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65:三歩進んで二歩下がる


******


 ピスケが若干ゼーハーしながら戻って来た。


 降り立つ時は必死の形相に見えて、思わず後ろに引いてしまうくらい、鬼気迫っていた。


「ピスケ! 大丈夫!? ごめんね、もう少し早めに書けば良かったよね。暗くなる前にって急いで帰って来たの?」

「ヂュ、ギィギィ……(ち、違う。『手紙が短過ぎだ!』と怒られて、様子とかアレコレ報告させられたから遅くなったんだ)」


「と、とりあえずお水と……あとゴマもいるよね!」

「ピィ……(水はありがたいけど、オイラは柔らかいパンが……ハァ、またゴマか)」


 こんなに身体が小さい子に、初日から無理をさせてしまったと大いに反省。これでも少し早い設営かと思っていたけど、次はもっと明るい内から設営して手紙も用意しなければ駄目だ。

 

 薄暗くなっていく中、目を凝らしに凝らして必死に飛んできたのだと思うと、本当に申し訳ない気持ちで一杯である。

 

 今の私にはピスケの存在が孤独を埋めてくれる唯一の存在なのだ。何を言っているのかわからなくても、なんとなくこう言ってるんじゃないかと通じ合うものがある気がする――多分。


 とりあえずピスケを労う為に密かに用意しておいた鳥用ブラシで優しく撫でてあげた。


「ピスケ、一緒について来てくれてありがとう。交渉してくれた陽兄にも感謝だよ」

「ピッ……ピューィ……(何このブラシ……めちゃくちゃ癒される……気持ちいぃ~)」


 二人の心は一日目にしてグッと近付いた。



***



 登山二日目。

 

 天気にも恵まれ、今日も良い登山日和だ。


 山の天気は変わりやすいと言うし、私は陽兄みたいに天気は読めない。ピスケは読めるのかな? 試しにピスケに『雨降るかなぁ?』と聞いても『降るかも』と言っているのか『降らないよ』と言っているのかの差はわからないので、聞くのは無駄と言うことだけはわかった。


 ただ、昨日のピスケのことがあるので、気持ち歩を早めて進む。


 いくら大きく蛇行しながら登っているとはいっても、上に近付けばそれだけ傾斜は増えていくわけで。


「ハァ、づかれだぁ……私ってホントに登山が向いてないなぁ。でもこの調子なら、なんとか目標のところまで間に合う?」


 見上げれば雪の混じった景色も見えるけど、距離としてはもう少し先だろう。だけど()()()()()()()だいぶ順調に進めている、と信じたい。


 ここで鈴蘭を採取して戻れば、なんの憂いもなく交際、婚約、結婚と認めて貰える。


 初めは弱い人族だし、身内が凄くても私自身は大した取り柄もない。前世云々はともかく、事情を知らない側からすれば、ただ見初められたと言うだけでしかないのに本当に大丈夫なのだろうかと、むしろそちらの方を心配していた。

 心配してくれた蓮生さんには申し訳ないけれど、試験内容を聞いて『そんなことでいいの?』と思ったほどだった。


(まぁ、出発前に渡された試験の心得の手紙を読んで、この試験を行う意味は理解したけれど)


 あの時は蓮生さんは本当に駆け落ちしかねない勢いだったし、すぐに決断して良かったと思う。あのまま見守る体制に入っていたら親子間に亀裂が入り兼ねない状況だったと思う。


「ふぅ~もう、無理。ピスケ、今日はここまでにしよう。すぐに手紙を書くね」


 今は感覚的には午後二時頃過ぎ辺り。まだまだ全然明るいけれど、昨日のピスケの飛び方からすると、この位からゆとりを持って向かわせないと、ピスケの体力が持たないだろう。


 ペンを持ち、少し考え、サラサラと手紙を書いた。


≪今日も無事。ピスケは癒しです≫


 よし、これに尽きるだろう。


 端的にまとめつつも、ピスケの評価が上がるような一文を添えると言う、渾身の一枚をピスケに託す。


「ピィ……(また短い……)」

「気を付けてね!」


 ピスケは泣いているかのようなか細い声で鳴き、飛んで行った。どうやら感動させてしまったらしい。



 頂上に近くなればなるほど気温は下がる。ピスケは寒さに弱いだろうから、今の内に天幕内を温めておいてあげなければ!



