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第11話『友達は甘え上戸!?』&10.5話

 



 夜の街の静けさが、アオイの焦りを際立たせた。


 目の前に立つミドリは、困惑したような表情でアオイを見つめている。彼女の視線は鋭く、それでいてどこか疑問を抱えているようだった。


「表見さんって……モノマ――」

「ごめんなさい! 騙すつもりはなかったんです!」


 ミドリの言葉が最後まで発される前に、アオイは慌てて叫んだ。その声にミドリが驚いたように目を瞬かせた。その反応が意外だったのか、アオイもまた目を瞬かせた。



「「……え?」」



 言葉を失ったまま、二人は同時に呆気に取られていた。ミドリの様子を見て、アオイは決心したように深く息を吸い込み口を開いた。


「でも、男の自分が紅音ウララの中の人だなんて……ん、モノマネ?」


 そう言った瞬間、アオイは自分が勘違いしていたことに驚愕し、思わず頭を抱えた。そして顔を上げると、ミドリの目が更に丸くなり、彼女の表情がますます驚きに満ちているのがわかる。


 二人は再度、互いに顔を見合わせると、しばしの沈黙が流れる。気まずい空気が一層強くなり、アオイはどうにかその場を繋ごうと考えるが言葉が出てこない。


 そして……



 ***



 西園寺は大きく笑いながらテーブルを叩いた。


「あっはっはっはっは! 自分からバラしちゃうなんて、ほんとドジだなあ!」


 アオイはうなだれながら、ため息をついた。


「あの状況なら、謝って内緒にしてもらうようお願いするしかないと思ったんですよ!」


「表見くんってほんと真面目よねぇ」


「北大路先生までー!」


 北大路がくすくす笑う。そんな中、西園寺はミドリに目を向けた。


「でもバレたのがミドリちゃんでよかったよ。ミドリちゃんはいい子だから、人に言いふらしたりする子じゃないし」


 西園寺がそう言うと、ミドリは腕を組み、まるで不満そうに頬を膨らませた。そんな彼女がアオイを見つめ、ふてくされたように口を開いく。


「そうですよ、内緒にしてもらうなんて酷いです! 私はもとから言いふらしたりなんてしませんから!」


「そうだよ表見くんはなんて酷いやつなんだ」


「何もそこまで言わなくても……」


 アオイは困り果てると、打ち上げに至るまでのことを思い出していた。



 ***



「ちょっと電話失礼します!」


 動揺したアオイは、ポケットからスマホを取り出すと慌てて西園寺に電話をかけた。


 ――やばいやばいやばいやばい! 西園寺さん、お願いだから出てぇぇぇ!


 すると、スマホから西園寺の声がした。


「もしもし、表見くん? どうし――」

「ばっ、バレました!」

「はえ? なにが?」


 電話越しの西園寺は、不思議そうに反応している。アオイは必死に事情を説明した。その間、心臓は速く鼓動しており、手に汗をかいているのを感じた。


 すると電話の向こうで西園寺が一つ、提案をしてきた。


「よし、とりあえずミドリさんも北大路先生の家に来てもらおう。話はそれからだ」



 ***



「このご恩は必ず……」


 アオイのその言葉に、西園寺がニヤリと笑いながら言葉を投げかけてきた。


「そうだそうだ! 代わりにミドリちゃんの言うこと一つ聞いてあげなよ」


「えっ、いいんですか!?」


 ミドリが驚いたように声を上げると、アオイは観念したように肩を落とし、もうどうしようもないと思った。


「はい……もうなんでもおっしゃってください……」


 その言葉に、ミドリは少しだけ躊躇したように指をいじりながら、やがて決心したように口を開いた。

 その声には、少し緊張と期待が入り混じっているのがアオイにも伝わった。


「じゃっじゃあ……私とお友達になってください!」



「「「はい!?」」」



 その瞬間、ミドリ以外の三人の声が同時に響く。アオイは驚きながらも、ミドリを見つめた。彼女は恥ずかしそうに目を伏せながら、指を弄り続けた。それでも言葉を続ける。


「わ、私、同じVTuberのお友達っていないんです。普通にご飯行ったり、買い物したり、同じ仕事の話したり、そんな友達がずっと欲しかったんです」


 その言葉を聞いて、西園寺と北大路が顔を見合わせ、ニヤニヤしながらアオイに視線を送る。


「表見くん、これは上司命令だ! ミドリちゃんとお友達になりなさい!」


「上司命令!?」


 アオイはその言葉に目を見開き、思わず戸惑った。だが、すぐに小さく頷くしかなかった。


「ま、まぁ自分でよければ……」


 すると、ミドリの顔がぱっと明るくなり、喜びの表情が浮かんだ。


「あっ、ありがとうございます! ウララちゃんとコラボしたとき、すごく楽しくて、相性もいいなって。それに、ライブ配信で歌ってた時の歌声も好きで、お友達になりたいなって思ってたんです!」


