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第17話『アイスティー×ジンジャーエール!?』

 



「そういえばドリンクバー忘れてましたね。ミドリさん、何飲みますか?」


 アオイは立ち上がりながら尋ねると、ミドリが少し驚いた様子で目を瞬かせた。


「あっ、ありがとうございます! じゃあ……アイスティーでお願いします」


「了解です」


 彼は軽く頷くと、部屋を出てドリンクバーへ向かった。


 ――なんだか緊張するな……


 アオイは久しぶりのカラオケで緊張していた。VTuberとして歌っているとはいえ、ミュージシャンを辞めてから、こうして対面で誰かと歌う機会はあまりなかったからだ。


 ドリンクバーの前に立ち、アオイは自分の分のジンジャーエールと、ミドリのアイスティーを注ぐ。ついでにストローを二つ手に取ると、慎重にグラスを持ち直し、部屋へと戻った。


「お待たせしました。これ、ストローもよかったら使ってください」


「ありがとうございます!」


 ミドリは笑顔で受け取ると、二人はそれぞれ飲み物に口をつけた。


 ふと、会話が途切れる。静寂が流れ、なんとなく落ち着かない空気が漂った。


「おっ、音楽やってたから、人前で歌うのは慣れてるのに、カラオケが久しぶりだからか、緊張しますね」


 そう口にすると、彼女が勢いよく手を挙げた。


「わっ、わたしが誘ったんで最初に歌いますね!」


 ミドリは操作パネルを手早く操作し、曲を選えらんでいた。


「これ、わたしの十八番なんです。歌詞を見なくても歌えますよ」


 そう言って、彼女はニコッと笑った。


 曲が始まると、ミドリは自然な流れで歌い出した。アオイはその声に耳を傾ける。ミドリの声は、彼女の性格そのままのように柔らかく、透き通っていた。しかし、はっきりとした発声には芯があり、どこか元気さも感じられる。アオイはその歌声に魅了され、思わず呟く。


「……綺麗な声……」


 その言葉がミドリの耳に届いたのか、彼女の顔がぱっと赤く染まるのが分かった。ミドリは視線を逸らし、画面の方を向いて歌い続けた。


 彼女が歌い終えると、アオイは素直な感想を口にした。


「ミドリさんって、歌うまいですね。正直びっくりしました」


「ウララ……表見さんほどじゃないですよ。でも、歌うのは昔から好きでした」


 彼女はアオイの方を見ると、照れ臭そうに微笑んだ。


「じゃあ次は俺の番ですね……俺も十八番で……」


 アオイは頭を掻きながら、少し照れくさそうに言うと、リモコンを手に取る。選んだのは、昔憧れていたフォークシンガーの曲だった。


 ――懐かしいなぁ


 イントロが流れ始めると、アオイは自然とリズムを取る。そして、マイクを握り、歌い始めた。


 懐かしいメロディ。昔、何度も口ずさんでいた歌。気がつけば、無意識のうちに歌詞が口から流れ出していた。


 歌い終えると、ミドリが感嘆したように拍手をした。


「表見さん……素敵でした! 声色はウララちゃんと全然違うけど、ハスキーでエッジのある声質は同じですね!」


「あはは……コガネさんもだけど、褒めすぎだよ」


 アオイは照れくさそうに笑った。


「飲み物なくなっちゃったんで持ってきますね! 表見さんは何飲みます?」


「じゃあ、またジンジャーエールにしようかな。申し訳ないです」


「いえいえ! わたしも次はジンジャーエールにしよっと。行ってきます」


 ミドリはグラスを持って部屋を出て、ドリンクバーへ向かっていった。


 しばらくすると、カラオケルームの扉が開いた。


「おっ、お待たせしました! これっ表見さんのです……」


 彼女の様子が、どこかぎこちなく感じた。


「あ、ありがとうございます」


 アオイは少し疑問を抱きながらも、コップを受け取ると一口飲んだ。


「……あれ? なんだかさっきのより少し苦いかな……?」


 すると、ミドリの顔がみるみるうちに真っ赤になった。次の瞬間、アオイの手からグラスを取り上げると、猛スピードで部屋を飛び出していった。


「はえっ?」


 状況がつかめず、アオイは呆然とした。どうして突然、あんなに慌てて? 何かが変だった気がするけど



 ***



 やがて戻ってきたミドリが、顔を真っ赤に染めながら、しどろもどろに説明を始めた。


「ご、ごめんなさいっ! どっちがどっちか分からなくなっちゃって……。でも、わたしのは最初のアイスティーが少しだけ残ってたから、それでちょっと苦く感じたんだと思います。コップとストローは取り替えてきたけど……。でも、もしかしたら、間接――」


 その瞬間、彼女はさらに顔を赤くして黙ってしまった。


「あははっ、そんなこと気にしませんよ」


 アオイは笑って言ったが、ミドリは必死に首を振った。


「気にしてください!」


 その勢いに、アオイは思わず「へ?」と間の抜けた声を漏らしてしまった。


 ミドリは何かを誤魔化すかのようにリモコンを握り「わたし歌います!」と宣言すると、勢いよく選曲ボタンを押した。


 そして先ほどよりも力強い歌声が、カラオケルームに響き渡った。



 ***



 一通り歌い終えると、カラオケの退室時間が近づいていた。


「お手洗いに行ってきますね」


 アオイは部屋を出てお手洗いへ向かい、用を済ませると手を洗って外に出た。ふと通路の向こうを見ると、見覚えのある長い髪の女性の後ろ姿が目に入った。東ヶ崎の姿だった。


「カラオケなんてくるんだ」


 彼は興味を惹かれ、後をそっとつけていく。すると、東ヶ崎は自分たちの部屋の二つ隣へ入っていった。


 好奇心に駆られ、アオイは恐る恐るドア越しに中を覗く。すると——


 東ヶ崎は激しく頭を振りながら、ハードロックを熱唱していた。部屋には東ヶ崎しかいないみたいた。


 ――見なかったことにしよ


 彼は苦笑しながらその場を退散すると、自分の部屋に戻った。



 ***



 会計を済ませ、二人はカラオケ店を後にする。


 二人は談笑しながら帰り道を歩いていると、ミドリは自分の住むマンションの前で、ふと足を止めた。


「今日は、急な誘いだったのに来てくれて……ありがとう」


「こちらこそ、喉のいい運動になりました。それに、久しぶりのカラオケ、楽しかったです」


 アオイが微笑むと、ミドリは少し口ごもったあと、勇気を出したように言った。


「あっあの……またよかったら!」


 言葉を詰まらせながら、視線を逸らしているミドリを見て、アオイは優しく微笑み言った。


「ぜひ、また行きましょう!」

「はっ、はい!」


 ミドリの顔が、満面の笑顔に変わった。



お読みいただきありがとうございました。 もし楽しんでいただけましたら、ブックマークや感想、レビューをいただけると励みになります。引き続き、この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


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