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69:礼をしたいな、色々と / side 久遠蓮生


◇◇◇◇◇


 毒キノコ(仮)については、遅れてやって来た朱羅と管理人によって、ピンク色の食用キノコの存在を教えられた。鈴が食べきれない分をお土産として実物を持ち帰ったお陰で判断できたのだ。


 なぜ鷲族である朱羅がキノコに詳しいのかと思えば、鈴が狩りが出来ない子供の頃、手持無沙汰でその辺に生えているキノコを採り出したことが始まりだと陽は言った。

 

「キノコはあんま好んで食わねぇから、誰も詳しくなくてよ。だから採った物が食用なのか毒なのか判別がつかねぇってことで、そん時は全部処分したんだ。だけど鈴がその後部屋に籠って一人で泣いててさ。そんで朱羅がキノコの勉強をし出したんだ」

「べ、別に泣いてなんかないしっ!」


 今後同じことが起きないよう、すぐにでもキノコを勉強しよう。


「食用もそうだが、毒性のあるものも同時に学べば、いつかなにかの役に立つだろうと判断してのことだよ。結果こうして役に立ったわけだしね」

「朱羅兄、毒なんて使うことがあるの?」

「なに、備えるに越したことはないと言う意味だよ」



(備える、ね……)




 あれは謹慎中に進捗状況を確認に出仕した日のことだ――


 


 この国では奴隷売買は禁止されているが、その中でも獣人を他国の、それも人族至上主義のアグリード帝国へ売ることは重罪で、極刑は免れない。

 人族よりも力が強い獣人族ではあっても、小型種や子供などはまだそこまでではなく、多勢に取り囲まれてしまえば敵わない。攫った後は思考判断能力を低下させる薬を投与され続け、奴隷として、人権など与えられず家畜以下の扱いを死ぬまで受けることになる。また、男子は戦闘奴隷とされ、戦争で前線に駆り出され、最後は肉壁として使い捨てる。


 長期間薬漬けにされ、洗脳された者は、もう二度と元には戻らない。廃人のようになってしまうだけだ。


 俺が謹慎の間に判明した犯行計画は、彼女には絶対に聞かせられない内容ばかりだった。今回鈴が狙われたのは偶然ではなく、彼女が俺の弱点であることと、朱羅が鈴を特別視することへの反発だったのだ。


 グルゥゥ……


 抑えきれず、低く地を這うような唸り声が漏れた。


(あの時加減などせず、全員消してしまえば良かった)


 正直、あの現場に彼女がいなければそうしていたかもしれない。ギリギリを保てていたのは、彼女を血溜まりの中に置きたくはなかったし、精神的外傷(トラウマ)を更に抱えるような光景を見せたくはなかったからだ。


「暑苦しい威圧は抑えて貰えないかな? 残念だけど、彼らはもういないのだから」

「……刑の執行が早まったのか?」


 例の誘拐事件での主犯格やその大元など、取り調べが終わり、極刑が確定していた一部の囚人が行方知れずとなっているとここへ来るまでにも耳にしたが、その割に朱雀隊以外はどの部隊も落ち着いた様子であることが不思議だった。

 

「君も耳にしているだろう? 脱走だよ。だが、心配せずとも鈴に暴力を振るった者も、あの場に居合わせた者も、もう二度と視界に入ることはない……まぁ、これはただの勘、だけどね」

「本当にただの勘なのか?」


 彼はその時を思い出したかのように、フッと片方の口角を上げた。


「地下牢で不穏な情報を耳にしてね。食事を下げる時に敢えて彼らに逃げられる隙を作らせ、そのまま泳がせることにしたのだよ」

「なぜ泳がせた?」

「彼らが言うには、ちょうどかの国と国境を分けているあの山に仲間が迎えに来るらしくてね。そこへ別件だが、たまたまあの山の麓付近に規模はまだ小さいが魔虫の巣穴が確認されて、魔虫ごと駆除せよと伝令があった。貴殿は謹慎中だったし、二人分働くと言った以上、何かしら役に立たねばならないと思って私が動いたわけだ」

「それは、すまなかった……」


 朱羅がやれやれと肩を竦める。


「冗談も通じないのかい? 残念ながら、罪人には鳥獣人が多く含まれていたからね。火神の統率が甘過ぎたと言うことだし、ケリはこちらでつけたかったと言うのもある。彼らの痕跡は殺気立った肉食魔虫のいる巣穴まで。巣穴の奥は入り組んではいない、出入り口は一ヶ所。そして我々は巣穴の魔虫を()()()()()()……これが全てだ」


