第13話 検証
レオンハルトは、まず最初の一か月で自作の入力デバイスを開発することから取り掛かった。彼の頭には、中世風の魔法のデバイスに、現実世界の技術を応用するアイデアが浮かんでいた。この新しい入力デバイスは、サーキュス・ギアと呼ばれる魔法の装置の操作性をさらに高めるものだ。彼は基礎設計を進め、少しずつ形にしていった。
最初の段階では、デバイスの感度や魔力の伝達効率に集中した。彼は自らの得意分野であるITプロトコルを応用し、魔力の流れをまるで水がパイプを通るかのように、スムーズに制御できる仕組みを作り出そうとした。魔力がデータのように処理され、TCP/IPのようなプロトコルで伝達速度や反応時間を管理する構想だ。魔法の世界に現実の技術を組み合わせるそのアイデアは、彼にとって挑戦であり同時に興奮でもあった。
ある日、デバイスの微調整に取り組んでいたレオンハルトを、アリシアがふと覗き込んだ。「最近、うまくいってないの?」彼女は彼の様子を見て、優しく問いかけた。
「うん、反応が少し遅れてる気がするんだ。魔力の流れがスムーズじゃなくて、調整しているんだけど、なかなかうまくいかなくてね」と、彼は肩をすくめた。
アリシアは少し考え込んでから、軽く首をかしげた。「もしかして、魔力の流れが急に速くなったり遅くなったりしてない?風を操る時、強すぎたり弱すぎたりすることがあるんだけど、流れを整えると、風は穏やかに吹くのよ。」
彼女の言葉が、レオンハルトに閃きを与えた。「そうか…魔力の流れを安定させることが鍵かもしれない。僕の調整は大雑把すぎたんだな。」
アリシアは静かに微笑んだ。「そう、魔力も風と同じ。少しずつその流れを調整すれば、きっと結果も安定すると思うわ。」
その一言が、レオンハルトに新たな道筋を示した。魔力の「流れ」をデータ通信のように滑らかに制御することが、反応速度を改善する鍵だと気づいた彼は、魔力の転送速度を調整し、より効率的なシステムを作ることに注力した。彼のシステムは日に日に洗練されていった。
次の三か月間、彼はデバイスの魔力制御を徹底的に見直し、毎日微調整を繰り返した。最初の頃は反応の遅れや魔力の暴走などトラブルが続いたが、アリシアの的確な助言と彼自身の技術が相まって、少しずつ安定した結果が出るようになった。
「少しずつだけど、形になってきたな…」レオンハルトはつぶやきながら、デバイスが正常にコマンドを受け付ける瞬間を確認した。彼の努力は着実に実を結び始めたが、これが終わりではなかった。
次の二か月間、彼は新たな機能追加に没頭した。ある日、偶然にも彼は「ヘルプコマンド」を発見した。それは、サーキュス・ギアに隠された情報を引き出すコマンドであり、使用方法や隠された機能についての詳細なヒントを与えてくれるものだった。
「これで…隠された機能を引き出せるかもしれない…」彼は興奮しつつ、解析を始めた。そして、「overdrive」という特別なコマンドを見つけた。このコマンドは、魔法の威力を一時的に強化し、通常の魔法を上級魔法に昇華させることができる。ただし、クールダウンが必要で、乱用すると危険なリスクが伴うものだった。
「これは…この世界の常識を超える力かもしれない…」レオンハルトはその強大な力に驚きつつも、同時に慎重になるべきだと感じた。このコマンドを使えば強力な魔法を発動できるが、それに伴うリスクも大きい。
その夜、彼はアリシアにこの発見を話した。彼女はしばらく黙ったあと、表情を曇らせた。「そのコマンド、安易に使わない方がいいわ。タイミングを間違えれば、危険なことになるかもしれない…。」
彼女の言葉には、いつもの優しさとは違う鋭さがあった。レオンハルトはその表情から何かを感じ取ったが、それ以上は追及しなかった。
彼はまず自分のシステム内で「overdrive」の効果を検証することに専念した。この強力な機能がどれだけの力を引き出し、どの程度のリスクを伴うのか、それを知るためにはさらなる実験が必要だった。
こうしてレオンハルトは、魔力とデータを駆使した新たなデバイスの開発を進めつつ、サーキュス・ギアの未知の力を手に入れつつあった。しかし、その力が彼の運命をどのように変えていくのか、まだ誰も知る由はなかった。
レオンハルトは「overdrive」の効果を確かめるため、アリシアと共に計画を立てた。魔法の力を増幅させるこのコマンドがどれほどの威力を持つのか、実際に試すしかない。彼らは慎重に準備を整え、深夜、施設の全員が眠りについた時間を見計らって外に出ることにした。
