第4話 サーキュス・ギアの入手計画
レオンハルトが3歳を迎える頃、彼は発音が少しずつできるようになり、家族とのコミュニケーションも増えていた。体はまだ幼いが、内心では前世の知識と知能をフルに活用し、この世界を観察し理解しようとしていた。言葉を少しずつ話せるようになると、好奇心がますます膨らんでいく。
そんなある日、父親ヴォルフガングが持っていた「サーキュス・ギア」に彼の目が奪われた。
「お父さん…あれ、さわりたい」
まだたどたどしい言葉ではあったが、レオンハルトの瞳には強い意思が宿っていた。魔法の使い方を決定づけるこのデバイスに対する興味は、日に日に強くなっていった。
ヴォルフガングは、息子がギアに興味を持っていることに気づき、少し笑いながらそれを手に取った。
「これがサーキュス・ギアだよ、レオンハルト。魔法を使うにはこれが必要だ。でも、まだお前には早い。新品のギアでないと、認証されず使えないからな」
そう言いながら、彼は優しく息子の頭を撫でた。
「ま、こんな話はまだわからないだろうけどな」
レオンハルトは静かに聞き入っていたが、内心では既に理解し始めていた。
(なるほど…新品のデバイスでしか認証されないのか。つまり、ここには認証システムや秘密鍵のような技術が存在するのかもしれないな…)
彼はサーキュス・ギアの仕組みを頭の中で分析しつつ、自分が装着できる時期について考え始めた。
ある日、レオンハルトは両親に連れられて街に出かけることになった。この世界の社会や文化を知る絶好の機会に、彼の内心はわくわくしていた。街の中心には大きな広場があり、商人たちが活気に満ちた声で商品を売り込んでいる。
「お母さん、これ何?」
「これはパンよ。とても美味しいパンを作るお店なの」
アマーリエが微笑みながら説明してくれた。レオンハルトは彼女の手を握りながら、街の様子をじっくりと観察していた。この世界の商業や文化が彼にとって新鮮に映っていた。
(なるほど、この世界の経済も取引や商売が中心なのか。技術面ではまだ発展途上のようだが、それでもしっかりとした社会が成り立っているんだな…)
レオンハルトは、街全体の構造を頭の中で整理しながら分析を続けた。
さらに、両親は彼をギルドに連れて行った。ギルドの建物は威厳があり、内部は冒険者たちで活気に満ちていた。入り口のカウンターには受付嬢が座り、ギルドメンバーたちが出入りしている。ヴォルフガングとアマーリエは、ギルド仲間に息子を紹介した。
「みんな、今日は息子を連れてきたんだ。レオンハルトだ」
「おお、レオンハルトか! お前たちの息子なら、将来は立派な冒険者になるだろう!」
ギルドの仲間たちは温かく冗談を交えながらレオンハルトに声をかけた。その和やかな雰囲気の中、レオンハルトも次第に緊張が解け、笑顔を見せ始めた。
ギルドには、両親を含めた7人のメンバーがいた。彼らはそれぞれ異なる役割を担い、この地域を守っていた。
ラウル・エグバート(35歳):ヴォルフガングの親友で、防御魔法の達人。屈強で頼りがいがある人物。
オスカー・リーベル(30歳):剣技に優れた戦士。ギルドで最も熟練した剣士であり、冷静かつ情熱的。
トーマス・アルバード(32歳):重装備の盾戦士。防御に優れ、仲間を守ることを最優先にする寡黙な人物。
イザベル・グリーヴ(28歳):治癒魔法の専門家。知的で冷静なヒーラーとして、ギルドの医療面を支えている。
エレナ・ファウスト(26歳):弓術と俊敏な動きを得意とするレンジャー。明るく快活な性格で、ギルドのムードメーカー。
彼らが談笑する中、ラウルが世間話を始めた。
「俺の息子ももうすぐ7歳になる。来週にはサーキュス・ギアを受け取る予定なんだ」
「それはすごいな! サーキュス・ギアを受け取ったら、いよいよ一人前だな」
「まぁ、まだまだ訓練は必要だけどな。まずは基礎の魔法をしっかり覚えさせないと」
ギルドの会話に耳を傾けながら、レオンハルトは自分の内なる計画を密かに練り始めていた。
(7歳になればサーキュス・ギアを手に入れるのか…。もしタイミングが合えば、俺もそのギアを装着することができるかもしれない)
レオンハルトは自分の成長とギアの入手計画を心に秘め、機会をじっと待っていた。まだ幼い彼にとって、この世界を理解し、成長するための第一歩が、少しずつ動き始めていた。
