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第48話『いざ、作戦決行!?』

 



 事務所での話し合いから四日後の夕方、アオイは撮影スタジオに足を踏み入れた。中に入ると、既に西園寺、ミドリ、ミャータ、そしてモモハが集まっていた。機材が並ぶ部屋には微かな緊張感が漂う。


「西園寺さんまで配信の協力してもらっちゃって、すいません……」


 モモハが申し訳なさそうに言うと、西園寺が軽く肩をすくめた。


「いいさ! 紅音ウララの件もあるからね。それに僕が考えたVTuberなのに、僕のプロデュースでデビューさせてあげられなかったのも、申し訳なく思ってるよ」


 西園寺が少ししょげた顔で呟くと、モモハが静かに応じた。


「わたしはとても感謝してます」


 ――尊い!!


 その真っ直ぐな言葉に、アオイの胸が熱くなった。西園寺が目を潤ませ「モモちゃーん!」と抱きつこうとした瞬間、アオイは慌てて止めた。


「セクハラになりますよ!」


「ちぇっ」


「全くこの人は……」


 アオイは呆れたように呟くと、ミャータが間延びした口調で告げた。


「そろそろ時間やで〜」


「よし、一発かましてやりますか!」


 西園寺が勢いよく立ち上がり、ミドリが目を輝かせて頷いた。


「はい! やりましょう!」


 作戦はこうだ。Wens公式チャンネルで緊急謝罪会見を開き、先日アップロードされた『Heart of Resolve』をライブ配信で全力で歌う。配信終了後には、ここ数日で録り直した新バージョンを再アップロードする予定となってる。


「ほんと、東ヶ崎さんには頭が上がらない……」


「クロっちは『アオイのやつ、やるじゃない』って言ってたよ」


 西園寺が笑みを浮かべながら言うと、アオイは小さく息を吐き、肩をすくめた。


「今度、何か差し入れでも持ってきます」


 そして配信の準備が整うと、モモハ、ミドリ、ミャータが真剣な表情になった。



 ◆◆◆



 配信が始まると、画面には翠月アリア、浅葱コスモ、そして撫子ミアの姿が映し出された。三人はスーツ姿で、まるで本物の記者会見のようなセットに並んでいる。


 派手なフラッシュのエフェクトが画面を彩る中、ミアが凛とした表情で前を見据え、はっきりと言葉を発する。


「皆様、この度は翠月アリア、浅葱コスモ、そしてワタシ撫子ミアの謝罪会見にお集まりくださり、ありがとうございます。ワタシたちが先日アップロードした『Heart of Resolve』のMVにつきまして、謝罪させていただきます。あの曲の中でのワタシたちは、調和を意識しすぎて、各々の個性を抑えた歌い方になってしまいました。なので、本日はこの場をお借りして、ワタシたちの全力の『Heart of Resolve』を聴いてもらいたいです!」


 コメント欄が一気に盛り上がった。


 ▼「やっぱりなんかいつものアリアリじゃない気がしたんだよね」

 ▼「コスモくんも単調だったもんね!」

 ▼「全力歌唱!? 神配信!」


 ――やっぱりファンの人たちも気づいてたんだ……


 すると、黒子のようなキャラクターたちが素早くセットを記者会見からステージに模様替えし、三人がくるっと回転すると、スーツから華やかな衣装に変わった。そしてミアが明るく叫んだ。


「では聴いてください! AccordiaでHeart of Resolve!」


 音楽が流れ始めると、アオイは息を呑んで見つめた。イントロのピアノが静かに響き、ミアがメインで歌い出した。可愛らしい声がハキハキと跳ね、サビに向かって力強く伸びていく。Aメロの途中でアリアが加わり、伸びやかで透き通った声がメロディに優美な彩りを添えた。Bメロではコスモの中性的なクリスタルボイスが響き、その音色がかっこよく空間を満たす。三人はMVの時とは違い、主張し合うように歌っている。サビでは三人の声が重なり、ミアの元気でパワフルな高音がリードし、アリアの柔らかな中音が支え、コスモの中性的で透明感のある声がアクセントを加えた。ハーモニーは力強くも自由で、感情が溢れ出すような歌声にアオイは鳥肌が立った。


 ▼「ミアちゃん上手すぎ!」

 ▼「アリアリらしさが戻った〜」

 ▼「コスモくーん! イケボー!」


 コメント欄が熱狂し、アオイはファンの反応に頷いた。そして歌い終わり、ミアが息を整えて言葉を発した。


「ありがとうございました! ワタシはVTuberとしてまだまだこれからですが、みんなを元気にできるようなVTuberになって、いつかWensのエースになってみせます! 皆様、これからもよろしくお願いします!」


