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第30話『三つ巴の争い!?』

 



「なんだってえぇえぇええぇえええ!!」


 西園寺の叫び声が、事務所の空気を揺るがした。


 アオイは苦笑しながら、ソファに座るシオンとミカンを見渡す。ミカンは目を丸くして西園寺の反応に驚いているようだったが、シオンは特に動じることもなく、いつもの無表情を崩さない。


 アオイは西園寺に、紅音ウララの中の人が自分であることを、二人に打ち明けることになった経緯を説明した。


「なるほど! それはしょうがないね!」


 西園寺があっさりと頷いた。


「いや、軽っ!」


 アオイが思わずツッコむと、シオンが小さく呟いた。


「まぁ、いつものことよね」


 ミカンは肩をすくめている。


 そんなやり取りのあと、シオンが改めて口を開いた。


「わたしはまだ事情を聞いてないのだけれど」


 そう指摘され、アオイはミカンに話したときと同じように、シオンにも自分が"紅音ウララ"になった経緯を語った。


「西園寺さんって、いつも突然よね……」


 話を聞き終えたシオンが、呆れたようにため息をつく。


「あはは……。でも、シオンの態度が本心じゃないのを知れて、プロデューサーとしても嬉しいよ!」


 西園寺は軽い調子で笑う。シオンはわずかに視線を逸らしたが、その頬はうっすらと紅潮していた。


「それもこれも表見くんのおかげだね! 二人にバレたのは想定外だったけど、まぁ知ってた方が仕事もしやすいだろうからね」


 西園寺は腕を組みながら言葉を続ける。


「同じVtuberの中で知ってるのは、二人とミドリちゃんを合わせて三人か。二人とも、くれぐれも内緒にね!」


「わかってるわよ」


 シオンは淡々と頷いたが、その直後、ミカンが驚いたように声を上げた。


「待ってください! ミドリさんも知ってるんですか!?」


 ミカンの焦ったような反応を楽しむように、西園寺が悪戯っぽく口元を歪める。


「そうだよー。ミドリちゃんとアオイくんは、ただならぬ関係らしいよ? ぷぷっ」


「えっ……!」


 ミカンの表情が一瞬にして凍りつく。


「西園寺さん、嘘つかないでください!!」


 アオイが即座に反論すると、ミカンは胸をなでおろしたように息をついた。


「なんだ、嘘なんですね……」


「二人でカラオケに行ったくらいだよ」


 アオイは苦笑しながら説明する。


「カラオケ!? 密室!?」


 ミカンが目を見開く。


「いやーん、密室なんてやらしー!」


 西園寺が茶化すように言い、アオイは顔をしかめた。


「もう勘弁してくださいよー!」


 その瞬間――ガチャリ


 ドアの開く音がした。


 アオイが反射的に振り向くと、そこにはミドリが立っていた。


「――!」


 思わず息を呑む。彼女は普段と変わらぬ、どこか穏やかな表情を浮かべていたが、アオイはそのあまりのタイミングに硬直した。


「おー! 噂をすれば、だねー!」


 西園寺が面白がるように声を上げる。

 ミドリは少し首を傾げた。まさか自分が話題にされていることなんて、思いもよらないのだろう。


「お母さんがお菓子持っていきなって……何の話をしていたんですか?」


 彼女は手にした紙袋をテーブルにそっと置きながら、自然な口調で尋ねた。


 その一言で、室内にわずかな緊張感が生まれる。


「いやーねー、表見くんとミドリちゃんの関係について、表見くんに聞いてたんだよー!」


 西園寺が軽い口調で言う。


「っ!」


 ミドリの動きが一瞬止まり、耳まで赤く染まるのが分かった。


「こっ、これ、皆さんで食べてください!」


 慌てたように紙袋を押し出し、目を逸らす。

 その仕草が余計に照れ隠しのように見えたのか、西園寺はニヤリと笑った。


「カラオケデートはどうだったんだい?」

「でっ、でででデートじゃないですよ!」


 ミドリは勢いよく否定し、顔を真っ赤に染めた。

 その反応はあまりにも分かりやすく、まるで頭から湯気でも出ているかのようだった。


「ミドリさんは、表見さんとはどういう関係なんですか?」


 ミカンが興味深そうに尋ねる。ミドリは思わず口元を手で隠し、俯き加減に小さな声で答えた。


「……友達です」


 その言葉に、ミカンは「そっ、そうなんですね……」と返したが、どこか探るような視線を向けていた。


「そうそう! ミカンちゃんとアオイくんが実は知り合いだったって話、ミドリちゃんにはもうした?」


 西園寺が話題を変えると、ミドリは驚いたように目を丸くした。


「えっ、そうなんですか?」


「実は……」


 アオイはミカンとの過去、そして彼女とシオンに紅音ウララの正体を明かしたことを説明した。


「そんなことがあったんですね……」


 ミドリの目が、複雑そうに揺れたように感じた。


「そうなんです! 運命の再会ですよね、表見さん!」


 ミカンは冗談めかしながらアオイの腕を取るようにして言った。


「まっ、まぁ凄い偶然だよね……」


 アオイは曖昧に笑いながら答えた。


「そっ、そうなんですね……」


 ミドリは小さく頷いたが、その表情はどこかぎこちない。


「おやおや?」


 西園寺が頬杖をつきながら、からかうような視線を向ける。


「表見くんを取り合って、二人の女性が争ってる!」


「「違います!」」


 ミドリとミカンが即座に否定した。その迫力に西園寺が少し身を引く。


「冗談だよ……あはは」


 そこへ、シオンがゆっくりと割って入った。


「あら、二人だけとは限らないわよ。ねえ、お兄ちゃん」


 彼女の視線がアオイに向くと、アオイの背筋が凍りついた。


「「おっ、お兄ちゃん?」」


 ミドリとミカンの視線も一斉にアオイへと向けられる。凄まじい圧がアオイにのしかかる中、西園寺が口元を綻ばせた。


「これは第三勢力の登場かな? モテる男は辛い――」

「いい加減に本題に入ってくださああぁああぁあい!!」


 耐えかねたアオイの叫びが、事務所の空気を震わせた。



お読みいただきありがとうございました。 もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや感想、レビューをいただけると励みになります。

誤字脱字やおかしい点などありましたら、ご指摘お願いいたします。

引き続き、この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


また、『30歳無職だった俺、いきなり女性VTuberになる。』キャラクターガイドブックの投稿も始めました。

最新話までのネタバレを含む可能性があるので、閲覧の際はご注意ください。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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