月明かりが薄く照らす夜、風が静かに木々を揺らす音だけが響いている。レオンハルトとアリシアは、こっそりと施設の裏手に抜け出した。静けさの中、レオンハルトは周囲を確認し、誰もいないことを確かめると、サーキュス・ギアを手に取った。
「いよいよね。準備はいい?」アリシアが低く声をかける。
「もちろん、ここで失敗するわけにはいかない」とレオンハルトは短く頷いた。
彼は深く息を吸い込み、サーキュス・ギアに意識を集中させた。「overdrive」コマンドを入力するや否や、体内に流れる魔力が突如として膨れ上がった。まるで彼自身が炎そのものになったかのような、圧倒的な力が全身を駆け巡る。
「これが…overdriveの力か…!」レオンハルトはその強大なエネルギーに驚きながらも、冷静さを失わないよう努めた。魔力は、まるで噴火する火山のように膨張し、彼の手に集まっていく。
彼は空を狙い、全力で上級炎魔法を放った。次の瞬間、巨大な火の玉が夜空に向かって放たれ、轟音と共に大爆発を引き起こした。閃光が空を覆い、あたり一帯が昼間のように明るく染まる。
だが、その音はあまりに大きく、施設全体に響き渡った。大地が揺れ、静寂が一瞬にして打ち破られた。
「まずい…音が大きすぎた!」アリシアが顔を強張らせた。
遠くから急ぎ足の足音が聞こえてくる。所長や監視員たちが慌てて外に飛び出し、「今の爆発音は何だ?」「誰が何をしたんだ?」と騒ぎ始めた。
「急いで!」レオンハルトとアリシアは素早く顔を見合わせると、全力でその場を離れ、施設に向かって走り出した。二人は影に溶け込むように移動し、他の子供たちが集まる部屋にこっそりと戻った。
「気をつけて、誰かに怪しまれたらまずいわ」とアリシアが低く囁く。
二人はタイミングを見計らい、子供たちの輪の中に自然に混じった。「何の音だったんだろう?」と周りが騒ぐ中、レオンハルトは何事もなかったかのように笑顔を浮かべていた。
だが、リカルドは見逃していなかった。彼は静かにレオンハルトを見つめ、その鋭い眼差しが何かを捉えていた。何も言わず、ただじっと見つめたまま、彼もまた静かに部屋へ戻っていった。
レオンハルトは心の中で安堵しながらも、リカルドの視線を忘れることができなかった。「バレてないよな…?」彼は内心で自問しつつ、今日の行動が誰にも知られないように祈った。
レオンハルトは部屋に戻ると、サーキュス・ギアを慎重に隠し、深いため息をついた。体内に残る魔力の高揚感と、夜空に放たれた炎の残像が彼の心をざわつかせていたが、疲れた体はすぐに眠りへと誘われた。翌朝には、いつもの日常が戻ってくる…はずだった。
しかし、朝になっても心は落ち着かなかった。昨夜の出来事が鮮烈に脳裏に焼き付いており、彼はどうしてもその感覚を忘れることができなかった。レオンハルトは誰にも見つからぬようにアリシアと再び合流した。
「昨夜の魔法、すごかったわね…!」アリシアは興奮気味に声を抑えながら話しかけた。「あんな大きな炎を一気に放つなんて、まるで世界が変わったかのようだった。私、あんな光景は今まで見たことがない。」
レオンハルトもその言葉に応じて頷く。昨夜の手応えは彼の中に深く刻まれていた。「あの力は本当に桁外れだ。『overdrive』の効果で、魔法がまるで別物になったように感じた。でも、この力を完全にコントロールできれば、さらに強力なものを引き出せるかもしれない。」
アリシアの顔が少し真剣なものに変わった。「それができれば…私たち、ここから脱出できるかもしれないわ。」
二人は自然と視線を交わし、胸の中に新たな決意が芽生えるのを感じた。閉ざされた施設からの脱出――それは彼らにとって現実味を帯びた目標へと変わりつつあった。今や、彼らにはサーキュス・ギアと「overdrive」の力がある。この未知の力を磨き上げれば、彼らの自由への道が開けるかもしれない。
「ただ、昨夜のように派手にやるのは危険すぎるわ。誰かに気付かれたら終わりよ。もっと慎重に、目立たない方法でこの力を磨いていくべきだわ」とアリシアが冷静に指摘した。
レオンハルトもその意見に同意する。「確かに、昨夜の爆音で何かを感づかれたかもしれない。もっと安全に、この力を使いこなすための訓練が必要だ。」
二人は静かに頷き合いながら、これからの行動について考えを巡らせた。まずは、この力を安定して使えるように訓練を積み重ねることだ。そして、完全にコントロールできるようになったとき、次の一手が見えてくるはずだ。
二人の間には、言葉にせずとも通じる信頼と決意があった。この閉ざされた場所を抜け出すために、二人はさらに強く協力していくことを心に誓った。




