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エルの日常②

作者: よん

おらの名前はエル。エルといっても名探偵ではないし、気になる事もそんなにない、普通の、ちょっぴり不細工な女の子だべ。


瞳はくりくりで、一睨みで相手を威圧するような…。


この話、なんだか前回もしたような気がするべ。なので、カットして早速本題にはいっていくべ。


おらは今、入隊試験の真っ只中だった。


入隊試験とは、新規入団した兵士を技能別振り分ける試験だべ。


剣術や盾術が得意なら、前衛部隊に。

槍術や馬術が得意なら、前衛部隊に。

弓術や魔法が得意なら、前衛部隊に。


才能を少しでも見せれば、前衛部隊にぶち込まれてしまう試験とも言えるべ。


だからこの試験では、真面目な馬鹿以外、とことん手を抜いて失敗ばかりする。


国を守る兵士という大義名分に守られながら、極上のニート生活を満喫する事が、入団兵の目的だから、当然だった。


国に心臓を捧げてアルミリア送りにされるなんて真っ平ごめんだべ。


ちなみにアルミリアは、人族と魔族とが、ギャンギャンに殺りあっている悪名高き死地の名前である。


そんな場所、おらは死んでも行かねぇべ。


「次、エル・ロロ」

「はい」

「お前も、返事だけはいいな」


おらの名を呼んだ兵士が、呆れたような口調で言う。やる気はあるけど、出来ませんを演じる為、入団兵は返事が良いのである。


「では、貴様の得意を見せてみろ」

「はい」


おらは帯刀している剣を抜き、藁人形に向かって「えい」と剣を振り下ろした。


鎧はおっとうお手製のつよつよ装備だったが、剣は倉庫に眠っていたお古。それに何より、おら自身は超よわよわ。


剣の重さで、藁人形にはドスっと刃が少しめり込んだものの、ただそれだけだった。


「酷いな」

「剣を片付けて下れ」

「抜けねぇべ」

「…本当に酷いな。ほら」

「どうも」


呆れた兵士に投げ渡された剣を必死に受取りつつ、おらはぺこりと頭を下げた。


「ダサっ」

「ぷぷぷ」

「入隊以前にクビだろ」


わざわざ手を抜かなくても、おらは滅茶苦茶に弱い。その弱さは、必死に手を抜いている者達からも馬鹿にされ、笑いが出る程だった。


そんなおらがなぜ、国が運営する兵団に入隊出来たのか?


裏口入隊である。


おらのおっとうは、国王と仲良しこよしの兵隊長なので、どうにでも出来るんだべ。


もつべきものは優秀な父親。と言いたい所だけんろ、働きたくないおらからすれば、余計なことしやがってという思いの方が強かった。


だっておら、まだ12だべ。

学生やっていたいべ。


という事でおらは、無様を晒してクビになったとしても一向に構わなかった。


「だっせーなお前。というかお前、本当に弱いだろ。オレは目がいいから一目で分かったぜ。ちなみに今試験を受けてるやつも相当にやらかしてるが、アイツは相当にやる。オレの次くらいかな」


「文句あるだべか?」

「ねーよ。まぁ文句があるとしたら、なんで雑魚の癖に、そんな良い鎧を身に付けてんだ?って事だな」

「それ、俺も気になった。寄越せよ」


おらに絡んできた変な男が言い、顔だけはまともな男が、おらの鎧に手を触れてくる。


鎧が全部を遮るから、本当に触れたかどうかは分からないけど、おらは「あーあ」と呟いた。


触れようが触れまいが、男が触ろうとした時点でアウトだからだ。


「ぐぎぃ、ぎょっ」


おらに触れようとした男が、君の悪い声を出して倒れる。口からは泡を吐き、体はピクピクと痙攣していた。


「いきなりどうしたんだお前」

「なんか、悪いものでも食べたべか?」


鎧には、弱くて不細工なおらがイジメに合わないよう、飛びっきりの呪いが掛けられている。


おらに触れると、火傷どころじゃすまねーんだべ。


なむなむ。




へたれた試験の結果、エルは見事王宮兵隊に入隊する事となった。


試験結果が発表された時、エルはすっかり忘れ去っていたが、エルに絡んできた男達はその才能を認められ、見事、前衛部隊に派遣される事が決定した。


手を抜き、情けない姿を王宮兵に晒してはいたものの、実は試験を見ていると思われていた兵は、何の取り柄もないぽんこつであり、試験官でもなんでもなかったりした。


本物の試験官は、国法の鑑定石であり、試験はなんとなく雰囲気でやっているに過ぎなかった。


そして鑑定石が鑑定した結果、誰よりもしょぼかったエルは、多くの王宮兵隊から一番人気を獲得していた。


みんな、自分より明らかにへぼい奴が欲しかったのである。


王宮兵は腐っていた。

そしてこれは、国が平和である事を表していた。


「エルよ。今日はどんな1日だった?」

「今日も平和で、まぁまぁ楽しい1日だったべ」


エルの1日は、今日も平和に過ぎていく。


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