***



 登山三日目。

 

 やはり昨日もピスケがヨロヨロのヘロヘロで戻って来たので、お水とパンをあげてブラッシングで労ったら、歌っているのかなと思うくらいピィピィ鳴いて踊っていた。

 

 きっと労いの気持ちが伝わったに違いない。


「ピスケ、今日は疲れないように肩に乗ってていいよ。多分、そろそろ雪のあるところに入ると思う」

「ヂュッ、ピピッ!(報告が精神的に疲れるんだよ。もっと長文で書くか、報告向きな独り言でも言ってよ)」

「うんうん。ピスケは寒さに弱いもんね。こういう時は私を頼って良いからね!」

「ギィィ……(話が通じないぃぃ)


 登り始めて二時間ほどすると、今まで一本道だったのに、ここにきて二手に道が分かれていた。ざっと見た感じでは左右どちらへ進んでもきっと山頂へは向かうと思うし、雪道も避けて通れる雰囲気ではない。


「ピスケ、こうして道が二手に分かれている時ってどうしたらいいと思う? それにどっちがどうだみたいな看板もないよね。実は密かに試されてる? 野生の勘があるかどうか、とか」

「ピッ、ピッ、チチ?(違うと思うぞ。看板が古くなって折れたんじゃないかな?)」


「だよねぇ。やっぱり、野生の勘の試練か……ここは一つ、棒が倒れた方で決めようかな」

「ピピッ、ピ!?(そんなもので決めちゃうの!?)」


 ピスケも『いいね、やっちゃえ!』と後押ししてくれているようだ。


 棒を真っ直ぐ立て、手を離すと、何とも微妙な角度――向きとしては北東みたいな。私が求めているのは左右どっちかなのに。まぁ、ざっくりでも右を差したのなら、それでいいかと右に向かう。

 


――三十分後、また道が二つに分かれていた。なんで!?



「さっきの道が間違えていたのかなぁ? でも景色は違うし、一応進んではいるよね。じゃあ次は左に行ってみようか、右はなんとなく傾斜がキツかったし」

「ピィ……(オイラの野生の勘では、右の方が良いような気がするけどなぁ……)」


 ピスケは右側にバサバサと飛び上がって、何か訴えてる風だ。なるほど、右は危険だって言ってるんだね!


『ピスケ、ありがとう! わかったよ』と頷き、確信を持って左の道へ進んだ。ピィピィ鳴いてるのは『わかってくれたんだね!』と言っているに違いない。だいぶ心が近づいた気がする。



――そして一時間後、トの字の分かれ道に足跡……と、転がる棒。



「ピスケ……これはもしかしなくても戻って来た、のかな? ここに残る足跡は私のもので、棒は……くっ、まだ記憶に新しい、私を右へと導いたあの棒だよね?」

「チチ……(そうだね……)」


 道理でなだらかで歩きやすいと思ったよ! 緩やかな傾斜で大回りに歩いていたからか、まさか下っているとは思わなかった。


 右の傾斜をまた行くか、二倍かかるけど、なだらかだった左を戻るか……

 

 結局、時短の為に右のルートを再度登り、さらに次も当然右を進んだ。同じ場所を二度も登ったという精神的ダメージを食らいつつも、なんとか真っ平とは言い難いけれど、本日の野営場所も決めることができた。


 遅くはなったけど、多分、明日には山頂には着けるだろう。登山は苦手だけど、アウトドアは今も昔も嫌いじゃない。

 それに、こうやって時間をかければ乗り越えられない山はないんだな、なんて感動しつつ、ピスケに急いで手紙を託す。


≪無事、雪のところまで到着!≫


「よし! ピスケ、これお願いね」

「……ピィ(……文才ないのか)」


 心無しか、すごく微妙な顔をしているようにも見えるけど、きっと寒いのだろう。そんな中でもピスケは文句も言わず持って行った。


「そう言えば、蓮生さんが用意してくれた手足付の寝袋。あれはホントに温かくて良かったぁ」


 それに、防水機能付きだ。


 帰る時なら、それを着てちょーっと滑ってみるくらいしても良いよね? ほんの三十分くらいしても誤差の範囲内よね?


 ここなら間違いなく見る者はいない。ピスケは同志なので問題なし。



 戻って来たピスケに、夕食の栄養補助食品を齧りながら提案したらもの凄く興奮していた。きっと若いピスケは興味深々に違いない。


「ピスケ、明日が楽しみだね!」

「ピィーピッピィィ!!(頼むから危ないことはするなよ!! ハル隊長がおっしゃっていたことを思い出せー!!)」

「わかってる、わかってる! はぁ~楽しみ過ぎて八時間くらいしか寝れないかも」

「ヂュッ!(絶対わかってない! って、八時間!? ぐっすりじゃん!)」


 魔石ランプを消し、今夜は早めに就寝である。



 明日はここまで私を支えてくれたピスケと一緒に、最高のフィナーレを飾るぞー!




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