第5話 初めての魔法
家に帰ったレオンハルトは、両親にきつく叱られることになった。特に父親ヴォルフガングは、息子が他人のサーキュス・ギアを勝手に装着したことに対して激怒していた。
「レオンハルト、勝手に人の物を装着するなんて、なんてことをしたんだ!」
ヴォルフガングの厳しい声が響く。レオンハルトは心の中で反省しつつも、少しばかりの達成感を隠せなかった。
「…ごめんなちゃい。でも、ギアつけたかったの…」
3歳らしい幼い声で謝罪するレオンハルト。しかし、彼の中には前世からの知識があるとはいえ、家族との絆を大切にしていることに変わりはなかった。そんな息子の素直な姿を見て、ヴォルフガングも少しだけ感情を和らげた。
「次からは勝手に人の物を使うな。サーキュス・ギアは危険なものだ。お前にはまだ早いんだ」
それでもレオンハルトは、このまま終わらせるつもりはなかった。ギアを手に入れた今、どうしても魔法を使ってみたいという強い欲求があった。
「おとーしゃん! ギアで…まほう、ちょっとだけ使いたい!」
その願いに、ヴォルフガングは困惑した表情を見せた。
「まだ早い。7歳からでないと危ないんだ。お前はまだ3歳だ、無理だ」
「でも、ちょっとだけ! おねがい!」
レオンハルトは小さな手を振りながら、必死にお願いし続けた。ヴォルフガングはしばらく悩んだが、ついに折れてしまった。
「一回だけだぞ。もし魔法がうまく使えなかったら、1年はサーキュス・ギアを没収するからな」
レオンハルトはその言葉を聞いて、内心でガッツポーズを取った。
(よし! ありがとう、お父さん!)
ヴォルフガングは、レオンハルトに初歩のファイアボールの回路を渡し、詠唱の方法を丁寧に教え始めた。
「これは簡単な炎の魔法だが、お前には難しいかもしれない。詠唱を覚えて、しっかり集中してみろ」
ヴォルフガングが見本として詠唱を始めると、レオンハルトはその姿をじっと見つめ、心の中で反復した。
(詠唱は…これだな。言葉に集中して、マナの流れをコントロールする感じか…よし、やってみよう)
彼は覚悟を決め、深呼吸をして詠唱を始めた。
「もえよ、わがてにやどれ、ふぁいあぼーる…!」
その瞬間、レオンハルトの手の前に小さな炎がポッと現れたが、それはミリ単位の小さな火だった。
「ほら見ろ、やっぱりお前にはまだ早い」
ヴォルフガングは苦笑したが、レオンハルトはすぐに諦めなかった。
「もういっかいやる!」
意志を曲げないレオンハルトは、再び詠唱を始めた。さっきより集中し、もっとマナを引き出すイメージをした。
「もえよ、わがてにやどれ、ふぁいあぼーる!」
今度は少し大きな火が手のひらの前に浮かび上がった。ヴォルフガングも少し驚いた様子を見せた。
「なんだ、さっきより大きいじゃないか…」
しかし、レオンハルトはそこで止まらなかった。もっと大きな魔法を出そうと、全力で気合を入れた。
「うおぉぉぉーっ!」
叫びながら、再び詠唱に集中した。
「もえよ、わがてにやどれぇぇぇ…ふぁいあぁぁぼーる!」
今度は凡級の炎魔法として申し分のない大きさの火が手のひらから噴き出し、周囲の空気を揺らすほどの力が発揮された。目の前の木が瞬時に燃え上がった。
「……!」
その光景に、ヴォルフガングも驚きを隠せなかった。
「おい! 木が燃えてるじゃないか!」
彼は慌てて消火の呪文を唱え、火を消し止めた。だが、その後に見たのは、満足げに笑うレオンハルトの姿だった。
ヴォルフガングは息子に対して怒る一方で、内心では驚きと誇りが入り混じっていた。3歳でここまで魔法を扱えるのは、普通ではありえない。
「お前なぁ…勝手に木を燃やすんじゃない!」
ヴォルフガングは厳しい表情を作ったが、心のどこかで息子の才能に感心せざるを得なかった。
「…でも、よくやった。まさかここまでできるとは思わなかったぞ」
ヴォルフガングはついに微笑み、レオンハルトの頭を優しく撫でた。
「えへへ!ありがとー、おとーしゃん!」