 もちろん、救援などあるはずもなく――結局のところ、彼らも駒の一つでしかなかったと言うのに、愚かなことをと、言葉とは裏腹に悔しさを滲ませていた。


 法に触れてもいるが、種族の掟でも裏切り行為に対する制裁は厳しい。


 火神の当主はまだ彼の父親。つまり、次期当主である朱羅は甘くはない、舐めるなと周知させ、部隊副隊長としてもきっちりと落とし前をつけたと言うことだろう。


(鈴が危惧していたことは確かに間違っていない)


 獣人は強者に従う傾向にあるし、強者には強者をあてがいたいと思う者も多い。当然彼女のことは全力で守る構えでいるが、安全な檻の中で囲い込めないのなら自衛出来るに越したことはない。だけど――


「蓮生さん」

「!」


 思考の海に浸っていると、彼女に袖を引かれ意識が戻った。


「どうかしたんですか? ヌッシーはもう行っちゃいましたよ」

「ヌッシー……そうだ、どうしてあれの名前がヌッシーなんだ?」

「それがですね、名前を聞いたら『ヌゥゥ、シィィ』ってしゃべったんです! 賢いヤギですよねぇ。『ヌッシーって名前なの?』って返したら、鼻をフンと鳴らしたので『そうだ』って言ったのかなって。私もピスケとの交流のお陰で、結構野生種の言葉がわかってきたのかもしれません!」

「なぁにが『わかってきた』だ、オマエはなんもわかってねぇよ、バカ鈴!!」

「イタッ!」


 割り入った陽が鈴へとデコピンを食らわせた。


「オマエはなんだあの短ぇ手紙といい、最後の崖といいヌッシーといい、どれだけオレ達が心配したと思ってんだ!」

「ええ……だって手紙が重いとピスケが飛びにくいと思ったし、一言でも良いから無事を知らせろって陽兄が、イタッ!」


 鈴は再度デコピンされ、思わず両手でおでこを押さえた。


「だからって、本当に毎日毎日短ぇ文章ばっかり書く奴があるかっ!」

「理不尽!」

「陽、もうその辺でやめてくれ。可哀想に……赤くなってるじゃないか」


 治癒のつもりで赤くなった額へ口付けようとしたところで『あっ!』と彼女が声を上げた。


「鈴、どうしたんだ?」

「蓮生さん、ちょっと降ろして下さい」

「もう降りるのか? このまま小屋まで運ぼうと思っていたのに……」

「そうじゃなくて、そろそろ出してあげないと……すみません、ちょっとリュックを持っていて下さい」

「リュック? ああ、いいけど」


 久し振りの再開だから、降りたら次は抱擁でもしようかと差し出した手には荷物が載せられてしまった。


「ピスケのこと、うっかりしてました。早く出してあげなきゃ」

「出すって、ピスケはどうした?」

「寝袋の帽子(フード)にでも入れているのかい?」

「今出すね……ピスケ~大丈夫? 潰れてない?」


 潰れるとはどういった状況だろうか? 彼女は自身の身体に向かって呼び掛けている。

 

 そのまま鈴を見ていると、寝袋の上半身部分のみ脱ぎ、夜着として着ていたのだろう簡素なチャンパオのボタンをプチプチと三つほど外しだした。男性陣は皆視線を逸らしたが、寝袋を脱いだ時に見えたボタンの外れていた個所は、どうやら敢えて開けていたらしい。



 そして現れたのは、あろうことか彼女の胸元の谷間部分にギュッと挟まっているピスケ……



「「「……」」」



 は? ずっとコイツはそこに挟まっていたのか?


 これには俺以外の二人もピシリと固まった。普段、動揺を見せない朱羅ですら見たことがない表情をしているが、俺も果たして笑えているだろうか? こめかみの血管はビキビキとおかしな音を立てている。



「ピュヒッ!! ピィ……(ぶはぁ!! いくらここが柔らかいって言ったって、こんなにムギュッと挟まれてたら、オイラ窒息して死んじゃ、う……あー……ヤバ。ホントに死んだかも。今すぐ気絶したいや)」


「見て! この通り、大事なピスケはしっかり守ったよ! もうね、ピスケは私の心の支えだったし、ピスケがいたから頑張れたんだ。だから陽兄からもたくさん労ってあげてね」


 心の支えも、頑張れたのも、胸の谷間に挟まれるのもピスケ? 鈴、俺は? 全く心の支えにもなれなかったのか? 特別なのはピスケの方なのか?


