第42話『天才最強ユイラ様!?』
配信画面に映る銀城ユイラは、白銀色の髪を平成ギャルのように盛り、顔立ちはナマリの面影を残しつつも濃いギャルメイクで彩られ、ぱっちりした目は太いアイラインで強調されていた。さらに、ツヤツヤのリップが強烈な印象を放ち、体型も華奢な彼女からは想像もつかないほどグラマーだ。
そして何よりアオイを驚かせたのはテンションの違い。現実のナマリとは掛け離れた口調で挨拶するその姿に、アオイはモニターを見つめながら、思わず首をかしげた。
「今日なにするー?」
セツナの弾むような声が、アオイのヘッドセットから飛び込んできた。ユイラが即座に反応する。
「ワタシは〜格ゲーしたい感じ〜!」
「いいねいいね! やろー!」
「じゃあ"鋼拳7"で決まりね〜」
二人の会話が矢継ぎ早に進み、アオイは少し呆気に取られた。
――なんか、どんどん話が進んでく……
「おけおけー! ウララちゃんもそれでいいー?」
「うっ、うん、おっけー! インストールするね〜」
二人のハイテンションに引っ張られ、つい喋り方が寄ってしまった。
アオイはマウスを握りゲームストアを開くと、大人気格闘ゲーム『鋼拳7』をインストールし始める。進捗バーがゆっくりと伸びていくのを眺めながら、内心で軽い焦りを感ていた。
そしてインストールが終わり、ゲームが起動すると、アオイはキャラ選択画面で赤い髪の女の子を選んだ。拳に炎を纏い、鋭い目つきで構えるその姿は、ウララのイメージにぴったりのキャラだ。
「ウララ、いくよー!」
対戦相手のセツナは、スキンヘッドのムキムキなおじさんキャラを選択。アオイはその無骨な見た目に見覚えがあった。
――どことなくミツオさんに似てるな……
ミツオさんの丸い頭とたくましい肉体を思い出しつつ、準備OKのボタンを押した。
「いくぞー! セツナの実力見せてやるー!」
セツナが叫び、試合がスタート。画面上でおじさんキャラが猛烈な勢いで突進し、アオイのキャラにパンチを繰り出す。アオイは「負けないぞー!」と声を張り上げ、コントローラーを握る手に力を込めた。炎を纏った拳で反撃を試みるが、セツナの連打が止まらない。
「くらえー! 必殺ダンシングパンチー!」
「うそっ、速すぎー!」
アオイが焦る中、ユイラが楽しげに煽ってきた。
「ウララちゃんのロック魂はそんなもんなの〜? ファイト〜!」
画面のコメント欄が一気に盛り上がり、アオイの目が忙しく動いた。
▼「ウララがんばれー!」
▼「いい勝負〜二人ともいけいけ〜」
▼「セツナちゃん上手い!」
アオイは必死にボタンを連打したが、セツナの猛攻に耐えきれず、とうとうHPが無くなりキャラが地面に倒れ込む。画面に「KO」の文字が浮かぶと、セツナの勝ち誇ったような声が響いた。
「やったー! セツナの勝利ー!」
「ぎゃあぁぁあああ!! ちくしょおぉおおお!!」
ウララが悔しがると、ユイラが「仇をとってあげるよーん!」とノリノリで言い、画面に準備OKと表示された。
そしてセツナ対ユイラの対戦が始まった。ユイラは半分モンスターのようなイカついキャラを操作し、威圧感たっぷりに構える。角の生えた頭と筋肉質な腕が、画面越しに迫力を放っていた。
「いくよ〜ん! ユイラ様の実力ご覧あれ〜!」
「負けないよー! セツナのテクニック見せてやる!」
二人のキャラが激しくぶつかり合い、画面が派手なエフェクトで埋まった。ユイラのモンスターが咆哮を上げ、セツナのおじさんを投げ飛ばす。その様子を、アオイは呆然と見ていた。
「くらえー! 災厄殲脚舞からの〜、血哭殲拳!」
――なにその禍々しい技名!?
「うわっ、やばいー!」
セツナが叫ぶ中、ユイラの猛烈なコンボが炸裂。画面が赤と黒のエフェクトで埋まり、最後はド派手な必殺技で締めくくられた。セツナのキャラが地面に叩きつけられ「KO」の文字が浮かぶ。
「勝ったー! ユイラ様最強〜! あげあげ〜!」
「うそー! 強すぎだよー!」
視聴者からも驚きのコメントが殺到した。
▼「ユイラちゃん強すぎwww」
▼「まさかのセツナがやられたー!?」
▼「格ゲーマスターユイラやばい!」
その後も三人は何度も対戦を重ね、配信はハイテンションのまま進んでいった。画面越しに飛び交う笑い声と叫び声が、ヘッドフォンから耳に届く。
そしてアオイはコントローラーを握る手に汗をかきながら、必死にボタンを叩いたが、結果はユイラの全勝。最後の一戦が終わり、アオイとセツナの声が重なった。
「「強すぎー!」」
ユイラが得意げに言う。
「天才最強ユイラ様だよ〜ん! ピースピース!」
そして配信の終盤、スパチャが次々と流れ込み、アオイはそのあまりの数に目を丸くした。三人は視聴者のスパチャを読み上げつつ、最後に締めの言葉を元気に放った。
「じゃあみんな、今日も楽しかったよー! 次回もみんなでロックンロール!」
「セツナも楽しかったー! じゃねー!」
「ユイラも〜! ありがと〜バイバ〜イ!」
◆◆◆
配信が終わり、通話が続く中、アオイはナマリに声を投げかけた。
「ナマリーちゃん! いきなりキャラが変わりすぎてびっくりしたよー!」
「ごっ、ごごごごごめんなさいっ!」
ユイラが慌てた声で謝り、アオイは思わず笑った。
「ユイラのときはめっちゃギャルだよねー!」
セツナが笑いながら言うと、ユイラが少し震える声で返した。
「きっ、嫌いにならないでください!」
「ならないよ! すっごい楽しかったし、また一緒に配信しようね!」
アオイは本心からそう思い、言葉が自然と出てきた。
「ありがとうございます……」
そして通話が終わり、アオイはヘッドセットを外した瞬間「だあー!」と叫びながらベッドに倒れ込んだ。二人のテンションに引っ張られ、いつも以上にハイテンションで喋り続けたせいで、全身がぐったりしていた。
部屋の中は静寂に包まれ、カーテンの隙間から見える景色はすっかり暗くなっていた。アオイは荒い息を整えながら、天井を見つめた。
――疲れた……でも、楽しかったな……
ナマリのあのギャップには驚かされたが、セツナの底抜けの明るさとユイラのハイテンションが重なれば、確かに何かすごいものが生まれるかもしれない。
アオイは疲れ果てつつも、この三人で歌うグループソングのことを考え、期待を膨らませていた。
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最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。
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