沈黙が続いた後、モモハがゆっくりと口を開いた。


「じゃあ……次にお会いした時に伝えておいてください」

「えっ、あ、はい……?」


 その瞬間、モモハの表情がどこか真剣になり、アオイの目をじっと見つめながら言葉を放った


「Wensの次世代エースは……ワタシだって!!」


 アオイは、彼女の眼差しに明確な闘争心が宿っているのを感じると、思わず背筋が伸びた。




 〜〜〜第4.5話『クロエの目に映るもの』〜〜〜




 スタジオに曲が流れ始め、表見の歌声が響き渡る。


「どう? 表見くんの歌声」


 西園寺の問いかけに、クロエは何も言わずに表見を見つめていた。彼の歌声が響くたび、胸の中で何かが動き出すのを感じる。

 そしてサビに入った瞬間、彼の歌声が力強く広がった。クロエは思わず息を呑み、目を見開いた。目の前の彼に”紅音ウララ”の姿が重なる。その光景に、彼女は一瞬心を奪われた。


「表見くんにはフォークシンガーとしての才能はなかったのかもしれない。でもVTuber”紅音ウララ”としての才能はあるかもしれない。その才能をより一層引き出せるのは、クロッちの作る曲なんじゃない?」


「……ふんっ」


 西園寺の言葉に冷静を装いながらも、クロエの胸の内では、言葉にできない熱い感情が湧き上がっていた。





お読みいただきありがとうございました。 もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや感想、レビューをいただけると励みになります。引き続き、この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

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