「……そうだな、()()()()()労っておくわ」

「陽、私からもぜひ後ほど()()()()()ものだな。勲章でもつけてあげようかな、()()

「ピスケ、(冥途の)土産話もあるのだろう? 話を聞きつつ、俺も礼をしたいな、()()()


 陽と朱羅はボキボキと指を鳴らし、準備体操を始めている。

 

 俺は真綿を絞めるように、ゆっっっくりと威圧を掛けた。


「ピスケ、勲章だって! 良かったねぇ、一杯頑張ったからきっとご褒美も貰えるよ!」

「ピッ……ピィー(貰えるのは……いや、なんでもない)」



◇◇◇


 

 山小屋で鈴は久々の風呂にはしゃぎつつも、サッと身支度を整え出てきた。


 朱羅が手配していた馬車が到着するまでの間、全員が気になっていた、なぜ寝袋を着たまま主に跨っていたのか聞いた。鈴は寝ていたところをツガイのヤギに叩き起こされ、身振りでなんとなく主の背中に乗れと言われているようだと気付いたとか。

 急かされるままに慌てていたせいで寝袋を着たまま荷物を背負い、あとはずっと緊張したまま振り落とされないよう、身体強化をかけて掴まっていてギリギリの状態だったと言う。


 ある程度話し切ると、安心したせいか眠気が襲って来ていたようだ。そのまま小さな子供の様に急にカクンと寝てしまった。きっと疲労が溜まっているのだろう。


 寝ている間に移動は済ませておこうとなり、帰りは朱羅が用意しておいた馬車に四人で乗り込んだ。獣人はほぼ使用しない為、かえって新鮮だ。


 そんな新鮮な気持ちなど一瞬で吹き飛ぶひと悶着が――



 どう考えても鈴は俺の膝枕か俺の膝の上抱っこだろうと思うのに、俺の隣には陽が座っている……おかしい。



「朱羅、この配置はどう考えてもおかしいだろう? 俺が荷物を積み込んでいる間に勝手に連れ出すのもどうかと思うが、それでも馬車に乗り込んだら俺へ彼女を預けるのが普通ではないか?」


 恋人は俺なのに、朱羅が獣化させた羽でふわりと鈴を包んでいるのはなぜだ? 鈴も心なしか幸せそうな寝顔だし。いや寝顔に罪はないが……


「普通? おかしなことを言う。判定は管理人が行った簡易的なもので、鈴蘭は久遠家に提出前。ということは、まだ正式な婚約者でもないわけだろう? 久遠殿は婚約後は鈴を独占するのだろうし、今くらいは心配で協力を買って出た身内に譲ってくれてもいいとは思わないかい? ふふ、それとも鈴から愛されている自信がないのかな?」

「くっ……!」

「蓮生、諦めろ。口で朱羅には勝てねぇよ。そもそも馬車も朱羅が手配したやつだしな。やり合うよりも鈴蘭渡してとっとと婚約しちまった方が早い」


 早く会いたいことを優先した結果、色々と配慮しておかなければならないことを失念していた。

 

 実際、俺は鈴が疲れていても抱っこかおぶって帰ろうと考えていたが、考えてみたらそれは彼女が嫌がるだろう。


 二人は俺よりも遅かったが、朱羅はこうした手配を済ませていたのだろうし、陽も伝達系統は済ませていた。おそらく鈴のご両親にも全て伝わっている頃だろう。


 普段は冷静に物事を見れるのに、鈴のこととなると本当に思った通りにいかないし、格好悪いところばかりだ。


(鈴に会うことしか考えられていなかった俺とは大違いだ)


 幼い頃から彼女と過ごして来た二人には感謝もあるが、それ以上に嫉妬心や羨望の方が大きい。俺だってできれば鈴が赤ちゃんの頃から一緒に過ごしたかった。

 

 そして初めからベタベタに甘やかして、俺以外に目移りなんてしないように――いや、駄目だ。身内枠に入りたいわけじゃない。

 この二人が今の鈴を形成したと思って感謝の気持ちを持たなければ。


 持たなければ、耐えられない。


「おーおー、朱羅もここぞとばかりに……」

「朱羅! いくら身内でも、」


 性格の悪い朱羅は『臭いヤギと狼の臭いは消さないとね』と言って、鈴の髪に頬ずりをしていた。俺の鈴に触れているのに、朱羅を投げ飛ばさないのは借りがあることと、鈴の身内だからに他ならない。それに馬車を破壊しかねない。


「うるさいな。鈴が起きてしまったらどうするんだい?」

「ぐっ……」


 可能ならば焼き鳥にしてしまいたい。



 鈴、早く起きてくれ!



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