第6話 サーキュス・ギアの解析
魔物の活動が活発化し、ギルドの仕事が忙しくなってきたことで、父ヴォルフガングはレオンハルトの成長を助けるため、ギルドを通じて師匠を雇うことに決めた。彼が幼いながらも早くから魔法や剣術を学び、幅広い技術を身につけられるようにするためだった。
「レオン、お前も頑張ってるが、俺たちも忙しくなってきた。これからは師匠に教えてもらうことになるぞ」
レオンハルトはその知らせを聞き、内心喜んでいた。さらなる成長のチャンスが訪れたのだ。
リオネル・グロックは、ギルドを通じて雇われたレオンハルトの師匠である。彼は幅広い知識を持ち、剣術、体術、基礎体力の鍛錬、そして魔法の訓練に至るまで、多岐にわたるスキルを教えられる人物だった。初めて会った時のリオネルは、レオンハルトをじっと見つめ、まだ幼い彼の潜在能力を感じ取った。
「よろしく頼む、リオネル先生」
「君の父親から話は聞いているよ。さっそく始めようか。まずは1日に発動できる魔法の回数を増やしてみよう」
訓練が始まると、レオンハルトは1日5回だった魔法の発動回数を、師匠の指導の下で10回にまで増やすことになった。それを超えたら、今度は剣術や基礎体力の訓練、さらには文字の勉強も開始された。
「まずは体力作りが大事だ。剣を振る時も魔法を使う時も、強い体が基盤になるからな」
リオネルは、魔法だけでなく肉体の強さを重視していた。そして、地頭が良いレオンハルトは、この過程でもすぐに成果を出し始めた。
「はい、やってみる!」
彼は剣を握り、一心に振る練習を続けた。地頭が良い東雲の知識を持っていることもあって、習得スピードは尋常ではなかった。
リオネルは、毎日の訓練を通じてレオンハルトの成長を目の当たりにし、驚きを隠せなかった。まだ幼い彼が剣術や魔法、体力の訓練、さらには文字の習得まで、驚異的なスピードでこなしていくのを見て、リオネルは感心していた。
「本当に3歳か?…いや、これはすごい。普通なら数年かかることを、君はほんの数週間でマスターしつつある」
「ありがとう、先生!」
その言葉にレオンハルトは嬉しそうに微笑んだ。徐々に彼は発音もしっかりしてきて、師匠との会話もスムーズになりつつあった。
3歳半になる頃には、舌の筋肉が成長したこともあり、発音できる言葉が増え、会話もだんだんと上達していった。同時に、この世界の文字も理解できるようになり、ついに彼はサーキュス・ギア本体に刻まれた文字を読むことができるようになった。
ある日、レオンハルトはサーキュス・ギアの表面に書かれた文字に気づいた。
「シンクロ率…魔法レベル…?」
そこには使える魔法のレベルやシンクロ率といったステータスが記載されていることがわかった。
(これは…ステータス管理ができるシステムがあるということだな。ということは、人間の情報を取得できるインターフェースがギアに備わっているはずだ)
その瞬間、レオンハルトは強く確信した。サーキュス・ギアが単なる魔法の道具ではなく、もっと高度な技術で動いていることを理解したのだ。そして、サーキュス・ギアの解析を始めたいと強く思うようになった。
数か月間の鍛錬を通じて、レオンハルトとリオネルの絆は深まっていった。リオネルも、レオンハルトの努力と成長を認め、彼に信頼を寄せるようになった。
ある日、レオンハルトは師匠に思い切って頼みごとをすることにした。
「先生…お願いがあるんだ」
「何だ?なんでも言ってごらん」
レオンハルトは少し躊躇いながらも、真剣な表情で話し始めた。
「サーキュス・ギアを…分解して調べたいんだ。禁忌だって知ってるけど、どうしても解析したいんだ。だから…工具を調達してくれないかな」
リオネルは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。
「確かに分解は禁忌だ。それはわかっている。でも、君のような探求心は大事なことだ。よし、親には内緒にして、工具を調達してあげよう」
「ありがとう、先生!」
レオンハルトは心の中でガッツポーズを取り、リオネルに感謝の気持ちを伝えた。
