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第12話 所長室

数日後の朝、所長は子供クラスの様子を見に食堂を訪れていた。アリシアがさりげなく所長の動きを見ながら、レオンハルトに耳打ちする。


「今がチャンスよ。所長は朝食の時に気が緩むの。私が話しかけて気をそらすから、その間にポケットから鍵を取って」


レオンハルトは静かに頷いた。「わかった。うまくやるから、そっちは頼む」


二人は食堂の入り口付近で計画を再確認した後、所長のテーブルに向かって歩き出した。アリシアが先に声をかける。


「所長、おはようございます!」アリシアは明るい声で所長に話しかけた。「今日の授業で分からないことがあって、少し教えていただけますか?」


所長はいつも通り無愛想な顔をしていたが、アリシアの知的な質問に対して多少の興味を示した。「なんだ、分からないこととは?」


アリシアは笑顔で「黒魔法についての教科書の一部が難しかったんです。具体的には…」と話しながら、所長の注意を完全に引きつけた。彼女は所長が自分の話に集中している隙を見て、レオンハルトに合図を送った。


その合図を受け取ったレオンハルトは、ゆっくりと所長の後ろに回り込む。所長がアリシアに集中している間に、彼は慎重に所長のコートポケットに手を伸ばした。


(落ち着け…一瞬でやるんだ)レオンハルトは自分に言い聞かせながら、指先で鍵に触れる。所長の動きが少しでも変わったら、その瞬間に計画は台無しだ。彼は息を止め、鍵を掴むと、ゆっくりとポケットから引き抜いた。


(よし、成功だ…!)


鍵がポケットから抜け出た瞬間、レオンハルトはさりげなく後ろに下がり、アリシアのいる方向とは反対側へ素早く離れた。


アリシアは所長がまだ話に夢中なうちに、自然な感じで会話を終わらせた。「そうなんですね!ありがとうございます、所長。もう少し自分で考えてみます」


所長は少し満足そうに頷き、「しっかり学ぶことだな」と言い、再び朝食に戻った。


二人は食堂の隅で再び合流した。レオンハルトは鍵をポケットから取り出し、アリシアに見せた。


「成功だ」彼は小声で言った。


アリシアはニヤリと笑い、「よくやったわね。これで所長室に侵入できるわ」と答えた。


「次は今夜、所長が寝ている間に忍び込んで、錬成回路を盗むんだ。これがうまくいけば、脱出計画も一歩進む」レオンハルトは鍵を握りしめ、次の計画に向けて意志を固めた。


「失敗は許されない。これが最後のチャンスよ、レオンハルト」アリシアは慎重に言ったが、その瞳には決意の光が宿っていた。


その日の昼、アリシアは所長室の鍵を握りしめ、忍び足で廊下を進んでいた。レオンハルトは彼女の後ろで様子を見守り、いつでもサポートできるように待機していた。所長室の鍵を盗むことには成功したが、侵入する際の警備員が大きな障害だった。


「今だな…」レオンハルトはアリシアに合図を送り、彼女はそっと所長室の扉に近づいた。


だがその瞬間、遠くから警備員の足音が近づいてくるのが聞こえた。レオンハルトは一瞬緊張し、どうやって注意を逸らすか頭をフル回転させた。


(ここで見つかったら終わりだ…どうする…)


その時、彼の頭にふとソーラン節のリズムが浮かんだ。転生前の世界、日本で覚えた踊りだ。奇妙な考えが彼の中で形を取り始めた。


(そうだ…これしかない!)


レオンハルトはすばやくアリシアに目配せし、警備員の方へと歩み出た。


「よし、やるしかないな…」


警備員がレオンハルトに気づいた瞬間、彼は大きく両腕を振り上げ、突然大声で叫びながら踊り始めた。


「ソーラン!ソーラン!」


警備員は目を丸くし、立ち止まってレオンハルトをじっと見た。何が起こっているのか、まったく理解できない様子だった。


レオンハルトは勢いよくステップを踏み、両腕を上下に大きく振りながら続けた。


「ヤーレン!ソーラン!ハイ!ハイ!」


警備員は完全に面食らい、目の前で突然始まった奇妙なパフォーマンスに唖然としていた。「え、な、何やってるんだお前は…?」


レオンハルトは構わず、さらに踊りのテンションを上げ、力強くソーラン節を披露し続けた。足を高く上げ、勢いよく手を振り、まるでステージでパフォーマンスをしているかのように全力で踊った。


警備員は困惑しながらも、完全にレオンハルトの動きに釘付けになった。何を言っていいのかもわからないまま、ただその奇妙な踊りを見つめるしかなかった。


その間、アリシアは無事に所長室の鍵を開け、素早く中に滑り込んだ。


(よし…!アリシアは中に入った…)


