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第26話『波乱の予感!?』

 



「古臭いのが移らなければいいけれど」


 シオンがいきなり、場の空気を切り裂くような冷たい言葉を放った。その瞬間、アオイの心臓が再び跳ね上がり、場の緊張感が一気に高まったように感じた。同時にミカンが目に見える怒りを抱え、シオンに向かって叫んだ。


「何でそんなことばっか言うんですか! 表見さんをそんな風に言わないでください!」


 ミカンの声は震え、怒りと悲しみが入り混じった響きを持っていた。彼女の瞳には再び涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだ。その言葉に西園寺は驚きの表情を浮かべ、一瞬その場が静まり返った。シオンは無表情のままミカンを見つめていたが、何も言わなかった。その無表情さが、余計に場の緊張感を高めていた。


 アオイは自分のためにこんなにも怒ってくれるミカンの姿を見て、胸に複雑な感情がこみ上げてきた。感謝とともに、なぜそこまで自分のことで怒ってくれるのか、驚きと戸惑いが入り混じる。しかし、なんとかその場を納めないといけないと思い、再度ミカンを宥めようとした。


「み、ミカンちゃん落ち着いて、ほんと俺は大丈夫だから…」


 それでも、ミカンの目からは涙が溢れ、彼女は震える声で言った。


「わたし……やっぱりシオンさんとは組めません」


 ミカンはアオイと西園寺に深く頭を下げ「わたし帰ります」と言うと、事務所のドアを開けた。アオイは内心「連れ戻さなくては」と思いながらも、呆然としてその場に立ち尽くしていた。西園寺もまた、その場から動けないようだった。


 すると、ミカンがドアをそのままに戻ってきた。彼女は涙で濡れた瞳のまま、照れた様子でアオイの前に立った。そして、控えめな声で呟いた。


「連絡先……教えてください」


 アオイはその言葉に驚きながらも「あ、えっと…はい」としか返事ができなかった。そして急いで連絡先を交換する最中、彼女の手が微かに震えていることに気づいた。その震えを隠すかのように、彼女は大きなシャツの袖をそっと引っ張り、その裾に指を潜ませた。


 連絡先の交換が終わると、彼女は事務所の出口に向かっていった。その途中で少し振り向き、アオイの方向に慎ましく手を振るとそのまま出ていった。


「わたしも帰るわ。グループソングの件は詳細が決まったら教えてくれるかしら。まあ、あの様子だとどうなるか分からないけれど」


 ミカンが出て行った後、シオンは悪びれもない素ぶりでそう言い、事務所を後にした。

 その背中が見えなくなるまで、アオイと西園寺はその場に立ち尽くしていた。


 そして、出しアオイは西園寺が困ったような表情を浮かべていることに気がつくと「なんか、すいません…」と申し訳なく言った。彼の声には、自分の無力さへの苛立ちと、状況を収拾できなかったことへの悔しさが滲んでいた。


「表見くんのせいじゃないよ! プロデューサーとしての自分の力不足さ。それより女の子って怖いよね〜」


 西園寺は苦笑しながら茶化したように言った。アオイは気を遣ってもらっているような気がして、さらに申し訳なく感じた。だがそれと同時に、少しだけ安堵もしていた。


 彼がさらに言葉を続け「とりあえず今日は解散しよう」と提案してきた。アオイは深く頷き、事務所を後にする。外に出ると、冷たい風が彼の顔に当たり、少しだけ心を清々しくしてくれた。



 ***



 アオイは帰り道、今日の出来事を振り返りながら歩いていると、小さな公園のベンチにシオンの姿を見つけた。何をしているのか気になり、見つからないように公園の外から、シオンが座っているベンチの後ろに回り込もうとした。


 近づいていくと、シオンがなにやら呟いているのが聞こえてきた。


「表見さんの歌のこと褒めたつもりなのに、またいらないこと言ってわたし…」


 その言葉が聞こえた後、彼女は肩を落として頭を抱えた。その姿は、事務所での冷たい態度とは打って変わって、普通の女の子のようだった。アオイは昨日のコラボ配信のことを思い出し、今と普段の姿のどちらが本当の彼女なのか疑問に思った。そしてシオンが座っているベンチの真後ろまで来ると、生垣よりも低くその場にしゃがみ込み、見えないように身を隠した。


「なんでいつもこうなんだろう。緊張して変な態度取っちゃうし、言いたくないことも言っちゃうし…わたしってほんとバカだなぁ」


 シオンは自嘲的に言った。


 ――シオンさんって本当はいい子なんじゃ……


 その時、アオイのスマホから音が鳴った。彼がびっくりして立ち上がると、シオンがその音に気づいたのか、驚いたような声をあげるとともに立ち上がり、勢いよく後ろを振り返った。そして、アオイと目が合う。


 一瞬の沈黙が流れたあと、シオンは絶叫した。


「ふぁぁああああ!!」


 その叫び声にアオイは後退りすると、足が何かに引っかかって尻餅をついてしまった。慌てて立ち上がった彼の目に映ったのは、驚きと混乱の表情を浮かべたまま、その場にへたり込んでしまった彼女の姿だった。


 しばらくして、シオンがゆっくり立ち上がると、息を整えこちらを睨んできた。


「……なんでここにいるのよ」


 彼女の口調が戻っていた。その声には普段の冷徹さが感じられたが、アオイはその裏に隠れた不安定さを読み取っていた。シオンがあの瞬間、動揺し、混乱していたのは明らかだった。




お読みいただきありがとうございました。 もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや感想、レビューをいただけると励みになります。

誤字脱字やおかしい点などありましたら、ご指摘お願いいたします。

引き続き、この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


短編集『成長』シリーズも、不定期に投稿しています。

どれも短い物語ですが、成長の大切さや本当の強さとは何かを考えながら、心を込めて書きました。

ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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