第0話 もしかして攫われています?
ガタンっと地面が大きく揺れ意識が浮上しました。
これは地震!
身構えていると、規則的にガタガタと揺れているので、違ったようです。もしかして馬車の中ですか?
しかし目を開けている筈ですのに真っ暗です。それにとても硬い座面ですわ。まるで床に寝転がっているかのよう……もしかして、馬車の中で寝てしまって床に倒れてしまいました?
なんてことでしょう!
慌てて身を起こそうとしても、全く動けません。おかしいですわ。
どうも手は後ろで固定されているようです。声を上げようにもくぐもった声が漏れるだけですので、猿ぐつわでもされているのでしょう。
足を伸ばすと足と頭が壁にぶつかりますので、かなり狭いところのようです。
これはまさか、世に云う誘拐というものですか?
凄くドキドキしてきました。大変困ったことになっているようです。
あ、これは私の状況ということではなく、それ以外がという意味です。
なんと言いますか……二次被害が起こっていると思われます。
さっさと、ここから出たほうが得策ですわね。
後ろ手に縛っている物を強引に引きちぎろうとしても切れません。まぁ、当たり前ですわね。
だったら、焼き切ればいいのです。
火の刃を出す魔術を施工すれば、大概の紐は切れるでしょう。たとえ猿ぐつわされて声が出せなくても、無詠唱でいけますので、問題ないですわ。
「……ぅ?」
……まさか魔力封じの手枷ですか! 魔力が手のひらの上に集まる様子が感じられません! なんてことでしょう!
はぁ、私が本気で邪魔だと行動に移したのでしょう。いったい何方様でしょうね。ここまで、手の込んだことをなさる方は。
何人か顔が浮かんできましたが、これは予想でしかありません。
ウダウダと考えても、どうしようもないので、このまま寝てしまいましょう。恐らく迎えはくると思いますから……と考えていましたら外が騒がしくなってきました。
怒声や悲鳴が聞こえてきます。
段々と近づいてきました。
そして騎獣でしょうか? 嘶きが聞こえて、地面がガタンと大きく揺れ、胃がふわっと浮き上がる感覚に襲われました。
この浮遊感……もしかして、馬車ごと落下しています?
これは流石に駄目ですわ。両足で箱の側面を蹴ってみますがびくともしません。
身体をねじって反動をつけてみますが、私の力では軋みひとつ与えられない。
はぁ。なんと短い人生だったのでしょう。今までのことが走馬灯のように……流れてきませんわね。
そもそもなぜ、このような状況になっているのですか!
今日は確か、皇妃様主催のお茶会が行われるため、皇城に出向いたはずでしたのに! あの馬鹿が……失礼しました。
婚約者が邪魔をしてきたのです。