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第47話『決着は完全燃焼で!?』




 イントロは明るいシンセポップのリフで始まり、Aメロではウララの力強い歌声がリズムを刻む。Bメロでユイラのソウルフルな低音が深みを加え、サビではセツナの弾けるような明るい歌声が爆発する。そしてそれら全てを上手くMIXしてくれた東ヶ崎の仕事ぶりに感服しながら、アオイはさらに聴き進める。


 メインは山吹セツナだが、紅音ウララと銀城ユイラの個性も最大限に引き出されている。


 三人でのコーラスは、ポリフォニックなハーモニーが絶妙に重なり合い、歌詞の中に散りばめられたオノマトペが、POPな曲調にさらに遊び心を添えている。


 アオイは聴き終えると、胸が高揚した。前回のグループソングも良かったが、今回は三人の個性が融合し調和しながらも際立つ、新たな可能性を感じさせる仕上がりになっていた。正直、負けるとは思えない。


 だが、あちらのグループの曲をまだ聴いていない。アオイは同時にアップロードされた、もう一つの動画に目を移した。


 タイトルは『Accordia - Heart of Resolve』。再生ボタンを押すと、物語風のMVが流れ始めた。曲調は静謐で美しいバラードだ。ストリングスの柔らかなアレンジとピアノのアルペジオが基調となり、穏やかなテンポで情感を紡ぐ。"撫子なでしこミア"ことモモハの綺麗な高音と、アリアの優美な中音が調和し、そこにコスモの歌声が加わった。初めて聴くミャータの歌声は、中性的だがエッジや雑味が一切なく、透明感が際立つ。その美声に、アオイは思わず息を呑んだ。


 ――すごい……三人ともとんでもない透明感。それが綺麗な曲調と見事に溶け込んでる。でも……なんか……


 違和感が胸に引っかかった。確かに完成度は高い。三人の声は見事にまとまり、調和を重視したアレンジが洗練されている。だが、カラオケ大会でのモモハの明るくパワフルな歌声が、どこか抑え込まれているように感じた。全力を出し切っていないような、遊び心のないシンプルさが物足りない。グループソングとしては正解なのかもしれないが、アオイの心は昂らなかった。


 正直、贔屓目を抜きにしても、自分たちの曲の方が良いと思った。勝敗的にはこれでいいのかもしれないが、なぜか複雑な気持ちが渦巻く。


 アオイはその夜、寝るまでモヤモヤを抱えていた。ベッドに横になりながら、何度も曲を聴きかえす。眠りに落ちるその瞬間まで……。



 ***



 翌朝、アオイはスマホを手に再生数を確認した。自分たちの『クラッシュ・キャンディー』が60万再生、モモハ達の『Heart of Resolve』が35万再生。倍近くの差がついている。アオイは嬉しさを感じつつも、心のどこかに引っかかりが残っていた。モモハたちの曲もせっかくいい曲なのに、三人の良さが活かされていないのではないか。そんな思いが募り、居ても立ってもいられず、北大路にメッセージを送った。