ラウル・エグバートの息子が7歳になり、サーキュス・ギアを受け取る日が近づいていた。 レオンハルトにとっては、自分の計画を実行に移す絶好のチャンスだった。どうやってそのギアを自分のものにするか、彼は日々思案していた。
「お父さん、ラウルさんの家…遊びに行きたい」
3歳になったばかりのレオンハルトは、たどたどしい言葉で父ヴォルフガングに願いを伝えた。瞳には強い意志が宿っており、ヴォルフガングもその真剣さに気づいた。
「遊びに行きたいのか? よし、わかった。ラウルに声をかけておこう」
ヴォルフガングは少し不思議そうにしながらも、息子の願いを叶えることにした。レオンハルトは内心でほくそ笑んだ。
(よし…これで準備は整った。あとは当日、どう動くかだ)
彼のプランは、ラウルの息子がサーキュス・ギアを装着する瞬間を妨害し、自分がそのギアを奪うというものだった。
そして、迎えた当日。ラウルの家に到着したレオンハルトは、期待と緊張を胸に秘めていた。家の中では、ラウルの息子が誇らしげにサーキュス・ギアを手に取り、いよいよ装着しようとしているところだった。
「おめでとう! ついにサーキュス・ギアを手にする時が来たな」
大人たちが祝福の言葉をかける中、レオンハルトは自分の計画を実行に移した。
「うわああああああああ!」
突然、レオンハルトが大声で泣き始めた。大人たちの注意を引き、ギアの装着を遅らせようという作戦だったが、大人たちは冷静に対応した。
「子供が泣くのはよくあることだ。気にしなくていい」
レオンハルトの計画は一度失敗に終わった。ラウルの息子は再びギアを装着しようとした。しかし、レオンハルトは諦めなかった。すぐに手元にあったスプーンを握りしめ、壁に向かって思い切り投げつけた。
「カーン!」
大きな音が響き、皆が驚いて再びレオンハルトの方を見た。ラウルの息子も装着を中断し、何事かとこちらを見つめる。
レオンハルトは、次のチャンスを逃すまいと小さな指でサーキュス・ギアを指さした。
「ん…あれ、見たい」
その様子を見た姉のアナスタシアが、すかさずフォローに入った。
「レオン、近くで見たいんだね? 弟に少し見せてあげてもいい?」
アナスタシアの助け舟に、大人たちは少し驚きつつも、「弟が見たいだけなら」とギアを近くに持ってくることを許した。
(ナイス、アナ!)
レオンハルトは心の中でガッツポーズを取った。ギアに近づきながら、彼は次の段階へ進むために事前に仕込んでいた小さな爆竹を手元で準備していた。そして、タイミングを見計らい、火をつけた。
「バンッ!」
家の中に響き渡る爆発音に、大人たちは驚き、慌てて外に飛び出していった。
「なんだ!? 何が起こった?」
外で混乱する大人たちの背を見送りながら、レオンハルトは無邪気な表情を保ちつつ、素早くサーキュス・ギアを自分の腕に装着した。ギアが彼の腕にぴたりと収まった瞬間、認証が完了した。
「ふふ…」
3歳の幼さにもかかわらず、レオンハルトは大人顔負けの達成感を感じていた。彼の計画は成功したのだ。
やがて、大人たちが家に戻ってきて驚愕の表情を見せた。そこには、サーキュス・ギアを装着したレオンハルトが、無邪気に笑っている姿があった。
「おい…まさか、このギアはもうレオンハルトにしか使えなくなったのか?」
ギルドの仲間たちは口をあんぐりと開け、ラウルも呆然としていた。ラウルの息子は戸惑い、どうして良いかわからず立ち尽くしている。レオンハルトへの怒りが湧き上がりかけたその時、彼はすぐに行動を取った。
「ご、ごめんなちゃい!」
レオンハルトは即座に前世で覚えた土下座をして謝罪の意を示した。しかし、この世界では土下座の文化がないため、大人たちは困惑するばかりだった。
「…その動作は何だ? 何をしているんだ?」
ラウルは首をかしげ、周りも不思議そうな顔をしていた。レオンハルトは3歳児らしい無邪気な笑顔を見せ、ただ謝ろうとしているだけだと大人たちに印象づけた。
「まぁ、仕方ないな…まだ3歳だし、これを理解してやったとは思えない」
ヴォルフガングはため息をつき、ラウルに向き直った。
「すまない、ラウル。息子が余計なことをしてしまった。俺が責任を取って、新しいサーキュス・ギアを手配するよ」
ラウルはその言葉に少し考えた後、深くため息をつき、うなずいた。
「わかった、ヴォルフ。今回はお前に免じて許すが、次は気をつけてくれ」
こうして、レオンハルトは3歳という幼さでサーキュス・ギアを装着することに成功した。彼の計画は見事に成し遂げられ、次のステップへと進むことになった。