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第11話 神域の黒魔術師

3日後の夜、レオンハルトとアリシアは、緊張感を漂わせながら周囲を警戒していた。精神障害者エリアに向かうため、二人は教育所内の裏手にある小道を慎重に進んでいた。あたりは暗く、夜の静寂の中、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。


「結界の隙間は…確かこのあたりにあるはず…」レオンハルトは囁きながら、結界が張られている場所を目を凝らして探し始めた。


アリシアが横で見守りながら、小さな声で言った。「もう少し慎重にね。見つかるわけにはいかないから」


レオンハルトが手をかざすと、結界の微かな揺らぎが見えた。魔力探知のタイミングを計算し、事前の計画通りに結界の隙間が現れるのを確認した。


「ここだ、タイミングを見て…今だ!」レオンハルトはアリシアに手を差し伸べ、結界の隙間に二人で飛び込んだ。


二人は暗い通路を進んでいたが、次第に遠くから足音が聞こえてくるのに気付いた。


「警備だ…隠れろ!」レオンハルトが低い声で警告する。


近くに物陰はない。二人は壁に背をぴったりと押し当て、まるで影のようにひっそりと息を潜めた。足音が徐々に近づいてくる。心臓の鼓動が速くなる。冷や汗が流れるのを感じながら、アリシアの手がレオンハルトの腕に軽く触れた。


「ここまで来たんだから、絶対に見つかるわけにはいかない…」アリシアは囁き声で言った。


二人は身を寄せ合い、警備が目の前を通り過ぎるまでじっと待った。足音が遠ざかった瞬間、レオンハルトは短く息を吐き、そっとアリシアに目配せをした。


「今だ、進もう」レオンハルトは彼女に小声で合図し、慎重に歩みを再開した。


最深部の独房にたどり着いたとき、レオンハルトの胸に一抹の不安が走った。この扉の向こうに、彼が会いたがっていた神域の黒魔術師がいる。アリシアも、じっと扉を見つめていた。


「ここだ…」レオンハルトが呟くと、アリシアが頷いた。


扉を開けた瞬間、重い空気が二人を包んだ。部屋の奥には、一人の老人がうずくまっていた。髪は白く、痩せこけた体がその衰えを物語っているが、目だけは異様に鋭く光っていた。彼が神域の黒魔術師であることは一目で分かった。