レオンハルトは嬉しそうに笑い、内心でも成功に満足していた。彼の目の中には、これからの成長に対する強い意欲が輝いていた。
サーキュス・ギアを初めて使ったことで、レオンハルトは次のステップへ進むことになった。 父親ヴォルフガングは息子の熱意を認め、監視のもとで魔法の訓練を許可した。
「よし、レオン。お前に新しい回路を渡す。これで炎以外の魔法も試してみろ。ただし、雷系はまだ危ないから渡せない」
ヴォルフガングは、水と土の回路をレオンハルトに手渡し、真剣な表情で言い聞かせた。
「1日5回までだ。無理をするなよ。俺が見てるから、少しずつ練習していこう」
レオンハルトはその言葉に素直にうなずいた。前世・東雲の知識がどれほどあろうとも、今の体はまだ幼く、訓練に耐える力をつける必要があると理解していた。
「わかった!おとーしゃん!」
訓練が始まってから、レオンハルトは毎日1日5回の魔法練習を欠かさず繰り返していた。水や土の魔法は、炎とは異なる感覚があり、最初は苦戦していた。
「えいっ!あれっ…でない…」
水の魔法を使おうと詠唱するが、何も起こらない。レオンハルトは不思議そうに父親を見上げた。
「焦るな、魔法は感覚を掴むまでが難しいんだ。もう一度やってみろ」
ヴォルフガングの励ましに従い、レオンハルトは再び集中して詠唱を始めた。
「アク…あ、あくあ…ぼーる」
今度は、手のひらにほんの少しだけ水が現れた。わずかな成功だが、レオンハルトはその手応えに目を輝かせた。
「できた!」
その小さな水滴を見つめるレオンハルトの顔には、喜びが溢れていた。父親も、そんな息子を見て微笑んでいた。
「よし、その調子だ。毎日少しずつ積み重ねていけば、必ず上達するぞ」
2か月後、魔法は安定して発動できるようになる
訓練が始まってから2か月が経った。レオンハルトは毎日欠かさず練習を続け、ついに凡級の魔法を安定して発動できるようになった。炎、水、雷、それぞれの魔法に独特の感覚を感じ取り、使いこなすことができるようになっていた。
「燃えよ、我が手に宿れ、ファイアボール!」
「流れよ、我が手に集え、アクアボール!」
「轟け、天空を裂け、サンバーボルト!」
次々と小さな魔法を発動させるレオンハルト。最初の頃は力を引き出すのに苦労していたが、今では魔法のエネルギーを安定してコントロールできるまで成長していた。
「よーし! 見て、お父さん!」
レオンハルトは小さな炎や水の玉を嬉しそうに見せた。父ヴォルフガングも、そんな息子の成長を微笑みながら見守っていた。
「いいぞ、レオン。よく頑張ったな。でも、魔法は奥が深い。焦らず、じっくり続けていくんだ」
猛特訓の様子
この2か月間、レオンハルトにとっては毎日が挑戦の連続だった。幼い体で何度も詠唱を繰り返し、魔法を発動させようとするが、最初は失敗ばかりだった。
「もう一回…!」
失敗しても諦めないレオンハルトは、何度も再挑戦し、少しずつ魔法の感覚を掴んでいった。その過程はまさに試行錯誤の連続だった。
「お父さん、うまくいかないよ…」
時にはくじけそうになることもあった。しかし、そんな時ヴォルフガングは優しく励まし続けた。
「大丈夫だ、レオン。失敗は成功のもとだ。お前ならできる」
その言葉に励まされ、レオンハルトは毎日少しずつ成長していった。体力が尽きるまで限界に挑む日々が続き、ついには炎、水、雷の魔法を安定して使えるようになった。
レオンハルトの成長
こうして2か月間の特訓の末、レオンハルトは凡級の魔法をほぼマスターするまで成長した。まだ3歳とはいえ、その魔法の才能は目を見張るものがあった。両親も、その驚異的な成長に驚き、期待を寄せていた。
「よくやった、レオン。お前は将来、すごい魔法使いになるだろうな」
ヴォルフガングのその言葉に、レオンハルトは少し照れながらも、自信を持つようになっていた。だが、彼は同時に、さらなる高みを目指し始めていた。まだまだこの程度で満足するわけにはいかない。心の中で次なる挑戦を計画していたのだった。