 アオイはその言葉に照れくさくなり、思わず頭をかいた。


「あはは……男なのだけはほんとすいません……」


「私は全然気にしませんよ。それに打ち合わせしたときから、面白い人だなって思ってましたし」


 その言葉を聞いて、アオイは思わず顔を赤くし、視線を逸らす。


「じゃあ共犯者も増えたことですし、飲み直しましょうかあぁああ! カンパーイ!」


 突然、西園寺が大きな声で言い出す。アオイはその勢いに驚き、すぐにツッコむ。


「共犯者ってなんですか!」



 こうして打ち上げは再開した。



 ***



 しばらくして打ち上げが終わり、三人は北大路のマンションを後にした。


「じゃあ、僕は帰り道向こうだから、表見くんはミドリさんちゃんをちゃんと送ってくんだよー」


 西園寺が手を振りながら叫んでいる。


「わっ、分かりました! お疲れ様です!」


 アオイとミドリはタクシーに乗り、同じ方向へと向かった。ミドリはタクシーの中でぐったりとアオイに寄りかかりながら、呟くように言った。


「みんなのマイナスイオンですよ〜……」


 彼女は完全に酔い潰れていた。


 ――まさかミドリさんと俺のマンション、こんなに近かったんだ……


 ミドリの住むマンションに着き、アオイは彼女を支えながら部屋の前まで連れていった。


「ミドリさーん、起きてくださーい。家に着きましたよー、鍵はありますかー?」


「カバンのポケットの……うぅ」


 アオイは慎重にカバンを開け、鍵を取り出すと、ドアを開けてミドリを中に入れた。


「じゃ、じゃあ俺は帰るから、ちゃんと戸締まり――」


 その瞬間、アオイの腕が掴まれた。


「――!? ミドリさん!?」


 振り返ると、彼女は普段と違う表情をしていた。 どこか上気したように見え、その瞳が揺れている。


「表見さ〜ん、独りぼっちはやですよ〜。もう友達なんですから、これから飲み直しましょうよ〜」


 その声には甘えたような響きがあり、普段とは少し違う印象を与えていた。


 ――ミドリさん……お酒入ると甘え上戸になるんだ……


 そんなミドリの様子に、アオイは一瞬ドキッとして、胸の奥が少しざわついた。

 するとミドリはゆっくりとアオイに近づき、腕を引いた。その瞬間、やわらかい感触が押し付けられる。


「わああああミドリさん流石にそれはまずい――」


 しかしミドリはその場に倒れこみ、静かな寝息を立て始めた。


「……ねっ、寝てる……」


 アオイは安堵しながらも、ミドリをそっとベッドに運んだ後、その場で体育座りをした。


 そして彼もまた、ゆっくりと眠りに落ちていった。



 ***



「表見さん! 表見さーん!」



 ――誰かの声がする



 ぼんやりとした意識の中で、その声を聞きながら、アオイはゆっくりと目を開けた。


 昨夜の記憶の断片。ミドリをタクシーで送り、部屋まで付き添いそして、そのまま眠ってしまったことを思い出す。


 アオイの目の前には、俯きがちで、落ち着かない様子のミドリが立っていた。


「あっ……おはようございます……」


 アオイが寝ぼけた声でそう言うと、彼女はさらに肩を落とし、小さく頭を下げた。


「本当にごめんなさい! 昨日、送ってもらったみたいで……全然覚えてなくて……」


 慌てた様子の彼女を見て、アオイは苦笑しながら手を振る。


「だっ、大丈夫だよ! 戸締りできなかったから、独りにしとくと危ないかなって……」


 それを聞いた彼女は、さらに視線を落とし、肩を小さくすぼめた。


「ありがとうございます……今後は気をつけます……」


 彼女の小さな声に、アオイは軽く頭を掻いた。

 気まずさを感じつつも、ここに長居するのもどうかと思い、立ち上がった。


「うっ、うん。じゃあ俺はそろそろ行くね! 帰って支度しないとだから!」


 そう言ってアオイが玄関に向かうと、ミドリが足音を早め、バタバタと後ろからついてきた。


「本当にありがとうございました! また……その……」


 ミドリの唇がわずかに動いた。何か言いたそうな表情にも思えたが、彼女は結局何も言わなかった。アオイは一瞬不思議に思ったが、深く考えずにドアを開けた。


「おっ、お邪魔しました」


 アオイは軽くお辞儀をして部屋を後にする。




 〜〜第10.5話『西園寺と北大路』〜〜〜




 マリコは、表見の歌声に耳を傾けながら、思わず西園寺に言葉を掛けた。


「あのタイミングで表見くんが現れたのは、運命なのかもしれないわね」


「僕もほんとそう思うよ」


 西園寺は少しも迷わずにうなずき、笑顔で答えた。そんな彼に、マリコは真剣な表情で言う。


「大事に育てなきゃダメよ?」


「任せてよ、マリっぺ!」


 その呼び方に、マリコは少し顔を赤らめながらも、思わず眉をひそめる。


「マリっぺはやめなさい」


 だが、西園寺は楽しげに笑いながら言った。


「いいじゃん、大学からの仲なんだから」


 その言葉に、マリコは深くため息をついた。




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