第41話『Wensの盛り上げ隊長!?』
「まーた面倒なことになったわねー」
東ヶ崎が不機嫌そうにため息をつき、肩をすくめた。
「そんなこと言わないでよ、クロっちー!」
西園寺が慌てた様子で声を上げる。アオイは二人のやり取りを横目で見ながら、冷静に割り込んできた北大路の声に耳を傾けた。
「西園寺くんには悪いけど、今回は私とクロエにできることはないわ」
「そうね。代表にはお世話になってるし、何より作品のクオリティに優劣なんてつけたくないから」
東ヶ崎が淡々と言い放つ。その言葉をアオイは黙って聞いていると、西園寺が焦ったように尋ねる。
「それは分かってるよ! でも、二人的にはどっちの方針がいいと思ってるのさ」
「私は横で仕事ぶりを見てるから、そりゃ西園寺くんに肩入れしたい気持ちはあるわよ」
北大路の言葉に、西園寺の顔がぱっと明るくなった。
「マリっぺー!」
彼が満面の笑みで叫ぶと、北大路はうざったそうに眉を寄せる。すると、東ヶ崎が冷ややかに言葉を発した。
「わたしだって、お前の方針を支持してる。まぁ、むかつくから代表に勝ってほしいけど」
「酷いよクロっちー!」
西園寺が涙目になりながら訴える。
――表情が忙しそうだな……
「ねーねー! ウチや師匠もいるんだけどー!」
五宝コガネが手を挙げ、勢いよく会話に割って入る。アオイはそこで、改めて話し合いの輪にいることを意識した。
西園寺が慌てて振り返り、コガネに笑顔を向ける。
「ごめんごめん! とりあえず、コガネんにも事情を説明するね!」
西園寺がコガネに今回の経緯を説明し始めると、彼女がむっとした声を上げた。
「なにそれ! ウチが一番下手って……まぁ事実だけど、悔しい!」
「だよねだよね!」
西園寺が勢いよく頷く。アオイはふと疑問を口にした。
「そういえば、残りの一人は誰にするつもりなんですか?」
「うーん、ぶっちゃけ迷ってるんだよね。頼りになるシオンがいいか、それともバランス感覚のあるミドリちゃんがいいか……」
西園寺が顎に手を当てて考え込む。すると、コガネが目を輝かせながら提案した。
「ねねー! ウチはナマリーがいいと思う!」
「なっ!? 元気キャラが三人ってさすがに……!」
西園寺が驚きの声を上げる。
――ウララも元気キャラ枠だったんだ……
「でも、その三人の個性がぶつかり合って盛り上がったら無敵じゃん!」
コガネが自信満々に言うと、西園寺が少し考え込んだ。
「まぁ……大変そうだけど、僕の方針を示すにはいいかもしれない。よし、ナマリーに連絡してみる!」
こうしてその日は解散となり、アオイはスタジオを後にした。
***
「師匠ー! 途中まで一緒に帰ろー!」
スタジオを出ると、すぐにコガネが明るい声で呼びかけてきた。アオイは小さく微笑み、彼女と並んで歩き出す。夕陽が街を柔らかく染め、涼しい風が頬を撫でた。
「なんか大変なことになっちゃったね……」
「大丈夫! ウチには師匠もいるからね!」
「あはは……」
コガネの無邪気な声に、アオイは乾いた笑いをこぼす。
「でも、ウララちゃんとナマリーとウチの元気チームなら、きっと盛り上がるよー!」
「そのナマリーさんってどんな人なの?」
「四宮ナマリちゃんって子で、なんかテンション高くて面白いの! ウチもよく一緒に配信してるよー!」
「そっ、そうなんだね……」
コガネの話を聞きながら、アオイは少し不安を感じた。
***
翌日、事務所に着くと、すでにコガネと西園寺が集まっていた。その西園寺の背後にもう一人、女の子が隠れるように立っている。
――えっ……?
アオイは目を疑った。
ダークグレーの髪が肩に流れ、可愛さと綺麗さが溶け合った顔立ち。困り顔でウルウルした瞳。コガネが言っていた「テンション高くて面白い」イメージとは、まるで違う。
「紹介するよ! この子がWensの盛り上げ隊長ことナマリーちゃん!」
西園寺が元気に紹介すると、その少女は小さな声で呟いた。
「よっ、よよよよろしくですます……」
――……あれ?
アオイは一瞬戸惑いながらも、手を差し出す。
「俺は紅音ウララのマネージャーをしてる表見アオイです。よろしくね」
すると、ナマリは西園寺の後ろに隠れてしまった。
――えっ、俺さっそく嫌われた……!?
アオイが動揺していると、コガネが笑顔でフォローする。
「普段はあんな感じだから気にしないでね!」
アオイは苦笑いを浮かべた。すると、西園寺が一つ提案をしてきた。
「じゃあ親睦を深めるために、今日の夜は三人で配信しよう!」
「おっけー!」
コガネが元気に返すと、西園寺の後ろでナマリが小さく頷いた。
――大丈夫かな……
***
アオイは帰宅し、リビングのソファに体を預けた。ナマリの控えめな様子が脳裏に浮かび、自然とため息が漏れる。あの様子で本当に配信が成り立つのか――不安が拭えなかった。
窓の外では夕陽が沈みかけ、柔らかなオレンジの光が部屋を包み込んでいる。そんな景色をぼんやりと眺めながら、ふと別の疑問が頭をよぎった。
――そういえば、代表のグループはモモハさんとミャータさんと……もう一人は誰なんだろ
考えを巡らせているうちに、配信の時間が近づいていた。アオイは深く息を吸い、喉を軽く鳴らして準備を整える。そして通話チャットに入り、意識をウララへと切り替えた。
すでにコガネとナマリが待機していたようで、アオイは気合いを入れ、明るく声を張る。
「初めまして、紅音ウララです! 今日はよろしくお願いします!」
すぐに弾けるような声が返ってきた。
「ウチは五宝コガネだよー! 配信中はセツナって呼んでね!」
その勢いにアオイは少し安心する。しかし、次に聞こえてきたナマリの声は、予想どおりどこかおどおどしていた。
「ワッ、ワワワワワタシは四宮ナマリって言います……みんなからはナマリーって呼ばれてて、銀城ユイラって名前で活動してます……」
おどおどした声に、アオイはさらに不安になる。しかし、アオイはそれを表に出さないよう明るく返した。
「コガネちゃんにナマリーちゃん! 改めてよろしくー!」
「ウララちゃんノリ合いそー! よろしくー!」
コガネが元気よく応じる一方で、ナマリは慌てたように言葉を紡ぐ。
「よっ、よよよよよろっ、よろしくっ!」
――ほんとに大丈夫かな……
不安を抱えつつも、ついに配信が始まった。
◆◆◆
「こんばんは、紅音ウララだよー! 今日もみんなでロックンロール!」
アオイが元気に叫ぶ。
「セツナ登場! 今日も一瞬たりとも見逃すなよー!」
コガネが勢いよく続く。アオイはその流れに、ナマリがついてこられるのか心配になった。
しかし――
「やっほやっほー! ギラギラ輝くみんなのアイドル、銀城ユイラだよーん! ピースピース!」
先ほどのナマリとはまるで別人のような、圧倒的ハイテンション。
――どゆことおおおぉぉおお!?
アオイは画面の前で驚愕した。
お読みいただきありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!
また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。
最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。
短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。
どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。
ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