『あちらのグループの曲のことで、少しお話しできませんか?』


 すぐに北大路から電話がかかってくると、アオイは急いで出た。


「もしもし、アオイくんの言いたいこと、凄く分かるわよ」


「はい……なんだかモヤモヤします」


「私もレコーディング中に意見はしたのだけれど、代表がもっとシンプルに、調和を大切にって言うものだから……」


「そうなんですね……東ヶ崎さんは何か言ってましたか?」


「クロエもイライラしてたわね……。でも、代表にはお世話になってるから、彼女も代表にだけは反論できないのよ」


「なるほど……」


 そこへ、ミドリからの割り込み通話が入った。アオイは慌てて伝えた。


「すっ、すいません、ミドリさんから着信がありまして!」


「大丈夫よ。ミドリちゃんもこの件についてかもしれないわね。じゃあまたそのうち」


「はい、失礼します!」


 北大路との通話を切り、ミドリからの電話に出た。


「もしもし」


「表見さん……聴きました?」


「はい……」


「わたし、なんだかモモハちゃんが可哀想で……」


「まぁ、こっちが勝てば、今後の方針は西園寺さんに任せられると思いますし……」


「でも、モモハちゃん……せっかくのデビュー動画なのに……」


 ミドリの声が震え、アオイは一瞬言葉に詰まった。


「ミドリさんは、モモハさんの連絡先って分かりますか?」


「分かりますけど……どうしたんですか?」


「話したい。このままじゃみんな納得いかないはず……少なくとも俺は!」


「わっ、分かりました! モモハちゃんに連絡してから、折り返しかけますね!」


 アオイは通話を切ると、複雑な心境のままベッドに横たわる。


 通話中、ある作戦を閃いていた。それは相手に塩を送ることになるかもしれない作戦。だが、このまま終わるのは納得できない。


 そして数分後、ミドリから折り返しの電話が来た。


「モモハちゃん、これから大丈夫みたいです! とりあえず事務所に来てもらうように言いました。わたしも行って大丈夫ですか?」


「はい! 二人きりだと気まずいので、むしろ助かりますよ!」


「よかったです。では11時に事務所で大丈夫ですか?」


「了解です!」


 通話を終えると、アオイは急いで支度をし、事務所へと向かった。



 ***



 事務所に着くと、ミドリとモモハがソファに座っていた。アオイが近づくと、モモハが立ち上がり、少し腫れた瞼を隠すように目を擦った。


「こんにちは表見さん。お話しってなんですか?」


 アオイは胸が締め付けられた。きっと納得できなくて泣いたのだろう。


 そしてソファに座ると、深呼吸をして言葉を紡いだ。


「俺は紅音ウララのマネージャーだから、どちらかというと西園寺さんのグループに肩入れしてます。でも、なんかモヤモヤしちゃって、このままじゃよくないなって思って」


 モモハは下を向き、ミドリが心配そうに彼女の背中に手を置いた。アオイは意を決して言葉を続けた。


「正直、敵に塩を送ることになっちゃうのかもだけど、一つ作戦があります」


「表見くん、そこまでだよ」


 アオイは突然の声に肩を揺らし、咄嗟にそちらを振り向いた。そこには、事務所の入り口に立っている西園寺の姿があった。彼は足早にこちらへ向かい、真剣な表情のまま口を開いた。


「これは真剣勝負なんだ。それに今後の方針は、キミにとっても重要なことなんじゃないか?」


 アオイは息を呑んだ。確かに、今回の勝負はVTuberとしての自分の未来にも関わる。だが、モモハの純粋さや、彼女がやっと掴んだデビューの喜びを思うと、このままではいられなかった。


「すいません西園寺さん。それでも、俺はこのままにしとけないです。西園寺さんは、相手が不完全燃焼の状態で勝って嬉しいんですか?」


 西園寺が困ったように眉を寄せた、その時――


「ウチもナマリーも全然気にしないよー!」


 明るい声とともに、コガネとナマリが事務所へ入ってきた。二人がこちらへ歩み寄ると、アオイは申し訳なさそうに口を開いた。


「二人ともごめんね、急に呼んじゃって」


「全然大丈夫です……」


 ナマリが小さく呟くと、西園寺はさらに困ったような表情を浮かべる。そしてコガネが胸を張りながら言った。


「ウチらは自信あるからね! 何したって負ける気しないよー!」


 ナマリがうんうんと頷き、アオイは二人の勢いに背中を押された。すると西園寺がため息をつく。


「はぁ、どうなっても知らないからね」


 そう言う彼の口元が一瞬ニヤッと緩んだように見えた。そして彼は言葉を続けた。


「それで、どうするつもりなんだい?」


「ありがとうございます。作戦は――」


 アオイが作戦をみんなに伝えると、西園寺が首をかしげた。


「まぁ……ルール的には問題ないけど……」


「わたしはいいと思います!」


 ミドリが賛同し、モモハが不安そうに呟いた。


「でも……内緒でこんなことして大丈夫ですかね……」


「西園寺さん……」


 アオイは真剣な表情で彼を見つめると、西園寺が肩をすくめた。


「やれやれ、分かったよ。後のことは僕が責任を持つから、みんなのやりたいようにやってみなよ」


 西園寺がそう言うと、ミドリは目を輝かせながらアオイの方を向いた。


「じゃあ、わたしはミャータくんに連絡しますね!」


「皆さんありがとうございます! 作戦の実行は四日後の夕方、撮影スタジオで!」


 アオイの言葉に、ミドリとモモハが頷いた。


 こうして話し合いが終わり、アオイは帰ろうとすると、モモハが声をかけてきた。


「表見さん、本当にありがとうございます……」


 涙を浮かべながら深々と頭を下げるモモハに、アオイは胸が熱くなった。


 ――とっ、尊い!


「気にしないでください。それに、負ける気はありませんから。やれること全部やって、それでも勝つのはウララ達ですよ!」


 するとモモハは涙を拭い、笑顔で言った。


「ワタシたちも負けません!」


 彼女の元気が戻ったからか、アオイの中のモヤモヤはすっかり晴れていた。




お読みいただきありがとうございます。

もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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