数日後、リオネルから工具を受け取ったレオンハルトは、意気揚々とサーキュス・ギアの分解を試みた。最初は表面のパーツを慎重に外していった。工具を使うことで、外部のパーツは比較的簡単に外すことができた。
(これで内部を確認できるはずだ…)
しかし、次に進もうとした時、内部を確認するためのパーツは特殊な工具がないと分解できないことに気づいた。どうやら、この世界の技術ではまだ手が届かない部分があるようだ。
「やっぱりこれは簡単には開けられないか…」
だが、その途中で、レオンハルトはサーキュス・ギアに奇妙な端子を発見した。
「これは…入力端子と出力端子か?」
ギアの一部に、何かを接続できるポートのようなものが備わっていることを見つけたレオンハルト。これが意味するものは何か、彼は新たな興味を抱いた。
(この端子を使えば、もっと多くのことができるかもしれない…)
このようにして、レオンハルトはサーキュス・ギアの内部構造に深い興味を抱き、さらなる解析を進めていくことになった。
レオンハルトは、サーキュス・ギアの入力端子に目をつけていた。その端子には小さなランプのようなものがあり、何らかの信号を入力すれば光るのではないかと考えたのだ。彼の目標はまず、その仕組みを理解すること。そこで、彼は物理的なスイッチを作ることを思いついた。
「スイッチを作るには…物理的な材料が必要だな」
レオンハルトは思案し、すぐに師匠リオネルに錬成回路を手配してもらうことに決めた。スイッチを錬成するには、回路が必須だったからだ。リオネルはレオンハルトの探求心を信じ、すぐに手配してくれた。
「先生、この回路を使えば、スイッチを作れると思うんだ」
「なるほど。私には難しいが、お前のやることにはいつも意味がある。やってみろ」
レオンハルトは錬成回路と自らの知識を駆使し、スイッチの作成に取り組んだ。金属や木材を集め、錬成回路で材料を加工しながら、数日間の試行錯誤が続いた。ついに2週間後、彼はシンプルなスイッチを作り上げた。
「やった…これで、信号を入力できるかもしれない」
彼は手作りのスイッチをサーキュス・ギアの入力端子に接続した。確証はなかったが、次のステップに進む準備は整った。
レオンハルトは、師匠リオネルとの修行が終わった後、両親がギルドの仕事から戻ってくるまでの間に解析作業を進めていた。この時間が、彼にとってサーキュス・ギアの秘密を解き明かす貴重な瞬間だった。リオネルも、レオンハルトの行動を見守りながら、その意図を完全には理解できないまでも、彼を尊重していた。
「私にはお前が何をしているのか、まだ理解できないが…きっと重要なことなんだろう」
「うん、先生。これはただの遊びじゃないんだ。きっと、何か大きな発見ができるはず」
リオネルはレオンハルトの真剣な表情を見て、その探求心を信じることにした。彼は師匠として、あえて口出しをせずに見守ることにしたのだ。
レオンハルトは、解析作業を行う際、慎重に行動していた。特に妹のアナスタシアが家で遊んでいる時は注意が必要だった。彼女は両親が不在の時、祖母の家に行ったり友達と遊んでいることが多かったが、時々レオンハルトの様子を覗きにくることもあった。
「レオン、何してるの?」
「ん…魔法の練習だよ。危ないから、あっちで遊んでて」
アナスタシアに見つからないよう、特に解析作業をしている時は警戒を怠らなかった。彼女に知られるわけにはいかない。これは禁忌に触れる行為だったからだ。
そしてついに、レオンハルトはスイッチを入力端子に接続し、恐る恐るスイッチを押した。心臓が高鳴る中、結果を見守った。
「…どうだ?」
ランプがわずかに光った。その光は非常に小さく、ほんの一瞬だったが、レオンハルトにとっては大きな成果だった。何らかの信号が入力され、サーキュス・ギアが反応したことが証明されたのだ。
(やった…これで、この端子が信号を受け取る仕組みだということがわかった)
この瞬間が、次のステップへの突破口となった。サーキュス・ギアの解析はまだ始まったばかりだったが、レオンハルトは確実に一歩前進していた。