「……誰だ…ここに来る者は久しぶりだな…」老人はかすれた声でつぶやいた。虚ろながらも、その目には何かを見透かす力強さがあった。


レオンハルトは一歩前に進み、静かに言った。「俺たちは力を求めてここに来た。あなたの知恵を借りたい」


老人は少し黙り込み、ふと笑いを漏らした。「力、だと…力なんてのは、ただの幻影に過ぎん…。ああ、幻影だ…何も…すべて…」


突然、彼の言葉が支離滅裂になった。レオンハルトは戸惑いながらも、老人の言葉に耳を傾けた。アリシアが小声で「精神が崩壊してる…」と囁いた。


しかし、しばらくして老人は急に静かになり、再びレオンハルトを見つめた。


「シンクロ率…それこそが、ギアとお前を繋ぐ真実だ。シンクロ率を高めれば、お前の魔法はただの術式から、存在そのものの力へと変わる…」


レオンハルトは真剣に老人の言葉を聞いた。


「シンクロ率が高まることで、ギアとお前が一つになる。力を引き出すには、自分とギアの間に信頼を築け。それが魔法の発動速度、精度、威力をすべて変えるのだ」


レオンハルトは無言で頷いた。シンクロ率について以前から興味はあったが、これほどまでに重要な要素だとは理解していなかった。


老人はまた笑い声を上げた。「だが、シンクロ率を高めるには…何かを捨てる覚悟がいる…その代償を、払う覚悟はあるか?」


レオンハルトは迷いもせず、強く頷いた。


老人は床の脇に置かれた小さな箱を取り出し、中から古びたサーキュス・ギアを取り出してレオンハルトに手渡した。


「これは…プロトタイプだ。今のものよりも遥かに古いが、真の力を秘めている」


レオンハルトはそのギアを受け取り、重さを感じた。それはただの物理的な重さではなく、何か大きな力が宿っているような感覚が伝わってきた。


さらに老人は、炎、水、土の回路を手渡した。「これらは…お前が最初に使うべきものだ。今はまだ…お前にその力を扱う資格はないかもしれんが…使ってみろ…」


「なぜ、俺にこれを?」レオンハルトは思わず問いかけた。


老人は静かに微笑んだ。「お前は、俺のようにはならない。俺の魔法は黒く染まりすぎたが…お前はまだ道を選べる。俺の役目は終わった…」


その言葉を最後に、老人はゆっくりと目を閉じた。


「これで…終わりだ…」


レオンハルトは老人から渡されたプロトタイプのサーキュス・ギアを握りしめ、静かに見守った。しかし、その瞬間、部屋中に規則正しいいびきが響き始めた。


「……えっ?」レオンハルトは目を瞬かせた。


確かに、老人は大層な言葉を残していたが、そのいびきが部屋に響いている。完全に熟睡してしまったようだった。


レオンハルトはしばらく呆然と立ち尽くしてから、肩をすくめて小声でつぶやいた。「寝ただけかよ…」


アリシアが思わず吹き出しそうになるのをこらえ、レオンハルトに目を向けた。「さ、行きましょう。彼、まだしばらくは起きそうにないしね」


「まったくだな…」レオンハルトは苦笑いを浮かべ、プロトタイプのサーキュス・ギアを握り直し、老人に最後の一瞥を送った。そしてアリシアと共に、静かに部屋を後にした。


静かな夜、子供エリアに戻ったレオンハルトとアリシアは、脱出の準備を進めるために話し合っていた。レオンハルトは手に入れたプロトタイプのサーキュス・ギアをじっと見つめ、興奮を抑えきれない様子で、アリシアもその様子をじっと見守っていた。


「これが…プロトタイプか…」レオンハルトは声を落としながらつぶやき、ギアの液晶画面に指を滑らせた。


「古そうだけど、まだ動くの?」アリシアが興味深そうに尋ねた。


レオンハルトは少し考え、横にあるボタンを10秒以上長押ししてみた。すると、突然画面がピカッと光り、メンテナンス画面が表示された。


「これ…メンテナンス画面だ!」レオンハルトは驚きの声を上げた。「普通のサーキュス・ギアじゃ、こんな簡単に見れるものじゃない…!」


「すごいわね。それで、何ができるの?」アリシアは彼の肩越しに覗き込みながら聞いた。


「メンテナンス画面では、入力端子を使って信号を送れば、内部情報が見れるかもしれない。もし解析できれば、このギアの仕組みを解明できるんだ!」レオンハルトはますます興奮し、画面を操作しようとしたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「でも、それには錬成回路が必要になるんだ…」レオンハルトは手を止め、深く息を吐いた。


「錬成回路なら、所長室にあるわ。私、棚の奥にいくつか置いてあるのを見たことがあるの」とアリシアが思い出したように言った。


「所長室か…」レオンハルトは眉をひそめた。所長は厳格で、彼らがサーキュス・ギアを持っていることを知れば、ただでは済まないだろう。錬成回路を「借りる」ことなど、到底不可能だった。


「所長が俺たちの動きを怪しんだら、一瞬で全てが終わる。だから、正面から頼むのは無理だな…」レオンハルトはため息をついた。


「ええ、彼の警戒心は強いわ。何か企んでいると感じられたら、すぐに動くはずよ」とアリシアも同意した。


「結局…奪うしかないか」レオンハルトは低く呟いた。


アリシアは一瞬驚いたが、すぐに冷静に頷いた。「奪う…ね。リスクは高いけど、他に方法はない。回路を手に入れなければ、プロトタイプを活かせないもの」


「でも、どうやって所長室に侵入するんだ?警備も厳重だし、鍵もかかってるはずだろう」


アリシアは少し微笑んだ。「それなら任せて。所長が部屋を離れる時間と、警備の巡回パターンを把握してるの。タイミングさえ合えば、鍵を外して回路を取ることはできるわ」


レオンハルトは驚きながらも、アリシアの冷静な顔を見て、彼女が既に準備を進めていたことに気づいた。「君がそこまで計画してたなんて…でも、リスクが大きい。失敗したらどうする?」


「失敗は許されないわね。でも、慎重に動けば大丈夫よ。所長が部屋を離れるのは1日のうちでも限られた時間しかないから、その隙を狙うの」アリシアは目を細め、冷静に話した。


レオンハルトは彼女の言葉に真剣に耳を傾け、決意を新たにした。「わかった。君に任せる。俺も手伝えることがあれば、すぐに動くよ」


アリシアは頷き、「チャンスは一度しかないから、慎重に動きましょう」と言い、計画は具体的に進んでいった。

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