 コメント欄からスパチャが大量に流れ込み、アオイは三人の清々しい表情を見て、満足感に浸っていた。そして配信が終わり、スタジオに静寂が戻った。



 ◆◆◆



「やあやあ、お疲れー! 最高の歌声だったよー!」


 西園寺が興奮気味に言うと、アオイは少し涙ぐみながら呟いた。


「ほんとに……なんというか……感動しました」


「表見くん、泣いてるのー?」


 西園寺がニヤニヤしながらからかってくると、アオイは慌てて涙を拭った。


「なっ、泣いてませんよ!」


 すると、モモハが清々しい表情でアオイを見てきた。


「本当にありがとうございました。全部出しきれました! いいデビューだったって胸を張って言えます!」


 彼女の言葉に、アオイの胸が強く締め付けられた。


 ――だから尊すぎるってぇええ!


「わだじも感動じまじだぁ」


 ミドリが号泣しながら叫ぶと、ミャータが呆れた様子で言った。


「ミドリさん、泣きすぎや〜。まぁ、ぼくも楽しかったけどな」


 その様子にアオイが微笑むと、ミャータが近づいて腕を組んできた。


「それにアオイさん、やるやん。ますます気に入ったで」


 その瞬間、ミドリが笑顔ながらも険しい表情でこちらを睨んでるのに気がついた。アオイが冷や汗を流すと、ミャータが苦笑いを浮かべた。


「あはは、ミドリさん、顔怖いで」


「べっ、別に何でもないですよ!」


 ミドリが慌てて誤魔化すと、西園寺が割って入ってきた。


「カオルちゃんから撮り直したMVアップできたって連絡きた! さてさて、どうなるかね〜」


「それでも負けませんよ!」


 アオイは自信満々に言う。


「アオイさんっていつも、自分のことみたいに言うやん〜」


 ミャータの言葉に、アオイは思わず目を見開いた。


「まっ、マ――」

「マネージャーとしてな〜!」


 ミャータに遮るように言われ、アオイは苦笑いを浮かべる。すると、西園寺が手を叩いた。


「じゃあ、もう夜遅いから解散しよう! 僕はこれから代表のとこに説明に行かなきゃだからねー」


 嫌そうな顔で言う西園寺に、アオイが申し訳なさそうに呟いた。


「ほんと申し訳ないです……」


 西園寺がふっとため息をつき、軽く微笑んだ。


「まぁ、これもプロデューサーの仕事だからね。骨は拾ってくれよ」


「こっ、怖いこと言わないでくださいよ……」


「冗談だよ。じゃあ、みんなさっさと帰りなさーい」


「みなさん、改めて本当にありがとうございます」


 モモハが頭を下げると、西園寺が満面の笑みで応えた。


「うん! これから一緒に頑張ろうね!」


 モモハが涙ぐみ「はい!」と大きく返事をする。


「じゃあ俺は軽く片付けてから帰るので、みなさん先に行ってください!」


 アオイがそう言うと、ミドリが手を挙げた。


「わっ、わたしも手伝います!」


 そして二人以外がスタジオを後にした。



 ***



「どうなりますかね……」


 ミドリが呟くと、アオイは静かに答えた。


「分かりません。でも、どっちが勝っても悔いはないと思います」


「わっ、わたしはどうしても勝ちたいです!」


 ミドリがおどおどしながら言うと、アオイは首をかしげた。


「まぁ、アニメの主題歌って大きい仕事ですもんね」


「違います!」


「へ?」


「お食事の件です……」


 ミドリが顔を赤らめて呟くと、アオイも顔が熱くなった。


「あっ、えっと、はっ……はい……」


 彼女の顔がさらに赤くなり、湯気でも出そうな勢いだ。アオイは続けて言葉を放った。


「とっ、とりあえず結果を待ちましょ!」


「でっ、ですね!」


 気まずい沈黙が落ちた。


「……」


「…………」


 何か言わなければと焦り、アオイは思わず口を開く。


「かっ、帰りますか!」


「はっ、はい!」


 ぎこちなく並び、スタジオの出口へ向かう。彼女を意識しすぎて、歩調がうまく合わない。無理に合わせると余計にぎこちなくなる。


 扉を開けると、廊下のひんやりとした空気が肌を撫でる。ほてった顔を冷ますように、アオイは小さく息を吐いた。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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