表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/92

第40話『グループ対抗戦ですか!?』

 



 翌朝、アオイはベッドに寝転がりながら、昨日の出来事をぼんやりと思い返していた。モモハの力強い言葉と、まるで火花を散らすような瞳が頭から離れない。


 アオイはこれまで、VTuber仲間と和やかに過ごしてきたため、ライバル意識や対抗心なんて全く感じたことがなかった。だが、モモハは明らかに違った。彼女の内に宿る闘志は鋭く、まるで刃物のように研ぎ澄まされていて、アオイはその熱に少し気圧されていた。


 するとスマホが枕元で小さく振動し、アオイが画面に目をやると、西園寺からのメッセージが届いていた。


『今日は会社に来てー!』


 アオイは何か大事な話がある予感に胸がざわつき、急いで身支度を整えて家を飛び出した。



 ***



 オフィスに足を踏み入れると、西園寺の部下、南野カオルが受付近くに佇んでいた。彼女の顔には困惑と緊張が混じったような表情が浮かんでいて、アオイは一瞬心がざわめいた。


「おはようございます。西園寺さん、どこにいますか?」


 アオイが声をかけると、南野が少しぎこちなく口を開いた。


「西園寺さんは、お父……代表と社長室で話してて……」


 その言葉に、アオイの胸に嫌な予感が広がる。南野の様子からも、不穏な空気が漂っていた。すると、北大路がゆったりとした足取りで現れ、アオイは思わず息を呑んだ。


「北大路先生がここに来るなんて珍しいですね!」


「西園寺くんに呼ばれたのよ」


 北大路が落ち着いた声で返すと、南野が彼女に目を向けた。


「西園寺さんは社長室です……」


 北大路が一瞬目を細め、何かを悟ったような顔つきになった。


「なるほどね……表見くん、ついてきなさい」


「えっ!?」


 アオイは驚きの声を上げつつも、北大路の背中を慌てて追いかけた。彼女の忙しい歩みに、何か重大なことが起きている予感がしてならなかった。


 そして社長室の前まで来ると、ドア越しに西園寺の荒々しい声が響いてきた。アオイの胸がドキドキと高鳴り、北大路が眉を寄せてため息をつくように呟いた。


「厄介なことになってるわね……」


 彼女がドアを軽くノックすると、中から落ち着いた「どうぞ」という声が返ってきた。


 二人が社長室に入ると、西園寺が険しい顔で立っていた。その前には、50代前半くらいの男性が椅子に腰かけている。髪は綺麗に整えられ、穏やかな雰囲気を湛えたその男性は、程よくふくよかな体型がどことなく親しみやすさを漂わせていた。


 すると彼が北大路に目を向け、温かな声で喋りかけてきた。


「やぁ北大路くん、久しぶりだね。元気にしてたかい」


「ご無沙汰しております、南野代表」


 北大路が丁寧に返すと、代表がニコリと笑い、アオイに視線を移した。


「君が表見くんだね? 話はあちこちから聞いているよ。目覚ましい活躍ぶりだそうじゃないか。これからも期待しているよ」


 その優しい口調に、アオイは思わず背筋をピンと伸ばした。


「あっ、ありがとうございます! 精進します!」


 動物園でミドリが語っていた「南野代表は温厚で良い人」という言葉が頭をよぎり、アオイはその言葉通りだと実感した。だが、目の前の穏やかな男性に反して西園寺の表情は険しく、鋭い視線を向けていた。


 ――何があったんだろう……


 代表が西園寺に穏やかに尋ねた。


「北大路くんと表見くんの二人を呼んだのは、西園寺くんかな?」


「北大路先生は僕が呼びましたが、表見くんはここに呼ぶ予定じゃなかったです。ただ、紅音ウララは僕の理想のVTuberで、それを体現してる表見くんに話を聞いてもらうのはいい機会だと思いますよ」


 西園寺が少し硬い声で答えると、代表が静かに頷いた。


「わかったよ。じゃあ話を戻すけど、今後は協調性を重視して、VTuber同士でグループを作って活動していくのが私の考えだ」


 続けて、代表が穏やかに言葉を重ねた。


「音楽も個性より調和を大切にして、グループソングとしてのクオリティを追求すべきだと私は考えてる」


 その言葉に、西園寺が目を鋭くして反論した。


「『Sound Weapon オンライン』のテーマソングはお聴きいただけましたよね!? 三人の個性が爆発したからこそ、あれだけのものができたんじゃないですか!」


 代表が穏やかながらも鋭い視線で返した。


「では、五宝コガネくんのように歌が得意でない子はどうするつもりかな? 周囲がソロ曲を出したり、グループソングで盛り上がる中で、彼女だけ蚊帳の外というわけにはいかないだろう。それに、トークが苦手な子もいる。だからこそ、グループを組み、足並みを揃えることで、そうした個々の課題を補い合えると私は考えているよ」


「ッ!」


 西園寺が一瞬言葉に詰まり、より険しい表情を浮かべる。代表はさらに言葉を続けた。


「歌は全員でレベルを揃え、動画には台本を用意する。そうやって互いに補い合えば、苦手な子でも活躍の場を持てるはずだ。私は協調性を大切にすることで、誰もが輝ける環境を作りたいと考えている。その思いは、キミも同じではないかな?」


 西園寺が険しい顔のまま少し間を置くと、真剣な眼差しを向けながら言葉を放った。


「確かに、一人々のレベルは違う……でも、僕は個性が最大限に発揮され、それが相乗効果でさらに輝く形を目指してる! だから、個人の魅力を削ぐようなことは絶対にしたくないんだ!」


 アオイはそのやりとりにただ息を呑むしかできなかった。二人の熱がぶつかり合い、部屋の空気がピンと張り詰める。すると代表が小さくため息をつき、穏やかに提案した。


「では、こうしよう。私はもともモモハくんのデビューを盛り上げるために、ミャータくんともう一人を加えた三人でグループソングを制作し、それを依頼されているアニメの主題歌にするつもりだった。だが、西園寺くんがそこまで言うのなら、少し趣向を変えよう。双方で三人組のユニットを編成し、それぞれの方針で一曲ずつ制作する。投稿後2週間の再生数が多い方に、正式にアニメの主題歌を任せるというのはどうだろう?」


 西園寺がその言葉に目を細め、にやりと笑った。


「いいでしょう。臨むところです!」


 自信満々な西園寺に対し、代表が鋭く条件を付け加えた。


「ただし条件がある。キミのグループには紅音ウララこと表見くんと、山吹セツナの五宝コガネくんの二人を必ず入れること。歌声に最も個性のある表見くんと、歌が苦手なコガネくん。それぞれを活かせるのがキミの方針なら、それができるはずだよね?」


 西園寺が一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに険しい表情になり代表を睨んだ。


「やってやろうじゃないですか……」


 代表が北大路の方を向き、さらに言葉を続けた。


「公平を期すため、両グループとも作詞は北大路くん、作曲は東ヶ崎くんに頼もうと思います」


 北大路が手を頭に添え、困ったように呟いた。


「やれやれね……」


 アオイは背筋に冷たいものが走るのを感じた。とんでもない事態に巻き込まれたのかもしれない――そんな予感が頭をよぎった。




第二章までお読みいただきありがとうございます。

41話からは第三章に入ります。引き続きお楽しみいただければ幸いです!


もしここまで楽しんでいただけましたら「ブクマ」や「いいね」だけでもいただけると励みになります!

また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


また『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