レオンハルトは踊りを続けながら、さらに警備員の注意を引き付けた。「どうだ、俺の特別なダンスだ!楽しいだろう?」


警備員は頭をかきながら、「いや、楽しそうだが…こんな昼間に踊るものか…?」と困惑した顔でつぶやいた。


レオンハルトは笑顔を作りながら、「気にしないで!踊りはいつだってできるんだよ!」と叫び、さらに大きな動きで踊り続けた。


その間に、アリシアは所長室で錬成回路を手に入れ、無事に外へと戻ってきた。彼女が無言で合図を送り、レオンハルトは踊りを徐々にフェードアウトさせた。


「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ!またな!」と最後に声をかけ、警備員に手を振りながら走り去った。


警備員は呆然としたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。「一体、何だったんだ…?」


レオンハルトとアリシアは再び合流し、回路を無事に手に入れたことを確認した。レオンハルトは息を切らしながらも、成功に満足そうだった。


「よくやったわ、レオンハルト。あなたの踊りのおかげで、警備員は全然気づかなかったわ」アリシアが笑顔で言った。


「俺も自分がこんなに踊れるとは思わなかったよ…でも、成功してよかった」レオンハルトはほっと一息つきながら、二人は無事に所長室侵入計画を達成したことを確認した。


これで、脱出計画の次のステップが一歩進んだのだった。


所長室への侵入が無事に成功し、錬成回路を手に入れたレオンハルトとアリシアは、廊下で合流してほっと一息ついた。回路は手に入れたが、問題はまだ残っていた。鍵をどうするかだ。


「このままだと、すぐにバレるわね」とアリシアが小声で呟く。


レオンハルトは、所長の部屋に鍵を戻すことが時間的に不可能だと悟り、少し考え込んだ。そして、彼の顔に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。


「なら、リカルドのポケットに入れてしまおう」レオンハルトは軽い調子で提案した。


「リカルド?あのガキ大将の?」アリシアは驚きつつも、そのアイデアにすぐに納得した。「うふふ、それなら所長に怒られるのは彼だものね。いいわ、やりましょう」


その日の読書時間前、リカルドはいつものように仲間たちとふざけあっていた。レオンハルトはその隙を狙い、そっと彼の背後に近づいた。リカルドが笑いながら仲間に話しかけている間に、レオンハルトはすばやくポケットに手を伸ばし、所長の鍵をリカルドのズボンに滑り込ませた。


「これで大丈夫だ」レオンハルトは静かにアリシアのもとに戻り、ニヤリと微笑んだ。


その夜、就寝前に所長が子供たちを集めて、点呼を行った。所長はどこか不機嫌そうに立っていた。


「今夜、私の鍵がなくなった。全員、持ち物をチェックする!」所長は鋭い目で子供たちを見回し、順番に持ち物検査を始めた。


レオンハルトとアリシアは、自分たちの順番が来る前に顔を見合わせ、緊張感を抑えながらもニヤニヤと笑った。アリシアは少し顔を背けながら微笑んだが、その仕草がどこか可愛らしく、レオンハルトの胸が軽く高鳴った。


(なんだか、アリシアってやっぱり可愛いんだな…)


その考えを頭の片隅に押しやりながら、レオンハルトは冷静さを保った。


そして、ついに所長はリカルドの前に立った。リカルドは何も知らない様子で堂々としていたが、所長が彼のポケットに手を突っ込むと、その表情が一変した。


「こ、これだ!」所長はリカルドのポケットから鍵を取り出し、鋭い声で言った。「リカルド!なぜ私の鍵を持っている!」


リカルドは完全に驚き、目を見開いて所長を見つめた。「え、え?俺じゃない!なんで俺が鍵を…」


「言い訳はするな!お前は罰として、一週間掃除当番だ!」所長はリカルドを厳しく叱りつけた。


リカルドは口をパクパクさせ、何も言えないまま混乱していた。


その様子を遠巻きに見ていたレオンハルトとアリシアは、声を出さないように必死に笑いをこらえていた。


「やっぱり、うまくいったわね」とアリシアがニヤニヤしながら言った。


「完璧だな」レオンハルトも満足そうに頷いた。


二人は顔を見合わせて再び笑ったが、その時、レオンハルトはアリシアの無邪気な笑顔がどこか愛らしいと感じた。彼女の細い体と、大きな瞳がますます魅力的に見えてきた。


(アリシアって、やっぱり…可愛いな)


その瞬間、レオンハルトは少し戸惑いを感じながらも、何とかその感情を振り払おうとした。


「さて、これで錬成回路を使う準備はできた。次のステップに進もうか」レオンハルトは少し真剣な顔に戻り、アリシアに言った。


アリシアは頷き、「ええ、これでいよいよ脱出計画が進むわね」と返した。


二人は再び計画の続きを練り始め、これからの行動に向けて次の一歩を踏み出すことにした。

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